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200匹の野生の犬が自転車に乗った12歳の少女を追いかけ、フルスピードでブダペストのストリートを駆け巡る。ハンガリーのコーネル・ムンドルッツォ監督による映画『ホワイトゴッド (White God)』の冒頭シーン。この映画は2014年カンヌ国際映画祭の「ある視点」賞を受賞し、現在、米国で劇場公開されている。

テレサ・アン・ミラーはアニマルトレーナーとして『ホワイト・ゴッド』のリード・キャラクター、ハーゲン役にニ匹一役の犬をキャスティングし、トレーニングを施した責任者だ。ルークとボディ、アリゾナ生まれの二匹の兄弟は、ハーゲンがどんなキャラクターか、彼女の指導で充分に理解したようだ。

彼女は、もともと父親のアニマル・トレーナー、カール・リー・ミラーの厳しい指導を受けてきた。父、ミラーは40年にわたり映像用に動物を訓練してきた人物で、動物がキーになる『ベイブ』『ベートーベン』『クジョー』等の映画で知られている。まるで娘かのように、ユニークでリアルなパフォーマンスを飼育動物から引き出すのが専門だ。私たちは娘のミラーに『ホワイトゴッド』の撮影について、トレーニングのプロセス、動物の演技のリアリティーについて話を聞いた。

200匹の犬が魅せる名演 『ホワイト・ゴッド』のアニマル・トレーナーに聞く 動物演技指導の秘訣 (1)

A scene from WHITE GOD, a Magnolia Pictures release. Photo courtesy of Magnolia Pictures.

キャスティングした犬たちにどういったトレーニングをしたのですか。 200から225匹の犬はすべて『ホワイト・ゴッド』で演技するのに向いていたんですか。

ブダペストで一緒に働いたコーディネーターは野良犬と飼い犬を、一緒に扱わなければなりませんでした。彼はアニマルシェルター(動物保護施設)の犬たちと飼い犬をコミュニケーションさせるため、週に数回、牧場に連れて行ってくれたんです。A地点からB地点まで走るらせるんです。犬たちは、特別な演技指導やコーチングを必要としていませんでした。AからBへと走るだけでしたから。

残りの他の犬たちとは違ってルークとボディはどんな訓練を受けたのですか。

マーリーン(犬をサポートする登場人物)とハーゲンは映画の中で特別な役を演じています。そのために特別なトレーニングが必要でした。野良犬のように、より自然に振る舞わせることに集中しました。通常の動物がフィーチャーされる映画との違いは、たくさんの動物が出演したことです。演技する犬たちが決まり事を教わり、決められた演技をこなす様が印象的でした。カメラ、クルー、美術など、犬たちが興味を示してしまう要素にかこまれながら、役者、スタッフと協働する術を教えました。そんな中、動物たちに役者や、他の動物たちとの共演方法を教えなければなりませんでした。エキストラとしての演技を教えるだけではなかったのです。

200匹の犬が魅せる名演 『ホワイト・ゴッド』のアニマル・トレーナーに聞く 動物演技指導の秘訣 (2)

Zsófia Psotta and Bodie in WHITE GOD, a Magnolia Pictures release. Photo courtesy of Magnolia Pictures.

ハーゲンとマーリーンは物語の中でとても重要なキャラクターですよね。彼らの複雑な感情の移り変わりは、ボディ・ランゲージだけで表現されていますが、犬たちの演技は親しみやすく人間のようで、彼らのドラマを理解するのが簡単でした。非常に興味深いポイントです。犬たちからをこれだけのパフォーマンスを引き出すために、どのくらい労力を割いたのですか。

犬たちのしたこと、リアクションはすべてそのときの私のペルソナの反映です。犬たちに、幸せで元気いっぱい走り回ることが求められれば、私が幸せそうに振る舞わなければなりません。犬たちが、深刻な演技を求められれば、私は神妙なトーンで「こっちに来て、スローダウンしてとどまり、うなだれてくれない」とお願いしました。犬たちは私の声のトーンとボディ・ランゲージに反応します。それはとてもパーソナルなもので、その時の私の感情に、敏感に反応してくれるんです。

200匹の犬が魅せる名演 『ホワイト・ゴッド』のアニマル・トレーナーに聞く 動物演技指導の秘訣 (3)

A scene from WHITE GOD, a Magnolia Pictures release. Photo courtesy of Magnolia Pictures.

ニ匹の犬の関係はどうでしたか。

とても愉快な二匹です。兄弟で、双子のような関係でした。同じ反応をし、同じような癖を持っていました。似たような格好をして、庭で寝転がっていたり、隣に座って鳥を眺めたりしているのです。二匹の関係をながめるのは、とても面白かったです。パーソナリティに関しては、そんなに違いはないです。 ボディーはとても控え目でストイック。思想家のようでした。ルークは完全な変わり者で、彼のやること全てが誇張されています。それがハーゲンというキャラクターを、本当に豊かにしています。個性豊かなキャラクターにするためにこそ、私は二匹の犬、二つの個性を扱ったんです。

特別なシーンの撮影のために、そのシーンに合った犬をキャスティングしたりしましたか。それから、リーダー格の犬がいたりしたんですか。

全ての犬を分け隔てなく訓練しました。トレーニングでの振舞を見れば、犬たちの個性がわかります。無邪気さが欲しければ、ルークを起用します。ストイックな演技が要求されればボディーを使います。うなり、思い切り歯をむき出しにしてくるようなシーンは、ルークがぴったりです。彼はボディより荒々しい振舞がうまいです。ボディーは歯を見せませんから、二匹はとてもバランスの取れた関係でした。

200匹の犬が魅せる名演 『ホワイト・ゴッド』のアニマル・トレーナーに聞く 動物演技指導の秘訣 (4)

Bodie in WHITE GOD, a Magnolia Pictures release. Photo courtesy of Magnolia Pictures.

粗暴な性格でない犬にも、暴力的な演技をさせたようですが、犬たちをどのように訓練したのですか。そして、暴力的なシーンの撮影後に、犬たちを再び社会に順応させることはできたのですか。

犬たちは私の作品であり、仕事であり、私のペットでした。1日24時間、週に7日間一緒にいたので、とても身近な存在でした。その上、彼らを落ち着かせるためには、ペット・オーナーとして安定した精神状態でいなければなりません。本当に重要なことは、100%、犬たちを落ち着かせておくことです。考えてみてください。12歳の少女との仕事ですから、乱暴な犬、情緒不安定な犬がいてはなりません。ただ、トレーニングの一部は、そんな演技をさせるためでしたけど。

200匹の犬が魅せる名演 『ホワイト・ゴッド』のアニマル・トレーナーに聞く 動物演技指導の秘訣 (5)

A scene from WHITE GOD, a Magnolia Pictures release. Photo courtesy of Magnolia Pictures.

ドッグファイトのためにどんなトレーニングしましたか。

トレーニングの猶予は2ヶ月。 1ヶ月はロサンゼルスで、ロトワイラー(大型警察犬)、その訓練士と共に過ごしました。アルビン・メアーズです。彼の専門はドッグファイトをさせることです。ルークは適任でした。 2匹の犬はじゃれ合い、格闘するのが大好きでした。ロトワイラーたちを紹介しましたが、闘技場だけでしか、彼らは遊ぶことはできませんでした。

残りの一ヶ月はブタペストです。美術さん一ヶ月かけてセットを組みましたから、犬たちはセットに慣れることができました。撮影の日には、犬たちの気が散ってしまう劇的な変化はないよう、気を使ってくれました。おかげで、1ヶ月間以上かけて犬たちをなだめ、楽しんで取っ組み合いをするよう指導できました。

200匹の犬が魅せる名演 『ホワイト・ゴッド』のアニマル・トレーナーに聞く 動物演技指導の秘訣 (6)

A scene from WHITE GOD, a Magnolia Pictures release. Photo courtesy of Magnolia Pictures.

そのシーンの撮影には何時間ぐらいかかりましたか。

撮影日が来て、約1週間ぐらいその場所で撮影していました。ドッグファイトのシーンには5日かかりました。2、3分で犬たちの集中力は切れてしまいます。クンクン周りを嗅ぎ回ったり、野生のアヒルや猫を探し回っているのが好きですから。そのため、5日間、1日2試合しか撮影できませんでした。朝、冷たい新鮮な空気の中で演技をさせ、うまく行けば彼らのシーンは終了で、残りを別のシーンにあてます。午後、時間が来たら撮影現場に戻り、夕方のセッションをします。そんな風でしたから、彼らは四六時中一緒にいたわけではありませんでした。5日間の撮影のために、5週間のトレーニングが必要でした。

200匹の犬が魅せる名演 『ホワイト・ゴッド』のアニマル・トレーナーに聞く 動物演技指導の秘訣 (7)

A scene from WHITE GOD, a Magnolia Pictures release. Photo courtesy of Magnolia Pictures.

とても忍耐力を必要とする撮影でしたね。

全く。ずいぶん時間がかかりました。

本当に長い時間でしたね。それにしても、本当に短期間で、犬たちと親密になれたのは驚きです。とてもいい演技を犬たちから引き出していますからね。撮影前のほんの数ヶ月、彼らと過ごしただけなんですよね。

一連の流れを考えれば本当に短い期間です。犬たちとは10月に知り合い、彼らは生後10ヶ月、2月に撮影始めたのですから。たった4ヶ月の社会化期間と訓練期間でした。彼らのほとんどは、若くて素朴で旅行経験もないので、世界を見るのも初めてでした。ハーゲンのように、それはフィルムの中で表現されていました。水上でみせたリアクションや、警笛の音を聞くシーンはトレーニングのパートの一部だったんです。動物たちとの仕事は、彼らに求めることと、彼らの自然な行動を合体させることでした。動物たちに自然な演技をさせるには、それがベストなんです。

200匹の犬が魅せる名演 『ホワイト・ゴッド』のアニマル・トレーナーに聞く 動物演技指導の秘訣 (8)

Animal trainer Teresa Miller with director Kornél Mundruczó on the set of WHITE GOD, a Magnolia Pictures release. Photo courtesy of Magnolia Pictures.

この撮影について、ほかに何か特筆すべき点はありますか。

野良犬、保護された犬たちと仕事をする際に気をつけなければならないポイントがあります。元来、彼らは保護されることを望んでいない、ということです。彼らと仕事をするために、毎日、牧場で走らせました、そうしたら、変わりました。目的を持った犬になってくれたのです。98%の犬が撮影後、社会に適応できる犬になりました。ハンガリーのトレーナーがくれたリースで歩きながら指導した結果です。私はこの時期、そして映画に参加できたことを誇りに思います。とてもクールな経験でした。

200匹の犬が魅せる名演 『ホワイト・ゴッド』のアニマル・トレーナーに聞く 動物演技指導の秘訣 (9)

Director Kornél Mundruczó on the set of WHITE GOD, a Magnolia Pictures release. Photo courtesy of Magnolia Pictures.