先入観への挑戦 暴力と戦うコロンビアの女性グラフィティ・アーティスト
Image via Vera.

FYI.

This story is over 5 years old.

先入観への挑戦 暴力と戦うコロンビアの女性グラフィティ・アーティスト

2016年11月、コロンビア政府とコロンビア革命軍(FARC)が和平合意に至り、50年以上続いた内戦に終止符が打たれた。内戦では、20万人以上の命が奪われ、700万人近くが住む場所を追われた。それから1年が過ぎ、女性たちは、自らの役割を奪い返すために、ストリートでグラフィティをツールに、ジェンダー問題、人種問題、性暴力などを助長する先入観に挑んでいる。

アート界において、女性アーティストたちは、長らく過小評価されてきたが、グラフィティの世界では、その傾向がひときわ顕著だった。過去数十年間、グラフィティは、ほぼ、男性に独占されてきた。この男性的シーンに女性が参加するのは、安全性の問題、根強い性差別のせいで非常に困難だった。特に、ここ数年、コロンビアでは、女性に対する暴力が蔓延している。2017年夏の報告書によると、2010年から2015年には、1時間あたり16人の女性が性暴力の被害に遭ったという。

2016年11月、コロンビア政府とコロンビア革命軍(FARC)が和平合意に至り、50年以上続いた内戦に終止符が打たれた。内戦では、20万人以上の命が奪われ、700万人近くが住む場所を追われた。それから1年が過ぎ、女性たちは、自らの役割を奪い返すために、ストリートでグラフィティをツールに、ジェンダー問題、人種問題、性暴力などを助長する先入観に挑んでいる。

Advertisement

われわれは、コロンビアで積極的に活動する3人の若きグラフィティ・アーティスト、バスタルディーラ(Bastardilla)、ナンディ(Nandy)、ベラ(Vera)を取材した。彼女たちの作品について、そして、2018年に来たるべき変化に、なぜ、グラフィティやストリート・アートが必要なのか、その理由をたずねた。

最初のグラフィティについて教えてください。

バスタルディーラ:以前はデコレーターとして、家を塗装していました。暇なときに、壁に落書きをして、そのまま放置しました。それから、グラフィティをやめられなくなったんです。

ボゴタ、バリオ・サンタフェのバスタルディーラの作品. (Photo via Bastardilla)

ベラ:最初は、ストリートで、小さな絵やサインをマーカーで描いたり、ステッカーを貼るだけでした。でも、本当は、壁に描きたかったんです。廃工場で初めて壁に描きました。グラフィティをやっていた友人に、どうやって描くか教えてほしい、と何度も頼みこんで、彼がようやく了承してくれたあと、工場に行ったんです。そこで彼に、「君はここからここまで描いて、僕はここからここまで」と指示されました。彼は、ヘッドフォンをつけて、私にいっさい口出ししませんでした。最初は不安で、戸惑いましたが、描き始めた途端に、その〈感覚〉に夢中になりました。説明しずらいんですが、私は描く感覚が大好きです。腕、足、体全体を動かしながら描くことで、空間、生命、ストリートの息吹を感じました。

みなさんのグラフィティは、人種、ジェンダーにまつわる先入観への挑戦であり、女性に対する暴力への対抗手段になっています。どこからインスピレーションを得るのですか?

ベラ:そういったテーマが重要なのは、ただ単に、私が女性だからです。私は、ストリートでの女性の空間を目に見えるかたちで取り戻すために、女性を描いています。何十年ものあいだ、私たちのイメージは、消費を促す広告に利用され、市場の好き勝手に歪められてきました。この事実は、社会全体が抱く女性らしさの定義に影響を与えています。資本主義が陳腐にした女性のイメージを肯定する男性優位の視点を、私は断固拒否します。だからこそ、神秘的で自然体で情緒豊かな、既存の女性像には収まらない大きな女性たちを描くんです。商売道具にされない女性たちです。

(Photo via Bastardilla)

ナンディ:私は、描く顔を選んではいません。ただ、気に入った顔を描いていました。でも、ある出来事がきっかけで、積極的に人種問題に取り組むようになりました。〈Instituto Popular de Cultura〉という学校で、リノリウム版画を学んでいたときのことです。アフリカ系の女性の版画をつくりました。そうしたら、同級生に「なんでいつも黒人を描くんだ?」と訊かれました。彼がいなくなったあと、「そうしたかったから」と思いました。なぜ、黒人ばかり描くのがおかしいのでしょう? 芸術における女性美は、昔から、肌が白ければ白いほど理想的でした。それを変えようと決めたんです。

バスタルディーラ:貧困、暴力、女性の問題は、それぞれ独立した問題ではありません。また、気候変動、天然資源に依存する経済、差別、移民、先住民、教育などと並ぶ重要な問題です。これらの問題の共通点や類似点を探し、他者の声と自らの声をひとつにしなければならないでしょう。

アートに没頭するナンディ(右). (Photo via Nandy)

グラフィティを見た人の反応は?

ナンディ:見た人の85%は気に入ってくれているようです。真っ白でシンプルな絵が好きな人もいますからね。でも、だいたいみんな、小さな女性の〈身体(cuerpesito)〉がストリートで描いていることに驚きます。

Advertisement

今まで取り組んだなかで、もっとも制作が大変だった作品は?

ナンディ:いちばん難しかったのは、マニサレス(Manizales)のフェスティバルで描いた作品です。テーマは性暴力でした。とても深刻で衝撃的な題材ですが、問題意識をアートにして主張しなければ、と確信したんです。

Image via Nandy.

ベラ:いちばん難しかったのは、《Allpa Mama》です。私にとって、過去最大の作品です。壁の幅は19メートルだったのに、制作現場には、6メートルの足場がひとつしかありませんでした。

どうして、意見を主張するのに、グラフィティが重要なんですか。

ベラ:グラフィティは、もっとも民主的なアート作品を創る手段です。みんなが楽しめるし、違和感なく親しめます。このおかげで、複数のプロセスを同時に進められます。つまり、物語を発信し、直接疑問を投げかけ、アイデンティティの確立を助けながら、もちろん、権利も主張するんです。

ナンディ:グラフィティは、性質上、公的で、常に、民衆の味方です。自分の声が奪われそうになったとき、周囲のみんなに、「私はここにいる、私はこう考えている」と発信するツールです。グラフィティとは抵抗であり、個性と属性を守る手段です。

(Photo via Vera)

バスタルディーラ:ストリートは、街のなかでも、様々な現実が交わるスペースです。でも、ここ数年、街の高級化や、企業の活動の影響で、ストリートの非政治化が進んでいます。たくさんのスペースが出会いではなく、移動のために利用されています。これを変えるには、グラフィティが役立つはずです。

コロンビアの女性、マイノリティにとって、2018年は、どんな1年になればいいのでしょうか。

ナンディ:2018年も私は闘い続けます。女性殺人率が下がり、女性だから殺されてしまうことがなくなるよう、心から願っています。女性間の連帯も強めたいです。アートの分野でも、たくさんの画家や女性に〈グラフィティ〉という芸術的実践を体験してもらいたいです。

自身の作品《Allpa Mama》の上に立つベラ. (Photo via Vera)

ベラ:もっと自由で、安全で、愛に満ちた世界になってほしいです。それは、のびのびと遊び、好きなことを楽しめる世界です。言葉では、ユートピア的でシンプルに聞こえます。でも、実際に女性が行動を起こすには、想像の2倍の意欲、熱意、努力、働きが必要です。この国はとても男性的ですし、世界全体の仕組みも、家父長制ありきで成立しています。でも、疑問を投げかけ、権利を要求し、女性の声を広めようとする動きが活発になっているので、私は、期待しています。反骨心を抱く多くの〈魔女(bruja)〉たちが目を覚ましています。あらゆる人やモノに宿る女性的なエネルギーを受け入れる、素晴らしい時代、覚醒の時代が近づいている気がします。

あなたの徴を世の中に残したければ〈Graffiti Camp For Girls〉まで。Graffiti Camp For Girlsは、女性たちに、グラフィティの技術を習得する機会を提供する団体だ。興味のあるテーマに適う壁画を、みんなで協力して描くプロセスと技法を学ぶことができる。紹介しきれなかったバスタルディーラ、ナンディ、ベラの作品を、以下に掲載する。

(Image via the author)

(Image via Nandy)

(Image via Bastardilla)

(Image via the author)

(Image via Bastardilla)