ナイアンティックCEOが
Pokémon GOに託す想い
All Pokémon Go images and logo, courtesy of Niantic.

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ナイアンティックCEOが Pokémon GOに託す想い

2016年に大爆発したアプリケーション〈Pokémon GO〉β版。新たにポケモン金銀が野に放たれのを目前に控え、さらなる盛上りを見せそうな気配だ。ブームは去った、そこまでじゃないだろう、といった世論もなんのその。ナイアンティックのCEO、ジョン・ハンケ氏は計り知れない可能性をポケモンGOに見出している。 *VICEが世の中のゲーマーと潜在的ゲーマーに贈る新たなゲーム情報サイト〈Waypoint〉に掲載された興味深い記事を紹介。

2016年最大のヒットアプリ〈Pokémon GO〉は、新機能も開発中であり、まだまだ完成には程遠い。しかし、メーカーのCEOにとっては〈稼働〉こそ全てだ。

ご存知のとおりPokémon GOは社会現象になった。2016年7月6日、ダウンロードが開始されたこのアプリは、世界中で記録を塗り替えた。2017年1月末には粗利10億ドルを超え、モバイルゲーム史上最速で大台を突破した。

さらに、Pokémon GOは、モバイルでの成功がビジネスに重要な影響を与え得る事実を任天堂に証明してみせた。2016年11月に発売された3DSソフト〈ポケットモンスターサン・アンド・ムーン〉は大ヒットを記録し、世界で1300万本、米国では450万本を売り上げ、同国内で販売された任天堂ゲーム中、最も売れ足の速いゲームになった。任天堂は、この成功の主な理由にPokémon GOを挙げている。そしてもちろん、Pokémon GOを開発したナイアンティック(Niantic)がブームから大きな恩恵を預かっているのは、いうまでもない。

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サンフランシスコに拠点を構える同社の外観に、ここがPokémon GOの苗床である、と示す徴は何もない。実際、史上最強のモバイルゲームを製作した企業が拠点を構えるサインの類もない。

オフィスに入ると初めてそこが〈ナイアンティック〉だとわかる。豪奢なピカチュウの後ろに企業名を冠した大きなサインがあり、ハフィントンポスト、ワシントンポスト、コタクに掲載された記事が壁に飾られている。

そして、『ドクター・フー』に登場する次元超越時空移動装置ターディス(TARDIS)のレプリカがある以外、ナイアンティック本社はコミック・コンベンションの様子とは程遠い。同社のジョン・ハンケ代表取締役が2016年7月のコミコンを視察したところ、来場者の約75%がPokémon GOに興じていたという。ポケモン・グッズを販売するブースが立ち並ぶなか、ポケモンのキャラクターに仮装したファンがスマホ片手にポケモンを探しまわっている様子を眺めるのは、不思議な体験だったそうだ。

それから数ヶ月後、カジュアルな服装でリラックスした様子のハンケ代表取締役は、ナイアンティック本社で私を迎えてくれた。私は、豪奢なゼニガメがカウチの近くに鎮座する、ナイアンティックのミーティング・ルームで、彼と座って話をした。ハンケ氏は、グーグル内のスタートアップ時代から、この船(企業名の元となったナイアンティック号を考慮すると、これは適切な比喩だろう)の舵取りをしている。同企業は、拡張現実(AR)を利用したアプリ〈イングレス(Ingress)〉からスタートして、弟分のPokémon GOでモバイルゲーム・ランキングのトップに昇り詰めた。現在、ナイアンティックでは100名近くのスタッフが働いているにもかかわらず、慌ただしさを感じさせない心地よい雰囲気が社内を包んでいる。

ポケモン・ゲームをつくる機会に恵まれたのは、ナイアンティックにとって大きなチャンスだった。それは、開発開始以来、現在に至るまで疑いのない事実だ。「大きなスタジオが新作アベンジャーズ映画の制作に、自主制作映画の監督を選んだようなものです」とハンケ氏。「もちろん、ラッキーでした」

〈Pokémon GO〉は、ナイアンティックが株式会社ポケモンに提案したアイデアであり、採用されるアテなどなかった。しかし、すぐに日米間でアイディア交換が始まり、方向性が固まった。最終的に株式会社ポケモンは、拡張現実アプローチは「世間にとっても株式会社ポケモンにとっても非常に新しい視点である」と力説するハンケ氏に同意し、ユーザーインターフェース上での各ポケモンの見栄えから、ライトの使い方まで、詳細なフィードバックをナイアンティックに提供した。

「われわれにとって、またとない機会が訪れたんです」とハンケは当時を振り返る。「非常に貴重な機会を与えられている、と実感するようにもなりました。任天堂の有名なデザイナー、宮本茂と一緒に働く機会を得るなんて…任天堂は、いろんな意味で現代ビデオゲームの祖です。だから、任天堂と働けるなんて、本当に感激です」

任天堂は、株式会社ポケモンの株式約3分の1を所有しており、Pokémon GOがチャートを昇り詰めると、有名な日本のゲーム開発会社の株価も高騰した。ナイアンティックの新プロジェクトに対するハンケ氏の期待は並々ならぬものがあった。〈リーグオブレジェンド (League of Legends)〉を目標に掲げ、フォロワーをたくさん獲得し、末永く愛されるゲーム創りを常に念頭に置いている、と彼は説明してくれた。それにしても、Pokémon GOの成功に世間は驚いた。

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「ジェットコースターに乗ってるみたいでした」とハンケ氏。「振り落とされない保証もありませんでした」

アプリのパフォーマンスにまつわる問題、ダウンロード開始後のサーバ不調などのせいで、楽観は許されなかった。予期せぬユーザー数の多さも問題になったが、それは嬉しい誤算だ。ナイアンティックが予測した数字を上回るユーザーがPokémon GOをプレイしたのだ。ナイアンティックの見積によると、ひと月のアクティブ・ユーザーは5千万にのぼり、ユーザー数は着々と増えているという。とはいえ、アプリ公開後の3日間で560万ダウンロードを数え、公開から30日経つ頃には1億ダウンロードを超えていた。

ナイアンティックのチームは、宣伝よりもアプリのパフォーマンスを重視した。ユーザーから不満の声が上がっていたものの、チームはサーバがダウンしないよう、ユーザーがゲームを楽しむために必要な努力は惜しまなかった。しかし、驚くべきユーザー数を急速に獲得したのは、まったく予期せぬ事態でもなかった。ハンケ氏によると「イングレスはゲーム業界で成功を収めており、サウンド・トラックも人気だったので、Pokémon GOが大ヒット・アプリになるのを全く予想していなかったわけではない」そうだ。Pokémon GOは「微妙なセカンドアルバム」にはなりようがなかった。このアプリには、イングレスに明らかに欠けていた強力なブランド力があったのだ。

世代を超えた大きな認知度を誇る〈ポケモン〉ブランドがあったからこそ、ジミー・ファロン(Jimmy Fallon)やスティーブン・コルベア(Stephen Colbert )は、ナイアンティックのゲームを取り上げた。Pokémon GOは、何百万もの視聴数を誇るテレビ番組のスタンダードに達していれば、世界のメインストリームにならないワケがない。

しかし、それはそれで、2017年現在、アプリ・ランキングの上位に〈Pokémon GO〉の名前はない。2016年12月、イギリスにおける1日当たりのユーザー数は、ピーク時の170万人から5万3千人に減少した。しかし、ハンケ氏は現状を、ナイアンティックが予想していたポジションに落ち着いたに過ぎない、と捉えている。

「ゲームのポテンシャルは画面の外にもある、という事実を世間に気づかせただけでも、私たちの期待を超えています」とハンケ氏。「Pokémon GOにとっての最優先事項は、画面外で他者との協動を必要とするような機能です。そうすることで、機械的なポケモン・ハントより有意義な体験が可能になります」

ハンケ氏によると、現在普及しているβ版に、近々新機能が加わるそうだ。完全版は、ナイアンティックが開発を急いでいる。また、ナイアンティックはグローバル規模でのイベント開催を望んでいるが、ユーザーに先を越されてしまった。

ダウンロード開始後、世界中のユーザーが催した数々のイベントについて、ハンケ氏は「ここまで大規模なユーザー主導の自発的イベントは見たことがない」そうだ。自発的ユーザー・イベントは公園、街中、学校、ショッピングモールで開催された。

シドニー・オペラハウスは、レアなポケモンをハントしようと血眼になった数千人のユーザーでごった返した。ニューヨークでフィーバーに便乗したジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)は、セントラルパーク付近の大集団に紛れてポケモンを探したが、ユーザーはポケモン狩りに必死で、すぐ側にいるポップスターに気付かなかったようだ。2016年のコミック・コンベンションでは、ナイアンティックの展示ブースが小部屋から、サンディエゴ・コンベンションセンターの巨大なホールHに変更された。

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何百万のユーザーがポケモンを探したので、サーバーダウンが頻発した。全ての機能を完全に準備できていない、β版の段階であれ、2016年の夏にアプリを公開したのは「おそらく正しい判断であった」とハンケは強調する。しかし、最初の数ヵ月間は、諸調整やバグ修正に追われたため、ナイアンティックが当初から今にいたるまで重要視し続けている、アプリの基幹をなすべき重要な諸機能の実装が遅れてしまった。

重要な機能には、ポケモンのトレード、対戦が含まれている。ハンケ氏によると、現在、新機能の開発がすすめられているそうだ。〈ジムバトル〉などの機能も、アプリ公開当初にサーバー・ダウンが頻発しなければ、理想的なカタチで実装できていた可能性もあったようだ。

「間もなく完成します」と彼は言明する。「現状はそんなところです。大きな社会現象になったのは素直に悦びつつも、残りの機能を完成させるのに少し時間がかかりますが、なんとか対処しなくてはなりません。なにより、ユーザーがハッピーであれば、私たちも本当にハッピーなんです」

Pokémon GOのユーザー数は減少しているものの、新規プレーヤーを獲得するプランをナイアンティックは進めている。「ご存知のとおり、昨年1年で莫大な資金が集まりました」とハンケ氏。とはいえ、追跡機能の充実はなさそうだ。

「追跡機能の類は、間違いなくニーズがあります。既存の追跡機能を拡張するのでなく、世界観を豊かにし、世界の新たな側面と触れ合えるような機能に興味があります」

今後数年は続くであろう、とハンケ氏が予想する〈拡張現実〉の代名詞にまでなった〈Pokémon GO〉。ポケモン金銀の登場を間近に控えたゲームの勢いは、まだまだ衰えないだろう。そして、数ヶ月のうちにナイアンティック作品に備わった社会的側面を、よりわかりやすく世間に提示しようと、ハンケ氏は本気で画策している。

「私は本心から、イベントを開催したいんです。なんとか2017年に実現したい」と彼は締めくくった。「Pokémon GOにふさわしい規模のイヴェントを開催するのは難儀ですが、〈外に出てみんなで遊ぶ〉というわれわれが想い描いたスタイルで遊ぶ、最善の機会になるでしょう」