キム・ゴードン姉御はかく語りき 自伝 ソニック・ユース 結婚 Riot Grrrl ボディ/ヘッド フェミニズム (1)

オルタナ・ブームの真っ只中の頃、私にとっての女神はコートニー・ラヴ、クリスティーナ(プッシー・ガロア、ボス・ホッグ)、キャット・ベランド(ベイヴス・イン・トイランド)の三人でした。あんな「ギャギャ~ッ!!」ってな音出してるのに、ああ…美しい…可愛い…。特にクリスティーナはお気に入りで、ボス・ホッグUS盤無修正ジャケットは血眼になって探しましたね。何たって見えてるんですから!ええ、完全に性の対象として捉えてたんですね。でもってキム・ゴードンにはそれが無かった。絶対怒られる、怖そう、って思ってた。姐さんでしたからね、更にフェミニストってのも敷居が高かった。でも結局はこの姐さんに色々教わって、同時に「Riot Grrrl」ムーヴメントなどもあって、「ああイカンイカン、セックスだけじゃないのね」となるわけです。

そんな超姉御キム・ゴードンが自伝「Girl in a Band」を発表致しました。(6月には日本版も出るようです)サーストンとの離婚、ソニック・ユースの休止と、当時からは考えられない展開になっておりますが、姐さんは立ち止まることなく更に道を歩んでいます。結局はコートニーにもクリスティーナにも全く魅力を感じなくなった今(キャットちゃんだけは現役)、姐さんの言動と共に年の数を重ねて来たんだなぁ、と感慨深く思うのです。そしてそれは、まだまだずっと続くのです。

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「信念ある人物を見たいがために人はお金を払う」とは、キム・ゴードンの格言。

先日ニューヨークのブックストア「STRAND」で行われた彼女の自伝「Girl in a Band」発売記念イベントがそれを示している。刺すような寒さの中、彼女の言葉を聞くために、そして「Girl in a Band」を買うために何時間も待つたくさんの人々。もちろんイベントは超満員。入場出来ない人も多数見られた。

「オルタナティブ系ロックバンドの帝王ソニック・ユースのオリジナル・メンバーにしてフロントウーマン、ベーシスト、そして「Riot Grrrl」ムーブメントの原動力となった人物」という説明だけでは、彼女がロック女神の殿堂に入るには足りないというなら、「ソニック・ユースを共に創ったメンバーで、女好きの亭主サーストン・ムーアとの27年の結婚生活の終焉、という煙舞う廃墟からの華麗なる復活」ではどうだろう。離婚以後、六十過ぎのゴードンはビル・ネイスと実験的なエレクトリックを聴かせる新たなバンド、ボディ/ヘッドを結成し、アルバムもリリースした。アメリカなどでアート展を開催、乳がんを克服、そしてイヴ・サンローランのモデルまで務めた。そして本を執筆し、ニューヨークタイムスのベストセラーランキングに殴り込みをかけた。ゴードンの王冠を金色に塗るのは今しかない。そして、うるさいヤツらを黙らせるのにも絶好のタイミングだろう。

ゴードンが60~70年代にカリフォルニアで成長し、ここ10年間は娘のココをノーサンプトンで育てているという事実にも関わらず、ニューヨーカーはいまだに彼女を地元の人間として称賛している。それが理由なのか、ゴードンはSTRANDの楽屋で赤ワインを飲みながら、ちょっとナーバスになっていた。私たちが満員のステージに上がり革張りの椅子に座ると、「私はいつも、イカしたぎこちない会話を楽しんでいるわ」とジョークを言った。以下インタビューはそのSTRANDでのトークショーから編集されたものである。

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ぎこちない気分だとおっしゃいましたが、みんなあなたのことをシャイだとか変だとか思っていませんよ。みんなクールだと思っています。もしくは「ヤバい、私たち嫌われている」と思っています。

オプションがあるのは悪くないわね。

本のタイトル「Girl in a Band」について聞かせてください。インパクトのある書名ではないですね。ミュージシャンとしてのキャリアの中で最も多く聞かれた質問なのではないですか? 

そうね。女性が嫌がる皮肉のこもった不快な質問だわ。最初は仮のタイトルだったのよ。「駄目だ、もっといいものを考えなきゃ」って思ってた。でも色々な皮肉的な意味もあるって気付いて、頭から離れなくなったの。様々な意味を託せるように思えたのね。

バンドの中での女性の役割とは?

そうね…バンド内での女性の役割は、カオスやミステリー、未知のエネルギーの要素を加えることよ。「彼女は次に何をするつもりだ」といった具合にね。ちょっと予想がつかない感じになるの。

「女性はステージをしっかり固定して、男性の視線を取り込んで、それをオーディエンスに返す」という素晴らしい一節があります。それによってあなたはどんなエネルギーを得ているのか、ということが気になりました。

そういうこともあったかもしれないわね。どうだろう。確かにいい文ね。自分のイメージが投影されているのを自覚していたということかしら。でもすべてのパフォーマーはそういう自覚があるでしょうね。映画における受動的な存在の典型である女優を想定して、歌詞の中で多分そのようなパニック状態を表現したのよ。「その期待を突き抜けたらどうか?」「それをひっくり返したらどうか?」 それが「Riot Grrrl」の素晴らしい点だったと思うわ。実際にそれをやっているし、最後までやり遂げているからね。

この自伝を書こうと思ったきっかけは? 食べるのに困っていたわけでは

もちろんそんな事は無いけど、様々な収入源はいつでも必要よ。9時から5時までの仕事は求めていなかった。その手の仕事は悪夢とともに閉まってあるわ。フランス語を教えていたんだけど、寝過ごしたことがあってね。

ではご自身の記録を整理するために書いたのですか? それとも、絵も描いて、音楽も作って、服のデザインもして、更に監督もしていますが、時間が余っているから書いたという感じなのでしょうか?

いいえ。自伝を書こうなんて全く思ってなかったわ。最初その話が来たときは、アートプロジェクトをやってやろうと思った。ノワール小説のようにね。そんなことを真剣に考えていたの。そしたら何人かの編集者から自伝のアプローチがあって、ではボブ・ディランのようなのを書こうかと閃いたのよ。自伝というのもおかしなものね。人は思い出す(remember)のではなく、再現(recreate)しているだけなのに。

書くと言う行為は自己発見のプロセスだったのでしょうか?

そうね。本当にドラマチックなことが起きると、創造のプロセスが働いて人生がバラバラに解体されるのよ。現在の場所にどうやってたどりついたのか、振り返ってみたくなるポイントがあるのね。自分はどんな役割を演じたのかってね。

ある意味、自分が何者かなのかを発見し、それを告白する欲求が満たされるのよ。書くということはそんな風に物事を再発見する手段だと思うわ。

偉大なジョーン・ディディオンの「自分の考えや、見ているもの、それが意味するものを理解するために書くという行為を全体として行っている」という言葉と似ていますね。

そうね。

結婚生活はバンドの一員であることと、それほど違いはないと思います。それぞれが自分の役割を果たすべきで、それがなかったら崩壊してしまいますよね。同じ年齢で、同じように意欲的で、成功もしている一組の男性と女性のアーティストが共同生活を送るのは不可能でしょうか? 特に子供が走り回っているときに、同時にアーティストであり続けることはできますか?

分からないわ。でもアーティストには個人のスペースが多く必要だと思う。ラッキーだったらパートナーがそれを理解してくれるでしょうね。そして奥さんみたいになってくれる女性を見つける必要があるでしょう。スケジュール調整とか、いろいろな雑事をやってくれるという意味でね。それはとても大変なことだと思う。子供を持っていない女性アーティストはたくさん知っているけど、それなりの理由があると思うわ。でもみんな結婚生活に留まるけど、それはお互いに愛していて、一緒に力を合わせられるからでしょうね。

同じ理由で、バンドが続いたり、そうでなかったりするのでしょう。音楽が好きだったら、続くように努力しなくては

2013年にあなたは「ソニック・ユースでプレイ出来ないことが寂しい」と語っていますが、今も同じ気持ちですか?

今は寂しくないわ。長い間そんな気持ちがあったけど、今はボディ/ヘッドをやっていて、そっちの方が近く感じられるし、興味が強いわ。ビジュアルアートにも傾倒していて、そちらの方が自分を出せるわね。

離婚やソニック・ユースの活動休止によって何らかの影響はありましたか?

自分がバラバラになった感じかしら。かつて全てが集束していたことが、時にはひどい嵐に遭ってしまうものだけど、何をやるべきかという点でまた正しい道に戻れたわ。今は自分にいいことが起こっているとは言えるわね。

あなたが60年代と70年代をカリフォルニアで過ごした部分は本当に読み応えがありました。ヤギの皮を剥いだり、フランク・ザッパに合わせて踊りを考えたり、詩を書いたり今のような人生になると想像していましたか? 音楽は衝撃でした?

そうね、音楽との出会いは衝撃だった。パンクロックは思ってもいなかった方向に人を目覚めさせてくれたと思う。60年代以降では一番興味深いものだったし、私は60年代がどんなだったかを知っている年齢ではあるわ。イギリスとは意味するものが違っていて、自分がミュージシャンになるなんて思っていなかった人たちを音楽に引きこんだの。

でも80年代初頭にニューヨークに来た時、パンクにはノーウェーブほどのめり込んではいなかったんですよね。あなたの心に火を付けたのはどんな音楽ですか?

オーディエンスと対立するような音楽ね。バンドで言えばマーズやDNA。後から出てきたグレン・ブランカもそう。たくさんのアーティストがニューヨークに来てプレイしていたわ。

ニューヨークに来る前はギターやベースをプレイ出来なかったんですよね?楽器との出会いは?

アーティストのダン・グラハムが、鏡を使ったパフォーマンスをガールズバンドとやりたがっていて、ベーシストのミランダ・スタントンとドラマーのクリスティン・ハンという女性を私に紹介してくれたの。それでイントロジェクションというガールズバンドを組んだ。パフォーマンスのために私はギターを練習した。そして誰かがジャズのハーフコード風の奏法を教えてくれたわ。そんなところよ。

「これこそ私がやるべきことだ」という瞬間はありましたか?

そうね、演奏した時、ゾクゾクする感じがあったわ。信じられないくらいナーバスになっていたけどね。でも大きなジェットコースターに乗っている感覚だった。次の日にはロックンローラーか何かになった気分で…。音楽を続けるべきか、アートをやるべきか迷ったわね。頭がとても混乱したのを覚えているわ。

でもアートに関わっていなかったことはありませんよね。音楽をつくっている時もアート制作をしていたのでは?

ある程度はね。かなり後回しになっていたけど。自分のことは常々ビジュアル・アーティストだと思っていたわ。ミュージシャンよりむしろね。

ソニック・ユースで作曲を始めた当初はどんな感じでしたか?

大抵はジャムってたわ。誰かが面白そうなフレーズを演奏し始めるのよ。それで時にはサーストンがそれに合うようなリフを弾き始める。私が大きなものを付け加えて、バンド全体が合う感じ。

フェミニストがテーマで、あなたが作曲した90年代の曲は評価が高いですよね。精力的に作曲し始めたのには何か理由が?

活動できる範囲やオーディエンスが増えたことに気付いたのね。そしてビジネスの世界に入っていったら、企業世界にいる女性のことがもっと分かってきた。

それについてもっと詳しく聞かせてください。『Dirty』に収録されている「Swimsuit Issue」に関係があるんですよね?

ええと、私たちがゲフィンとメジャー契約を済ませたすぐ後に、ゲフィンの重役が秘書にセクハラで告発された事件があったのよ。それでその象徴として、スポーツ・イラストレイテッドの水着特集を持ち出して歌をつくったの。

この曲の終りには水着モデルの名前がたくさん出てきます。ただ考えさせるだけではない何かがあります。面白いですね。

女性であれば、歌の材料はそこらじゅうにあるわ。もしかしたら男性よりもね…でもそう言えばエモコアは、ガールフレンドや理解のない人たちに誤解される嘆きを歌うことが出来た。やっと彼らは解放されたわね(笑)まあ、失恋に限らなければ、歌に出来ることなんてたくさんあるわ。例えば「Tunic」はカレン・カーペンターの摂食障害について歌っているのよ。

ええ。

摂食障害は、その女性がどれだけ他者を喜ばせることに心血を注いだかの表れね。自分の体と折り合いをつけなくてはならないという感覚。力強いものだわ、女性の体というのは。その手のことを政治的にオーバーにならないように訴えるという挑戦だったの。単に受け狙いだと思った人もいたみたいだけど。

でもダークで、ディープで、激しい曲ですよね。ライブでは男性も女性もシンガロングしていますしね。

当時カーペンターズは非常に保守的で、体制側だと思われていた。真剣には見られていなかったのね。でもカレンの声はすごくセクシーでソウルフルだったから、歌詞を全部自分のものにしてしまった。彼らの曲はすごくダークなのよ。奇妙だけどカーペンターズは過激だったのね。

Kool Thing」はどうですか?

たくさんの異なるものについて歌ったおかしな曲なの。「ウェザーアンダーグラウンド」というレイモンド・ペティボンの映画にインスパイアされている。「ブラックパンサー」に性的な魅力を感じるようなことを歌っているわ。それでジェーン・フォンダとバーバレラを混ぜこぜにして。

この曲の元となったものは?

LLクールJ のファーストアルバムの『Radio』にとても触発された。私がSpin誌で彼にインタビューしたの。本当に面白かったわ。ロックについてどれだけ知っているのか…とか聞いてね。でも好きなロックバンドがボン・ジョヴィだと聞いてちょっとがっかりしたわ(笑)

ミュージック・ビデオにはチャックDがちょっとだけ登場しますね。

同じスタジオでレコーディングしていたから、彼に頼むべきだと思ったのよ。「ああ、その通りだ。ありのままに話せ」という、一番月並みなフレーズをやってくれたわ。私たちにはある意味ぴったりの決まり文句だったかもね。

アーティストとして、年を重ねたら作品も政治的になっていくと思いますか?

さあどうかしらね。社会性は身についていくと思うけど。多くを経験してあまり関係なくなっていくのよ。ビルとボディ/ヘッドプレイを始めた時、「ありがたい。プロモーション活動しなくてもいい音楽をやってる」と思ったわ。ただ楽しんで、とても自由だってことが分かった。ハードルを低く設定して、音楽をプレイすることだけに集中する。その結果、とてもラディカルな音になったわ。

私はフェミニストで、あなたもフェミニストです。でもすべての女性がフェミニストなわけではなく、最高のフェミニストは男性だったりもします。あなたにとってフェミニズムとは?

年月を経て少しずつ変わってきているわね。でも本質は、世界中の人たちの権利に関すること。女性は虐待されるべきではない。完全に自由でいるべきよ。その他の細々したことはそれほど重要じゃない。男性であれ女性であれ、モラルに則った正しい答えを自分に出さなくては。フェミニズムは、女性が何でもやっていいということではないのよ。誰かを傷つけるのは駄目ね。