台湾おにぎりガイド
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台湾おにぎりガイド

台湾の早朝の定番メニュー、おにぎりは、竹製の大きなお櫃をのせたカートで販売される。行商が路上で、もしくは、肩に籠を担いで食べ物を売り歩き、誰もが次の予定に向かう前に、だらだらとご近所の噂話をしていた時代から存在している。それからかなりの年月が過ぎたが、この面白い風習は、現在の朝食屋台に受け継がれた。

台湾の早朝の定番メニュー、おにぎりは、竹製の大きなお櫃をのせたカートで販売される。目を細めて少しだけ想像力を働かせたら、過去にタイムスリップできるかもしれない。行商が路上で、もしくは、肩に籠を担いで食べ物を売り歩き、誰もが次の予定に向かう前に、だらだらとご近所の噂話をしていた時代だ。それからかなりの年月が過ぎたが、この面白い風習は、現在の朝食屋台に受け継がれた。行商以上に親しみやすい屋台のオーナーは、たいてい、常連客の注文を記憶している。

おにぎりは、中国語で〈飯糰〉(ファントゥワン)と呼ばれ、台湾では、俵形で、ホカホカのもち米に具をぎっしり詰める。

台北で飯糰を販売する男性. All photos by the author.

「昔の飯糰は、温かいもち米に、からし菜の漬物と大根の塩漬けを入れただけでした」とシユ・リュウ。「ラップの代わりにハスの葉で包んでいました」

リュウは、台北市大安区にある大人気の朝食屋台〈劉媽媽飯糰〉のオーナーだ。携帯電話をいじりながら順番を待つ客が長蛇の列をつくるので、1キロ以上離れていても店の場所がわかる。店は大盛況で、需要に応えるため3つの支店がつくられたほどだ。

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「〈昔〉のことなんて知ってるんですか?」と私は眉を上げた。シユはどう見ても35歳以下だ。

彼は、店の奥で米の様子を見ている母親を身振りで示した。

「母が教えてくれました」

残念ながら、現在の飯糰は、昔ほどシンプルではない。シンプルさは、もはや魅力にはならない。売上を確保するには、メニューが豊富でなくてはならない。例えば、劉媽媽には30種類以上のオプションがあり、メニュー外のアレンジもできる。

チーズ入り、ベジタリアン向けの飯糰もあれば、米にも選択肢がある。紫米、雑穀米、トウモロコシ入り、ゴマ入り、さらに海苔巻きもある。

台北で食べられる11種類の飯糰を紹介しよう。

オリジナル

もち米、大根の漬物、からし菜の漬物、煮卵、豚肉でんぶ、揚げパン

台の上にもち米を広げ、基本の具材である大根とからし菜の漬物、煮卵のスライス、豚肉でんぶ少々、カリカリの揚げパンを重ねて包んだ飯糰。揚げパンはドーナツに似ているが、形は細長く、砂糖は入っていない。台湾では、よく豆乳といっしょに売られている。飯糰用の揚げパンは2度揚げされ、ひと口大に切られる。干し肉からつくる豚肉でんぶは、非常に細く割かれ、水分も絞られるので、綿のような食感だ。醤油味の煮卵の塩気が味に深みを加え、大根とからし菜の漬物が酸味を添える。

これらの具材が米のなかにぎっしりと詰められ、完璧な俵形に整えられる。

永和豆漿大王は、台湾初体験の飯糰初心者にぴったりの店だ。台湾の朝食の定番である、できたての豆乳、角煮まん、大きな揚げパンも楽しめる。永和はチェーン店で、あらゆる地区に支店があるが、どの店にも個人経営のような趣がある。おそらく、注文が入ってから調理するからだろう。店員が具を詰めて巻き、出来立ての飯糰をだしてくれる。

永和豆漿大王
住所:復興南路二段102號

甘味

もち米、ちぎった揚げパン、黒糖

甘い飯糰、と聞くと抵抗があるかもしれないが、朝から砂糖を大量摂取したい大の甘党にはうってつけだ。砕いた黒糖と揚げパンの食感も楽しめる。

いわば米に包まれた砂糖の塊だ。

永和豆漿大王
住所:復興南路二段102號

卵巻き

もち米、大根の漬物、からし菜、煮卵、魚のでんぶ、揚げパン、薄焼き卵、わけぎ

「ビニールに入れれば、職場にも持っていけます」とディンゴ・リュウ(劉媽媽のオーナー、シユ・リュウと血縁はない)は誇らしげだ。ディンゴは、20年前から美加美のオーナーを務めている。

「おやつにもぴったりな台湾の伝統料理です。1〜2日はもちます」

飯糰は、きれいにラップを巻かれ、テイクアウトの場合は、薄いビニール袋に入れてもらう。飯糰は、季節、曜日を問わず、この形態で販売される。台湾の典型的な朝食には、ビニールが大量に使われるのだ。

ディンゴの店では、様々な〈卵巻き〉を取り揃えている。具材は、通常の飯糰とほぼ同じ(揚げパン、でんぶ、煮卵、からし菜の漬物、大根)だが、大きな違いは、薄焼き卵が巻かれていることだ。卵にはワケギが少々入っており、辛味が効いている。さらに、リュウは、豚肉でんぶの代わりに魚のでんぶを使う。「魚のでんぶは、豚肉でんぶほど水分を吸収しません。豚肉でんぶを使うと水っぽくなってしまいます」

美加美
住所:和平路一巷12-1號

ベーコン入り

もち米、大根の漬物、からし菜、煮卵、魚のでんぶ、揚げパン、ベーコン

ベーコンの人気は万国共通だ。美加美は、ベーコンが飯糰にも合うことを発見した。ベーコンは、グリルで温められ、切り分けられたあと、いちばん最後に加えられる。

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美加美
住所:和平路一巷12-1號

豚肉とゴボウ

もち米、揚げパン、豚肉でんぶ、豚挽肉、煮卵、大根の漬物、からし菜の漬物、ゴボウの漬物、海苔

劉媽媽のオーナー家族は、客家の血を引いている。彼らは、野菜の漬物に、並々ならぬ愛情を注いでいる。

「私たちは、毎日、本物の石を使って、新鮮なからし菜を漬けます」とリュウは地面に山積みになった石を指さした。大根とからし菜は定番だが、ゴボウの漬物は珍しい。わずかにショウガが効いたゴボウは、細く切って使われる。ゴボウの漬物と豚挽肉は、意外にも相性抜群だ。

劉媽媽飯團
住所:杭州南路二段88號

紫米オリジナル

もち米、大根の漬物、からし菜の漬物、煮卵、豚肉でんぶ、揚げパン

「中国伝統の医学哲学によると、紫米は、とても健康に良いそうです」とリュウ。そこで彼は私を見つめて、ひと呼吸置いた。

「特に女性には」

私は女性だが、それ以上掘り下げようとしなかった。台湾人は、中国医学の恩恵を、ほぼすべての食べものに当てはめる傾向があるらしい。確かに、紫米は抗酸化物質が豊富だが、奇跡の穀物というわけではなさそうだ。

それでも、紫米は飯團によく合う。それが重要だ。紫米は食感が良く、通常のもち米より歯ごたえがあるが、粘り気はそれほど強くない。

劉媽媽飯團
住所:杭州南路二段88號

キムチと豚肉の紫米飯團

紫米、キムチ、豚挽肉、大根の漬物、からし菜の漬物、煮卵、豚肉でんぶ、揚げパン

劉媽媽のいちばん人気は、塩味と酸味が効いた、キムチと豚の飯團。豚肉とキムチの割合はかなり大雑把だ。他の具材はおまけに過ぎない。

劉媽媽飯團
住所:杭州南路二段88號

海山の幸

もち米、揚げパン、コーン、ツナ、卵、豚肉でんぶ、豚挽肉、大根の漬物、からし菜の漬物、卵、海苔

メニューのなかで、もっとも高価で強烈に重い1品。詰めこめるだけの具材をすべて詰めこんでいる。腹ペコならうってつけだが、美食家にとっては大味すぎるかもしれない。

「揚げパンは、少なくとも1日置きます」とリュウ。「2度揚げしなければ、この食感は出せません」

劉媽媽飯團
住所:杭州南路二段88號

2色のスパイシーチキン

紫米、もち米、スパイシーチキンフィレ、鶏胸肉、煮卵、揚げパン、からし菜の漬物、大根の漬物、豚肉でんぶ

「誰が読むんですか? 台湾人が読むのなら、お断りです」。私が取材を申しこむと、チャン・ケンはこう答えた。彼は米大廚のオーナーで、台北市内の10カ所に屋台を出店している。

私は、英語で記事を書くと伝えた。

「わかりました」と彼。「地元の食通が屋台に押しかけてくるのが嫌なんです」

この発言は、事業主にとっては些細な心配に思えるが、台湾では、紛れもない問題だ。客がポルトガル・エッグタルト専門店に殺到した1997年の〈エッグタルト効果〉以来、このような現象が頻発している。

つまり、ある食べ物がメディアに取り上げられると、取材された店に客がいっせいに押しかけ、店員を圧倒してしまうのだ。短期ビジネスにとってはまたとないチャンスだが、そうでなければ、模倣品が出回り、いつかバブルは弾ける。しばらくすると、目新しさを失った商品は、誰も食べようとしなくなる。ここ数十年、台湾の消費主義文化において、〈エッグタルト効果〉は典型的な事例になっている。

「野次馬は御免です」とチャン。

しかし、チャンの店は、〈エッグタルト効果〉の犠牲者候補だ。紹介した他のどの店よりも、流行に敏感そうな客が多かった。人目を惹くふたり組の若者が店員を務め、若者、西洋的な味覚をもつ客をターゲットにしている。ピリ辛でスパイスの効いたチキンの飯團や、チーズを使った飯團もあった。

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「店で使う米は、すべて台湾中部産です」とチャン。「台湾の米は、世界の米のなかでも、特に粘り気が強いです」

米大廚
住所:地下鉄東門駅5番出口

チーズ

もち米、大根の漬物、からし菜の漬物、煮卵、豚肉でんぶ、揚げパン、チーズ

「毎朝3時に、ここに仕込みにきます」。新永泉豆漿のオーナー、トレイシー・チョウは、国立台湾師範大学の目の前、絶好のスポットに店を構えている。客は、主に学生、特に朝食をつくらない怠け者だ。

この店で話題のチーズは、決して高級品ではない。よくあるビニール包装の、なんの変哲もない米国製プロセスチーズだ。

「ベストセラーのひとつです」とチョウ。これは、新永泉豆漿の決まり文句だ。

新永泉豆漿
住所:龍泉街56號

ヴィーガン向けの五穀米

五穀米、からし菜の漬物、豆腐、大根の漬物、人参、大豆ミート

台北を出て中国本土に向かう朝。私は、餞別に、お気に入りの飯團を友人たちに紹介した。私のアパートの向かいにある小さな屋台だ。

ここ4ヶ月、私は、暖かくてほんのり甘い豆乳といっしょに、北方大陸餅の飯團を食べ続けた。コイン1枚、たったの50台湾ドル(約180円)だ。

この屋台に通いつめた理由は、店員の女性たちが私の顔を覚えてくれたからだ。毎朝ベッドから這い出て、パジャマのまま屋台に行くだけで、ひと言も発さずに私の飯團がでてきた。

友人たちは、屋台の女性が、私のお気に入りの具材、山盛りの漬物と豆腐を詰める様子を眺めていた。北方大陸餅が素晴らしいのは、気前が良いからだ。ここの飯團は、町の他の店と比べてもかなり大きい。彼らは、紫米やもち米の代わりに五穀米を使う。ナッツのような風味があり、もち米ほど粘り気が強くない。

「同じものをください」と友人たちも注文した。女性は頷き、何もいわずに、3つの飯團をつくり始めた。

北方大陸餅
住所:民生東路三段130巷5弄10號