湖のほとりから〈鳥人間コンテスト2018〉

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湖のほとりから〈鳥人間コンテスト2018〉

「空を飛ぶという人間の夢を実現させ、広く一般視聴者に航空機に対する関心の高揚に寄与したい」。読売テレビが主催する〈鳥人間コンテスト選手権大会〉が、今年も滋賀県彦根市の琵琶湖東岸で開催された。台風の影響で1日のみの開催となった鳥人間コンテストの裏側をお届けする。

「空を飛ぶという人間の夢を実現させ、広く一般視聴者に航空機に対する関心の高揚に寄与したい」。読売テレビが主催する〈鳥人間コンテスト選手権大会〉が、今年も滋賀県彦根市の琵琶湖東岸で開催された。2日間にわたって開催される当大会には〈滑空機部門〉と〈人力プロペラ機部門〉の2種類があり、大学生や社会人チームが1年間かけて自作した人力飛行機を、高さ10メートルのプラットホームから飛行させ、飛行距離を競い合う。東から西へ、異例のコースを進む台風12号が接近し、大会の開催を懸念する声も挙がった今年の鳥人間は、〈人力プロペラ機部門〉が部門不成立となるという、まさに大荒れの大会だった。1日のみの開催となった鳥人間コンテストの裏側をお届けする。

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7月28日、午前7時。どんよりとした曇り空のなか、1日目の〈滑空機部門〉がスタート。

日本いちの面積と貯水量を誇る琵琶湖の松原水泳場には、当大会のために設置されたプラットホームの周りを囲うように見物客が集まっている。レジャーシートのうえで寝転びながらスマホをいじる姿や、キャンプチェアの背もたれに深く腰かけ、半分うたた寝しながら大会を見学する様子から、大会の勝敗を固唾を飲んで見守るような緊張感や、迫りくる台風の影はなく、どこからかボサノヴァが流れてきそうな空気さえ漂っている。音楽のないフェスのような当大会を、見物客はどのように捉えているのだろうか。

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地元のかたですか?

ここから電車で30分くらい離れたところに住んでいます。彦根駅から琵琶湖まで無料のシャトルバスが出てるので、それに乗って来ました。

毎年、鳥人間コンテストに来ているんですか?

今回初めてです。テレビでずっと観ていて、生で観てみたいなと。ピクニック感覚で来たので、観覧席より岸のほうが、そんなにひとが多くないのでいいですね。

収録スペース、観覧席、スタッフ席

ピクニック感覚なんですね。滋賀県民は、みんな来るんですか?

いや、鳥人間を観にいったという友人もいないので、滋賀県民がわっと集まる感じではないのではないでしょうか。もっと屋台とかが出ていれば嬉しいですね。

どちらからいらっしゃったんですか?

私は東京から。ずっと鳥人間を観てみたいと思っていたの。でも、2ヶ月前になってホテルを探したら、近くのホテルはどこも予約がいっぱいだって。ここから高速道路で40分くらい離れた大垣のホテルが空いていたから良かったけど。

生で観る鳥人間コンテストはどうですか?

やっぱり、テレビで観るのとは違いますね。事前にネットで調べたら、テレビの放送では次々に飛行機が飛んでいくけど、実際は、あいだの待ち時間がある、とか色々書いてあって。あと、番組の放送は1ヶ月後でしょ。ずいぶんあいだが空くのよね。うっかり放送を逃しちゃいそう。

〈滑空機部門〉のプログラムが順調に進行するなか、降ったり止んだりを繰り返していた雨が止み、厚い雲に覆われていた太陽が顔を出した。それまでのどんよりした天気から一変し、水面や機体、大会参加者の首筋を這う汗が、太陽の光を浴びて光りだす。

時刻は12時を過ぎ〈滑空機部門〉のフライトが終了した。大会運営は、台風の動きを考慮し、明日開催予定だった〈人力プロペラ機部門〉をこのまま開催すると発表した。強い風が容赦なく吹きつけるプラットホーム上に、〈人力プロペラ機部門〉に出場する機体が続々と運ばれていく。

琵琶湖周辺の道路では、出番を終えた参加チームが機体を解体し、荷物を片付けトラックに積んでいる。その道沿いで、ポストカードを販売している店があった。

2017年の鳥人間コンテストをモチーフにした ポストカード

素敵な絵ですね。毎年この場所でポストカードを売ってるんですか?

いや、店を出したのは今年が初めて。ここはパン屋さんの駐車場なんだけど、オーナーが「今日明日は車がこの道に入れなくて常連さんも来ないから、パン屋はお休みだ」って、場所を貸してくれて。

鳥人間をどう捉えていますか?

彦根で鳥人間をやるのも定着化しとるし、それなりに経済効果もあるんだろうけどね。意外と、地元のひとがあんまり来てへんからね。最初の頃は、めずらしさもあって、もっと家族連れが多かったけど。こんな暑いし、最近来てるのは、参加者と関係者くらいじゃないのかな。せっかく若者がたくさん集まるのやから、なにか上手くできればいいのに。

素敵な絵ですね。毎年この場所でポストカードを売ってるんですか?

いや、店を出したのは今年が初めて。ここはパン屋さんの駐車場なんだけど、オーナーが「今日明日は車がこの道に入れなくて常連さんも来ないから、パン屋はお休みだ」って、場所を貸してくれて。

鳥人間をどう捉えていますか?

彦根で鳥人間をやるのも定着化しとるし、それなりに経済効果もあるんだろうけどね。意外と、地元のひとがあんまり来てへんからね。最初の頃は、めずらしさもあって、もっと家族連れが多かったけど。こんな暑いし、最近来てるのは、参加者と関係者くらいじゃないのかな。せっかく若者がたくさん集まるのやから、なにか上手くできればいいのに。

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DINER POP

本当は8月1日オープンなんですよね。今日はプレオープンですか?

プレオープンの前の余興(笑)。ここに店出すっていったら、みんなが「鳥人間と8/1の花火はすごいで」って。昨日、隣のセブンイレブンのおじさんとも「お互いがんばりましょう!」と話したんだけど、うちは余興なんで、今回は儲からなくていいんですけどね。

ちゃんと営業するのは、来年からなんですね。

そうですね。でも、さっき神戸ナンバーのひとから「お金払うんで停めさせてください」っていわれて。駐車場屋やったほうが儲かるんちゃうか、とも思うけどな(笑)

〈人力プロペラ機部門〉の数機がフライトを終えたところで、琵琶湖の水面に白波がたつほど風が強く吹きはじめた。高さ10メートルのプラットホーム上では、強風に煽られた機体が、なかなか飛び立つことができずに、風が少しでも弱まるチャンスをうかがっている。このままでは、参加者や関係者の命に関わる事故につながりかねないと、安全面を考慮した大会運営は、やむなく大会の中止を決断した。

番組MCの東野幸治氏は「この1年の辛さ悔しさをまた来年にぶつけてほしい、というのも簡単なんですけど、今年で卒業してしまう部員のみなさんのことを考えると…」と言葉をつまらせ、フリーアナウンサーの羽鳥慎一氏もまた、「大会まで準備をしてきたひとのことを考えると、簡単には『大会を中止します』とはいえません。すごくギリギリの判断だったんだろうな、とは思うんですけど」と、悔しさとやるせなさを滲ませていた。

台風の影響により〈人力プロペラ機部門〉は部門不成立となったが、琵琶湖のほとりから眺める鳥人間コンテストは、テレビでは映しきれないひとびとのドラマで溢れていた。声をかけあいながら機体を組み立て、1歩ずつプラットホームの頂上まで運んでいく大会参加者たち、琵琶湖のほとりでのほほんと大会を眺める見物客、刻々と変化する天候に一喜一憂する大会運営スタッフ、琵琶湖で水遊びをしだす子どもたち。テレビ放送のみならず、何が起こるかわからない、大いなる可能性を秘めた夏の一大イベントとしても、鳥人間コンテストの今後が楽しみだ。