アメリカン・ストリートアートが変える渋谷の風景

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アメリカン・ストリートアートが変える渋谷の風景

ニコニコと意気揚々と輝くビルボードがひしめきあうこの渋谷という街は、彼にとってどのように映り、どんなアートを残したのか?

3月1日、8時。パルコパート1の壁面には足場が組まれ、白いキャンバスだけが用意された状態。

アメリカのサインペイントアーティスト、ブライアン・パトリック・トッドが来日。3月1日より渋谷のほぼ中心に位置する渋谷パルコパート1の巨大な壁をキャンバスに、アートペインティングをライブで制作した。目立ってなんぼの広告看板なのだから、その街の情景なんてものは一切無視、というかむしろ違和感があればあるほど目を引くのが当たり前とされてきた日本の多くの広告を尻目に、前回アップした記事でもブライアンが語っていたとおり、その地域といかに寄り添いながら街を彩ることが出来るのか?サインペイントをはじめとする、現代のストリートアートが世界規模でそんなベクトルに向かいつつあるのは確かな事象だろう。

さて、今もニコニコと意気揚々と輝くビルボードがひしめきあうこの渋谷という街は、彼にとってどのように映り、どんなアートを残したのか?そして、SMIRNOFF®が掲げる「インクルーシビティ」、「オープンネス」というコンセプトのもと、この作品がこの場所で暮らす、あるいは働く人たちにどのように受け入れられ、そしてブライアンが渋谷という文化をどのように昇華したのか。作業をすべて完了したばかりのブライアンに聞いてみた。

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Text By 遠山展行

壁面を黒に塗りつぶす作業からスタート。

「VOICE」の文字と桜のグラフィック、最終的に白で仕上げる部分を残し黒で乗りつぶす作業は、描き始めてから、およそ5時間で完成する。

朝9時から18時まで、ひと時の休みもなく描き続け、3月1日、初日はここまで完成。

今回の作品のコンセプトは?

まず、寒い冬から暖かい春になるという期待感や、新しいことが始まる春という季節が持つ喜びや希望みたいなものを表現したかった。そして、自分が初めて訪れる日本の街の人たちの声、目標だったり願いごとを集めて、その言葉が僕の作品を取り囲む。そうすることで、彼らの気持ちが僕の気持ちとともに作品に反映される。そんな作品にしたかった。だから、自分の作品に英語以外の言葉を取り入れるのは今回が初めてだったんだ。

そんな新たなチャレンジにもかかわらず、作品の完成は当初の予定より早まったんですが、かなり順調だったのでしょうか?

そうなんだ。全てがスムーズに進んで、自分でも驚いている。素晴らしい経験をさせてもらったよ。今朝、足場が撤去されてから、共同制作者のカービーと一緒に見て、良い作品に仕上がったと改めて思った。とにかく無事に作り終えることができてとても満足しているよ。すべて未体験の日本、東京という街で自分の作品を創ることができたことに感動している。

1回目のインタビューで、作品に着手する前に、その周辺を歩いて街をリサーチするとおっしゃっていましたが、今回はどうでしたか?

スケジュール的に作業を始める前にはできなかったんだけど、作業を進めるなかで朝から晩まで渋谷で過ごして、グーグルマップで見たのとは全く違う渋谷の姿を見られて、素晴らしい経験がたくさんできたよ。

予定を上回るハイペースで作業を進めながら、街行く人々とのコミュニケーションも積極的にとるブライアン。

制作中に街の人とコミュニケーションをできるだけ取りたいともおっしゃっていましたが、実現できたようですね?

すごく楽しかったよ。作業中に話しかけられることもあったし、足場から降りて質問に答えたりもした。多くの人がどんなものを描いているか興味があったみたいだね。特に日本語のメッセージを書き始めたときは、より多くの人が興味を持ってくれていたようだった。

3月2日、中心のグラフィックが完成し、それを囲むようにして周辺を描き始める。

英語で会話していたんですか?

日本語も試したけど、全然ダメだった(笑)。でも、みんなどうにかして理解しようとしてくれたよ。日本語のサウンドは聞いていて楽しいから、僕はなるべく言葉を発しないようにして、周りの声に耳を傾け、その場の様子や言葉を吸収しようと心がけていた。

作品に描かれた日本語の意味は理解していたのですか?

もちろん。募集して集まった、たくさんの願い事を翻訳してもらった文章と一緒にもらって、その中から僕が選んだ。「料理がうまくなりたい」みたいなパーソナルなものから、「世界平和」みたいな大きな願いまで、いろいろあって面白かったし、その幅の広さを作品に反映できるようにデザインした。

実際に日本語を書くのは難しかったですか?

日本語の文字は今回一緒に作品を作ったカービーが担当してくれたんだけど、とても楽しんで書いていた。特に日本語特有の「はね」や「はらい」を筆で書くのが面白かったみたいだけど、意外と簡単にできたそうだよ。出来栄えもなかなかのものだった。日本語についてはこのプロジェクトが決まってから、色々調べていたんだ。もともと興味もあったし、ある程度きちんと知識を持っておきたかったからね。漢字は大昔に中国から日本に来たもので、それが独自に変化していったことは知っていたけど、それがひらがなやカタカナと混ぜて使われているということには驚いたよ。日本語の文字はイラストや絵のように見えることもあるよね。

日本語のように、いろいろとリサーチすること自体が好きなのですか?

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そうだね。これはいつも心がけていることなんだ。このプロジェクトもそうだしサインペインティングの技術も然り、常に新しいことを学んだり、旅先ではその土地のことをできるだけ理解しようと心がけている。なぜなら僕は各地に行って作品を仕上げたらそれで終わりだけど、その作品はその土地に残り、その土地の人々の生活の一部になるわけだからね。それを考えて作品を作ることが大事なんだ。

桜のモチーフなど、全体的に日本をとても意識したデザインになっていますが、あなたのこれまでの作品と比べると、色数が多くてカラフルな作品に仕上がっていますよね?

そうだね。普段は多くても3、4色しか使わないからね。まず1つは新しい方向性にトライしてみたかった。渋谷というとても賑やかで、たくさんの看板に囲まれている、そんなノイズの多い街の中で、どんな作品にしたら人目をひくのか想像してデザインを考えていた。桜の時期には少し早すぎたようだけどね(笑)。

その渋谷の「ノイズ」の中で、特に何か気になるものはありましたか?

歴史のありそうな古い看板に目が引かれたよ。大きな文字が筆で描かれているものは特に印象的だった。日本語は文字が縦に並ぶのも面白い。英語ではありえないことだしね。

普段は電動式シザーリフトを使って作品を描くと伺いましたが、今回は足場を組んでの作業ということで、来る前に心配されていたと聞いていますが。

実は足場を使っての作業は今回が初めての経験だったし、アメリカの足場はとても不安定で揺れまくるから、正直懸念していたんだ。でも、日本の足場はすごく安定していて階段までついている。本当に素晴らしくて、これには驚いたよ。それに、リフトだと1度に1箇所しか作業ができないけど、足場だったら僕とカービーが別々の場所で同時に作業を進めることができる。おかげで当初は5日間かかる予定だった作業がはかどっちゃって、3日で完成したんだ。どうにかして持って帰れないかなぁ、この足場(笑)。

3月3日。作業は順調に進み、予定より2日前倒しで作業が終了する。周りに描かれた日本語のメッセージも軽々と描き上げる。

今回あなたが参加したSMIRNOFF®のアートプロジェクトのテーマであるInclusivity(人種や文化などの多様性や違いを受け入れること)やOpenness(異なる文化や経験などに対して心を開くこと)から、実際にどのようなインスピレーションを受けましたか?

普段作品を創るときには自分の言葉しか使わない。だけど今回のプロジェクトでは自分以外の人の言葉や気持ちを取り入れて、しかも知らない土地の人と彼らの言葉で1つの作品を創ることができると知って、本当にワクワクしていたんだ。また機会があれば是非やりたいし、今回のプロジェクトは自分に新しい方向性を見出す機会を与えてくれたよ。

この作品で渋谷という街にどんな影響を与えたいと思っていますか?

まず、大きくはっきりと描かれた文字や、日本語と英語とのコラボレーションを見た人々が、世界がひとつだと感じて欲しい。そしてここに描かれているメッセージを見て、それを自分の人生に吹く春の新しい風のように感じてくれたらいいと思う。渋谷という街の一部になったこの作品からたくさんの人がそういったことを得てくれたら嬉しいな。
そして世界中の他の都市でも、街の中で人々がアートに触れる機会がもっと増えるといいと思う。広告としてのビルボードではなく、大きなアート作品がもっと街の中に存在するきっかけになってくれるといいね。

ブライアンのサインペイントと、日本の人々から寄せられたメッセージが融合したミューラル。

ところで今回、実際に滞在してみて日本の問題点や違和感みたいなものはありましたか?

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問題なんて全くなかったよ。むしろ日本の人たちの印象は本当に期待以上のものだった。少なくとも僕が接した日本の人はみんな親切で、人を敬う気持ちを持って、辛抱強い人ばかりだった。街の人の態度もとても丁寧で、むしろ僕の方が大声で話したりして、問題だったんじゃないかな(笑)?

日本人はアメリカと比べてシャイで神経質で、逆にあまり周りを受け入れることが苦手な人が多いと思うのですが。

そうなの?それは面白いね。そんな風には思いもしなかったよ。とにかく今回のプロジェクトを通して築いた人間関係は全てポジティブなものだったし、みんなとても温かい人ばかりでホスピタリティに溢れていたよ。

最後になりますが、今回のプロジェクトを通して感じたことや得たものがいろいろあったと思います。それらは今後あなたの作品に影響を与えたり、作品自体にも変化をもたらすものでしたか?

もちろんだ。僕はレター、つまり文字のグラフィック自体が本当に大好きなんだ。そしてサインペイントという仕事には、アメリカの歴史が反映されている。1つ興味深いと思ったのは、日本人はアメリカの文化をとても愛しているということだ。店のショーウィンドウやサインに描かれている文字やデザインを見てもそれがわかった。しかもその中には、僕が見たこともない新しいアイディアを持ったものもあった。このプロジェクトを通して新しいことにチャレンジすることができたし自分の作品創りに対しても新たな方向性を示してくれたと思うよ。

Bryan Patrick Todd

アメリカ、ケンタッキー州ルイビル在中のアーティスト。2016年3月1日から8日まで、渋谷パルコの外壁を使い、ライブでアートワークを制作した本プロジェクトのようなサインペインターとして活躍しながらも、雑誌『エスクワイア』のグラフィックデザインなども手掛ける。

SMIRNOFF® GROBAL ART PROJECT
2016年3月1日から8日まで、渋谷パルコパート1、オルガン坂アートスペースで行われた日本でのイベントを皮切りに、世界中で様々な形で展開されていくアートプロジェクト。

下記第一回目インタビュー
新たなストリートアート、サインペイントが変える街の景色

*今回の渋谷アートペインティングの映像は次ページにて公開!