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ハラスメントと闘う女性メッセンジャー

「過去に1度、車に乗った連中に追い回されました。連中は窓に身を乗り出し、『俺のポコチンをブチ込んでやる』と叫んでいました」

「いい脚だ」というコメントをする男性。「お前の死体を犯してやる」と車中から汚言を吐く輩たち。バイクメッセンジャーとして働く女性は、日々、極端に露骨なセクハラと対峙している。ケルシー・フィリップス(Kelsey Phillips)は、女性バイクメッセンジャー組合(Women’s Bike Messenger Association、以下WBMA)の創設者であり、女性メッセンジャーたちの日常を改善しようと奮闘している。

フィリップスがフルタイムのバイク・メッセンジャーとして働き始めてから2年が経つ。彼女は、微生物研究の博士課程を中退を決心すると、バイク・メッセンジャーになるしかないと確信していたそうだ。苛立つドライバーたちの間をうまく走り抜け、警官たちに違反切符を切りたくてウズウズさせながら、決して高額とはいえないチップのために配達でシカゴ中を自転車で駆け回る。就労条件は、彼女にとって問題ではなかった。彼女は自転車に乗るのが大好きだったが、すぐに、ありきたりな冷やかし、より攻撃的で恐ろしい脅迫まで、止む気配のないハラスメントととも契約してしまったのを知った。ストリートはメッセンジャーにとってオフィスだ。そこで働く女性たちは、決して休息を取れない。

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2015年、コロラド州デンバーで開催されたバイクメッセンジャーの集会で、フィリップスと他のひと握りの女性メッセンジャーたちがWBMAを立ち上げ、メンバーの結束の固さを実感したようだ。メッセンジャーの圧倒的多数は男性であり、WBMAのメンバーも同僚男性の大勢が協力的だとわかっていながら、女性メッセンジャー、将来メッセンジャーになりたいと望む女性のために、コミュニティ内では特別な配慮が必要だと実感した。デンバーでの初集会では、止むことのないストリートでのハラスメントも含め、世界中の女性メッセンジャーたちが経験を共有し、結束を固めた。

WBMAの立ち上げから1年が経過し、不愉快な出来事が、メッセンジャー会社「Cut Cats」に所属するフィリップスと彼女の同僚たちの活動に拍車をかけた。結果、彼女たちは、女性メッセンジャーにまつわる問題を対処するための公共広告風の動画を制作。この動画は、投稿から24時間以内に2万5千人以上の視聴者を獲得、アーバン・サイクリストのあいだで拡散され、シカゴの地元報道局の番組でも取り上げられた。われわれは、フィリップスを取材し、ストリートを自転車で駆け回り生計を立てる女性、彼女が制作した動画に対して性別を問わず彼女の同僚たちが示した反応、彼女のメッセージが自転車の世界を超えて共感を呼んでいる理由について話を聞いた。

この言葉を使うのはいい気がしませんが、あなたが「普通」の女性として経験したセクハラではなく、あなたがメッセンジャーとして経験したセクハラを具体的に教えていただけますか?

セクハラには毎日遭っていますし、私がメッセンジャーになる以前よりもセクハラに遭う回数は多いです。悲しいかな、慣れてしまったので、あまり驚かなくなりました。日に何度も自転車を駐輪しますが、その度に、脚についてセクハラを受けます。冬になると、「こんな寒い日に外出するべきじゃない、お嬢ちゃん」と声をかけてくる男もいます。

私が感情的になってしまうのは、自らの日常と男性同僚の日常が異なるからです。ある建物に配達するさい、毎回のように、セキュリティデスクやドアマンに到着を報告しなければなりませんが、男性の同僚ならIDを提示し、署名するだけで、何の問題もなく何の汚言を浴びせられもせず、配達を終えられます。しかし、私がそこに配達した場合、警備員は「電話番号を教えてくれなければ、IDを返さない」といったり、私が署名するあいだに、私が外した手袋で遊んだりするんです。

私は、単に自分の業務をこなしたいだけです。なので、そのようなことをされるとイラつきます。勤務中に、「お嬢ちゃん」や「かわい子ちゃん」と声をかけられると、「そんな風に呼ばないで」と返しますが、それだけで連中は怒りだします。連中は、「どうしてかわい子ちゃんと呼ぶのがダメなんだ?」といいますが、彼らは、私の父親ではありません。

そういったセクハラは、主に見知らぬ人から受けるのですか? もしくは、あなたは男性メッセンジャーからセクハラを受けた経験はありますか?

男性メッセンジャーからセクハラを受けた経験はありません。少なくともシカゴ市内の男性メッセンジャーは、全員、女性メッセンジャーをとてもリスペクトしてくれています。彼らは、私たちが、彼らと同じように業務をこなしたいだけだ、と理解してくれています。それに、もしも私たちが身体的な恐怖にさらされた場合には、彼らは私たちを助けてくれます。私は、過去に1度、車に乗った連中に追い回されました。連中は窓に身を乗り出し、「俺のポコチンをブチ込んでやる」と叫んでいました。私が無線機を使い、仲間に助けを求めますと、7人の男性メッセンジャーから応援の申し出がありました。幸い、その車のドライバーは、スピードを上げて即座に走り去ったので、私は被害に遭いませんでした。私の同僚は素晴らしい人ばかりです。セクハラしてくるのは、決まってその辺にいる下衆野郎です。下衆たちは、私たちのそばを歩いていたり、車を運転していて私たちを見かけると、何か汚言を発するか、私たちの体か自転車に触れなければ気が済まないんでしょう。

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先ほど、警備員から私的セクハラを受ける、とおっしゃっていましたが、そのようなタイプのセクハラは特定の状況で、しょっちゅう発生するのでしょうか?

同僚のサラ(Sarah)が、私たちは常に単独行動するから、下衆野郎どもにとっていいカモなんだ、と分析しました。私はフードデリバリーも数多くこなします。毎度のコトなんですが、もしもレストランでハラスメントを受けたとしましよう。私は、そんな連中に下劣な言葉で仕返しは出来ません。なぜなら、顧客であるレストランの店内にいるんだし、自社の評判を落とすワケにもいきません。そんな状況では、返す言葉もなく、身動きが取れなくなるんです。オフィス内で働く女性たちも同じような経験をしています。プロらしく振る舞ったうえで、そのような行為はダメだ、と伝えるには、どのように対処すればいいんでしょうか? それはパワハラでもあります。以前、ある警官が私の脚を見て、とても強そうな脚だ、と言いました。私は、「くたばれ」とやり返したかったんですが、相手はシカゴ警察です。そんな言葉を口にできません。

ドライバーたちから浴びせられる汚言は、警備員や歩行者から浴びせられのと何か違うんですか?

自転車乗りであれば誰しも、自動車のドライバーたちから迷惑行為を受けます。しかし、対象が女性である、とドライバーが気付いた途端、自転車乗りたちに対する怒りと性別を組み合わせます。そうして絡みあった感情が、性的な迷惑行為に変わるのです。なぜなら、自転車に跨っているのは、ひとりの女性です。この状況は、事態をよりおぞましくします。以前、バイクレーンを走っているドライバーに叫んだんですが、その男は、私の真横に車を寄せて、「アバズレ」と叫びました。私が「くたばれ」とやり返すと、「おい、アバズレって呼んで何が悪いんだよ? このビッチが」とさらにやり返してきました。

最悪なのは、ミネアポリスの仲間から聞いた体験です。あるドライバーが彼女の行く手を阻み、危うく轢かれそうになったので、そのドライバーに叫んだそうです。するとドライバーは、「お前の死体をレイプしてやる」と怒鳴ったらしいんです。それには返す言葉もありません。もしもある下衆が、クラクションを鳴らして、側に寄ってこようものなら、団結してそのような行為に対処します。しかし、「レイプ」という言葉は許容量を超えています。それを面と向かって吐かれると、動揺して混乱してしまいます。

あなたたちが制作した動画に登場するほとんどの女性は白人で、WBMAの現メンバーの多くもほとんどが白人です。われわれは、フェミニストとして、有色人種の女性が白人女性とは異なるハラスメントを受けるているのを知っています。あなたの地域やWBMAが、有色人種の女性メッセンジャーを支援するために行っている取り組みは何でしょうか?

有色人種の女性に対する路上でのハラスメントは、明らかに白人女性に対するものとは異なります。しかし、それは、私が個人的にお話しできるトピックではありません。まだまだ初期段階なですが、メッセンジャー・コミュニティ、一般的な自転車コミュニティに共感する女性が、躊躇うことなくコミュニティに参加できるできるようにするのが、WBMAの目標です。メッセンジャー・コミュニティは、WBMAのメンバーが集結する大きなイベントに好意的ですし、コミュニティのメンバーは、世界中から集まった、異なる言葉を話す、異なるコミュニティの見知らぬ人々のために自宅を開放してくれたりもします。

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これまでWBMAの公式会合は1度だけしか開かれていません。その会合は、グループ内に公示され、安全な公共のスペースで開催されました。誰でも議題を発議できるよう、全員を招待したんです。自転車にまつわる多様性の問題は、メッセンジャー・コミュニティに限った話ではありませんからね。

あなた以外のWBMAメンバーから何を聞いたんですか? アメリカ国外で働く女性メッセンジャーが体験したハラスメントについて教えていただけますか?

体験談の内容はすべて似たようなものです。場所によって内容が異なりはしません。コペンハーゲンのように、サイクリングがどこよりも受け入れられており、自転車移動が当然な素晴らしい自転車都市であろうと、路上でのハラスメントは発生します。私たちは、全く同じ体験をしています。

動画を製作した意図は何だったんですか? あなたをこの問題に対峙する気にさせるような出来事があったんですか? それとも、長い間そのような出来事が続いているのでしょうか?

約1ヶ月前のある日曜日、配達を終えた私は自転車のロックを外していました。すると、パジャマのズボンを履いた男が犬を連れてやってきました。その男は、私の近くにきて、私の自転車を奪い取ろうとしました。私が自転車を奪い返し、怒っていると、その男は「そんなことより、お嬢ちゃん」と自らの性器について話し始めました。私は、「何だこのクソ野郎は!? 犬の散歩の最中に女の子の自転車を盗むフリして、アソコを触らせようとでもしているのか?」と頭のなかで考えてから、その男を怒鳴り散らし、罵ってやりました。しかし、そんな連中は、女性に叫ばれるのが好きなようです。連中は、ニタッ、とした笑みを浮かべて、より性的にイヤらしいことを企てます。そんな態度をされて、いい気はしません。

私がその場から走り去ったとき、悲しみはなく、怒りだけが湧いてきたんです。この出来事について同僚と話していると、私は、エアホーンをその男の顔に向けて鳴らしてやればよかった、と思いついたんです。なぜなら、対処法なんてありませんから。私は、似非公共広告動画を制作するために、このアイデアを温め、友人で、優れた動画制作者で映像編集者でもある、チェイス(Chase)にこのアイデアを伝えました。彼は、動画制作全般を手伝ってくれました。私たちは、Cut Catsの女性メッセンジャー全員を撮影のために集めたんです。

チェイス・バウアー(Chase Bauer)がVimeoに投稿した動画『Cut the Catcalling: Women’s Bike Messenger Association』

あなた以外のCut Catsの女性メッセンジャーたちが、動画の制作に参加した理由は何だったのでしょうか?

Cut Catsには6名か7名の女性メッセンジャーがいます。みんなでセクハラについて毎日話しています。私たちは、無線を携帯しているので、セクハラが発生した場合は、無線で、「最悪。クソ野郎が私のお尻を掴んだ」と報告したり、共感したりしています。私たちは、毎日、ただ汚い言葉を浴びせられるだけではありません。自転車での走行中、車から身を乗り出して、私たちのお尻を掴んでくる下衆もいます。これは、とても危険な行為です。私が、似非公共広告動画を制作するアイデアを閃いたのも、そういった出来事が頻発していたからです。従って、Cut Catsの女性たちは、超乗り気だったんです。

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動画のコンセプトは、「もしも実際に、汚言を浴びせてくる下衆野郎の元に戻ってやり返せるとしたら、何て言う?」でした。単に「くたばれ」とやり返すだけでなく、そのときの気持ちをきちんと男に伝えて、その男の発言、行動の何が問題なのか、説明するよう心がけました。コトが起こったその場で理解したかったけれど、現場を離れて5分したら頭に浮かぶ考えとは何か。それを明確にするのは簡単ではありませんが、私たちは、それに取り組み、最適な言葉を見つけました。

動画を観た人々の反応はどうでしたか? 何か特別な反応はありましたか?

すごくポジティブな反応が返ってきました。多くの女性が「ずっと、こんなセリフを叩きつけてやりたかった」と反応してくれました。それは、女性メッセンジャーたちがいつも感じていて、下衆野郎に伝えたかった文句を言葉にしたんです。世界中の女性が、動画を各言語に翻訳するようリクエストしてきました。そうすれば、世界中のみんなが動画を友人に紹介できるからです。動画のシェアを通して、サイクリング・コミュニティの外の女性も動画に反応を示すようになりました。私にとって、これは大きな前進です。そんな反応にはビックリしています。動画は素晴らしい、と自転車仲間が評価しくれるのは予測していましたが、それ以外のみんながこの動画について、SNSで投稿したり、話題にするとは予想もしていませんでした。しかし、この動画のコンセプトは、メッセンジャーに限らず、女性全般に共通したテーマだったんです。私が動画を投稿した4時間後にWGN(彼女の動画を番組内で取り上げたシカゴの地方報道局)から電話があり、「Twitterで動画を見ました。すごく共感できました。私がリポーターとして路を歩くと、こんなセクハラに対処しなければならないですから」と女性レポーターは教えてくれました。バイクメッセンジャーでない女性とこの動画について話をするのは、とてもクールです。

たとえ下衆な男性が的外れなコメントをしたとしても、サイクリング・コミュニティ全体がそんな連中の前に立ちはだかります。連中が女性の注意を引こうとしているのは明らかですが、仲間が集結し、そんな下衆を締め出すのを目の当たりにすると、本当にスッキリします。インターネットの掲示板などでも、いつもくだらない遣り取りが繰り広げられています。例えば、「なぜ女どもが大げさに騒ぐのか理解できない。どうして『いい脚をしてるね』と褒めたらダメなんだ?」といった類のコメントです。しかし、仮にも30億人の女性が、「そういった行為を止めて」と要求しているのに、どうして連中は止めようとしないのか理解できません。ただ、私にはわからないんです。

この動画の制作、共有を通じて、あなたは何がどうなるよう望んでいますか?

この動画は、女性の身に降りかかる出来事について話し合うためのキッカケにしかなっていません。最近、世間では、この動画が話題になっていますが、私は、動画で扱われているトピックが、真摯な議論の対象になって欲しいんです。男性が下劣さを自覚していない、女性に嫌な思いをさせる行為について意見交換しています。対話をオープンにし、女性の嫌悪感を発信すれば、男性にいっ考を促せるかもしれません。男性の大勢は、自らがナイス・ガイであると勘違いしています。お前の死体を犯してやる、そんな発言は上品でもなんでもありません。いい脚してるね、と声をかけられても、それは褒め言葉ではありません。

下劣な言葉を発する野郎どもを擁護する気はありませんが、連中は、私たちを褒めている、と本気で勘違いしているフシがあります。私たちは日々を改革しようとしているんですから、そんなことされても、単に不愉快で、悲しい気持ちになるだけです。こういった対話を始めたのも、路上で女性に下劣な言葉を発する前に、自らの行為について今1度考えてもらいたいからです。この動画を制作したからといって、決して、野郎ども全員が、鬱陶しい、下劣な発言を止めるワケはないでしょうが、少なくともそういった行為についての対話の機会は開かれています。