シワを伸ばしたいのは顔だけではない

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シワを伸ばしたいのは顔だけではない

ボトックスはボツリヌス菌から抽出されるたんぱく質の一種。これを身体に注射すると、筋肉は弛緩する。この行為は美容用途にも用いられ、額や目の周りのシワが少なくなるとして、一般女性を中心に広まっている。しかし、今では男性も打つ。それもアソコにである。

〈スクロトックス(Scrotox)〉とは、〈スクロータム(陰嚢)〉と〈ボトックス〉を合体させた造語だ。おそらくみんな、「キンちゃくに神経毒を注射する? 何で?」と首をかしげるだろう。しかし、ハンドスピナーとか、〈#allthefeels〉などと同じように、スクロトックスなるものがどうしたわけか流行っているらしい。そんな記事の見出しを目にして、私も不思議だった。

しかし、大して深く考えずに、私は〈挑戦してみてもいいかもリスト〉にスクロトックスを加えた。単純に、編集者がおもしろがってくれそうだったからだ。案の定、彼らは、「実際に体験したら最高だ!」と盛り上がってくれた。私も、この可愛いキンちゃくにボツリヌス菌(=極めて致死性の高い毒素)たっぷりの注射器をブッ刺し、常識よりも股から離れたところに、キンちゃくが、ダラララぁーん、とぶら下がっていたらおもしろいだろう、と考え始めた。

ボトックスやそれと同レベルの神経毒を身体に注射すると、筋肉は弛緩する。この行為は美容用途においてFDA(食品医薬品局)に認可されており、笑ったとき、眉をしかめとき、そして最近では、トランプ大統領の朝6時のしょうもないツイートに反応するときに使っている表情筋さえも緩められる。このように部分的且つ、一時的に筋肉を麻痺状態にすれば、額や目の周りのシワが少なくなる。考えてみればキンちゃくはシワくちゃなので、誰か進取的なチャレンジャーが、ツルツル、ノビノビにさせたいと願うのも、時間(+後期資本主義)の問題だっただろう。そう、世間はキンちゃくのシワをなくすためにタマキン、否、大金を払うのだ。

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まず、ツルツル、ノビノビにしたい野郎どもに伝えておきたい。泌尿器科の開業医であり、ニューヨークのNYUランゴーン・ヘルス泌尿器科教授であるセス・コーエン(Seth Cohen)からの教えだ。彼にスクロトックスについて尋ねる患者が大勢いるという。「顔のシワは、保護のためにあるのではありません。顔にシワができるのは、単なる老化現象です。しかし陰嚢のシワには機能があります。シワがあるおかげでケガから守られるし、安全に精子をつくりだせるのです」

人間は、陰嚢内に睾丸を収めている。睾丸で精子がつくられ、それが卵子へ到達すると、さらに人間がつくられる(まだ人間の数は足りないらしいが)。精子が質が高ければ高いほど、量が多ければ多いほど、遺伝子が受け継がれる可能性も高くなる。

最高の精子がたくさんつくられるためには、最適の温度が必要だ。それこそ摂氏35度。しかし人間の身体の中核温は、摂氏37度と少し高い。人間、その他、地上に生きる北方真獣類(ボレオユーテリア)のオスの哺乳類(サイは例外。興味深い)が、彼らのいちばん大切な〈資産〉を、「それ、余ったヒジの皮でつくったの?」と聞かれそうな滑稽袋のなかに入れて、両脚のあいだに無防備にぶら下げているのには、そんなかわいそうな事情があるわけだ。

さらに事情は厄介だ。環境の温度や人間の生殖腺は常に変動している。つまり、睾丸を〈生命居住可能領域〉に置いてあげるには、睾丸を身体から離したり、近づけたりと絶えず調整しなくてはならないのだ。暑くなったら布団から片足を出すように、タマキンが身体から離れた位置にあるのは、人間の進化における適応のひとつと捉えればいい。

しかも、キンちゃくが伸びたり縮んだり、タマキンが乱高下する理由は、気温の変化だけではない。睾丸は、危険が迫ると〈闘争/逃走反応〉をするし、射精の前には縮む。これらの変化に対応するために、タマキンを然るべき位置に保ってくれる精巣挙筋と肉様膜筋の働きが重要になる。「自転車やランニング、エクササイズ、そういった激しい運動のあいだは、陰嚢は弛緩と収縮を絶えず繰り返します。睾丸を外傷から守るためです」。コーエン教授は解説してくれた。「(ボトックスで)陰嚢を弛緩させると、精巣挙筋は機能しなくなります。そうなると睾丸が傷を負う危険性が増します」

スクロトックスは、キンちゃくの周りの筋肉を〈スリープモード〉に切り替え、何百万年もの進化の歴史を〈無〉にする。ボトックスの効果が続くかぎり、平均で3~4カ月のあいだシワは減り、キンちゃくの位置は下がったままになるのだ。

この行為は、キンちゃくの卓越した自然機能をもてあそぶようだが、「人間はブルドッグのような陰嚢に憧れるんです」、そう語るのは、形成外科医のジョン・メイサ(John Mesa)先生だ。「なめらかなだけでなく、重そうに垂れ下がって、大きな陰嚢に見えるようになるのです。陰嚢は両足のあいだで揺れ、音を立てます。その様が、自分自身、そしてパートナーの性的興奮を高めるのです」。彼は、ニューヨークにある診療室でそう述べた。

最後の説明に関しては、私の女友だちが補足してくれた。「ぶらぶら揺れるキンちゃくが当たったら、確かに気持ちいいわ」。何がいいのか訊くと、「単純にぶつかる感がいい。それにコンドームをつけると感覚が失われるでしょ。ぶらぶらしてたら、肌と肌とが触れ合う感覚が得られるわ」

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更にメイサ先生がいうには、キンちゃくがタイトな男性だと、痛みを感じる場合もあるそうだ。温度が低いとタマキンは持ち上がり、周辺の皮膚が収縮する。そういうタイプの人々や、キンタマが汗をかきやすい男性などにとって、スクロトックスは疾患の解決法になるともいわれている。

強いコロンビア訛り、ぴちっと合ったネイビーのスーツ、きれいに日焼けした肌、口をゆがめた笑顔、落ち着いたふるまい。メイサ先生は、魅力的な男性のサンプルのようだ。正直、彼のカリスマ性がなかったら、処置を受けた患者のビフォーアフター写真を見せられているあいだに、私はこの部屋から飛び出していただろう。

〈ビフォー写真:まさに平均的なキンちゃく〉

〈アフター写真:だらりとぶらさがるキンちゃく。その位置はポコチンよりも床に近い〉

まさにスタンドアップ・コメディアンのデイヴ・アテル(Dave Attell)が、自分の陰嚢について語ったとおり、〈どうたためばいいのかわからないテント〉のようだ。私が憧れたのはこんなんじゃないんだけど。

ここで言明しておいてほうがいいだろう。私には積極的に嫌いな身体特徴がたくさんあるが、そのなかにタマキンとキンちゃくは含まれていない。むしろ、自分のタマキンとキンちゃくについては、かなりイイ線いっている。これまでのパートナーもそういっていた。こいつらを愛でるために、年2回シンガポールからやってくる娘だっているくらいだ。

簡単にいえば、こいつらは高い位置にあり、パンパンに膨らんでいて、小綺麗だ。有能な鳥類学者が私のキンちゃくを見たら、即座にアメリカグンカンドリのオスが持つ、膨らんだ胸部に似ている、と指摘するだろう。見事なまでに丸々としているし、実際に私は、締まったキンちゃくを強調させるため、毎日入念に脱毛し、ココナッツオイルも塗っている。しかし、メイサ先生が言及したのは見た目ではなく、内部がどうなっているかについてだった。

「非常に活発な筋肉組織をお持ちですね。睾丸がかなり動いています」と先生。

実は自分でもわかっていた。新しい彼女の前、デッサンのモデルとして、医者の前、とにかく人前で服を脱ぐと、私のタマキンは躍動し、跳ね回り、落ち着かなくなるのだ。まるで恥ずかしがり屋の子どもが、ママの脚のうしろに隠れようとしているように。ただ、子どもたちと同じように、こいつらもすぐに慣れる。そして他人から見られている状況を楽しめるようになる。しかし、社交的になるには、少し時間がかかるのだ。

「つまり、普通の人よりも多めにボトックスを打つ必要があるのですか?」と私は尋ねた。

「そうですね」。先生は申し訳なさそうに答えた。「そうなるでしょう」

私はさらに深刻な質問をしてみた。

「キンちゃくが下がり、大きくなってしまうと、ポコチンが小さく見えてしまいませんか?」

彼は答える。「もしかしたらそうかもしれません。でも、ずっしりしたキンちゃくになるんです、まさに…」

「ブルドッグのような?」。私は口を挟む。

「そうです! ブルドッグです!」。それがすばらしい見返りかのように、彼は答えた。

メイサ先生はキンちゃくをイヌに結びつけたが、私はむしろ、YMCAの更衣室で見るじいさんたちを思い出す。ポコチンについては、「ナスくらいの長さだったらなあ」(私がイメージするのはいつもだいたいナスだ)と長いあいだ憧れていたが、リサイクルショップに売っているストッキングの足先部分に卵型の翡翠のボールふたつが入っているようなキンちゃくに憧れたことはない。

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しかし、そんなキンちゃくに憧れる野郎どものために、専門家の見解を伝えたい。キンちゃくの海抜は、ボトックス注射をしなくても下がり得る通常の機能なのだ。「低温になると、睾丸は温かさを求めて腹部に近づいてしまいますので、冷凍庫のなかでセックスをしていたら話は別ですが、性行為のあいだ、服を脱いで暖かい環境に身を置いていれば、温度が上がるにつれて陰嚢は下がります」とコーエン教授。「しかしそれはそれ、これはこれです。今は2017年ですからね。自慢もしたいし、気持ちのいい性行為もしたい。そんな大義名分を掲げて、人間は愚行を犯すものなのです」

メイサ先生の診療室に戻ろう。私の性器に、彼がいうところの〈3倍濃縮した麻酔クリーム〉が塗られると、私は本気で狼狽した。「不快感があれば、それを減らすためにもっと塗りますので」と彼はいってくれたが、いつも快感をもたらしてくれる部位が麻痺していると極めて落ち着かない状況に陥る、という現実を私は知った。感覚を失い、とても心地悪かった。これから注射を打ち、さらに私のキンちゃくは〈リラックス〉させられてしまうのだなあと考えていた。

「ボトックスは筋肉を麻痺させる酵素なのです」とコーエン教授。「どこに打つか、数カ月ごとにどれくらいの量を打つか、それらを定めたガイドラインがあります」。もしその規定量を超えたり、誤って血管内に入ったりしたら、麻痺状態に陥ったり、心臓や肺に疾患が発生する危険性もある、と教授は警告している。

長い25分間が過ぎた。クリームが完全に効き、それからようやくメイサ先生が注射を打ち始めた。10本くらいの注射器がテーブルに並んでいる。メイサ先生は、「痛みはせいぜい蚊に刺されるくらい」と教えてくれたが、私はメイサ先生の故郷であるメデジンの街の蚊のサイズはどれくらいなんだろう、と想像していた。

心地悪さは、先生が処置を進めるにつれ高まっていった。それが最高点に達したのは、マイ・ボールズが超元気なせいで、周辺の筋肉のかなり深いところまで注射を打たなくてはならなかったときだ。もはや何本打たれたのかもわからなくなっていた。しかし10分くらいで施術は完了した。ボトックスが効き始めるには数日かかるので、私は局部が麻痺したまま、そして、ちょっと傷を負ったまま、先生の診療室を出た。キンちゃくは施術前と同じ位置にある。

5日後、最初に私が気づいたのは手触りの違いだった。肌が少し変わったように感じた。なめらかではないが、まるで紙のようだ。そしてその数日後、なめらかになり始めた。ベッドから出てキンちゃくを見てみると、40度の浴槽に長く浸かったあとみたいな状態になっている。それからさらに数日、徐々にキンちゃくの位置は下がり続け、最終的にポコチンの先と同じくらいのところまで到達した。キンちゃくは確かになめらかになっていた。もはや脳みそにも似ていないし、ニンジンがすりおろせるくらい締まってもいない。いうなれば、ふたつのツルツルした丸い川石が、シルクのハンカチのなかで揺れているかのよう。

キンちゃくが低く垂れ下がったらポコチンが小さく見えるのでは、と恐れていたが、それもなくて安心した。というかむしろ、垂れ下がってくれたおかげで、常に後ろから押されて前に出ていたポコチンも、まっすぐに下を向くようになった。頻繁にセックスをするパートナーのひとりも、私のモツイチが大きくなったように見える、と喜んでいた。キンちゃくが下がり、緩くなったおかげで、〈触っているだけで気持ちいい〉、〈まるで健身球(*鈴が鳴るボール。ストレス軽減になるので、中国の健康法にも使われている。)のようね〉という。手のなかで転がす感覚が楽しいそうだが、確かに私もそう感じた。

スクロトックスをただのジョークだと捉えていたし、施術前も、最中も、そのあとも、後悔しっぱなしだったが、力強く大きく見え、ぶらぶらと自由に揺れ、リラックスしたキンちゃくは気に入っている。見た目も感覚も好きだし、セックスをネクスト・ディメンションに誘ってくれる。ボトックスの効果が切れたら、再び締まったキンちゃくに戻るわけだが、またメイサ先生の診療室を訪ねるかもしれない。そのあとはしばらくデートの約束を入れられないが。