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精神疾患への理解と患者たちに希望を与えたマライア・キャリーの告白

マライア・キャリーは、2018年4月13日号の『People』によるインタビューで、2001年の入院時に双極性障害Ⅱ型と診断されたことを明かした。彼女は「長年、現実を受け入れられず、孤独だったし、誰かにこの事実を暴露されるのではないかと不安だった」と告白した。「過去最高につらい数年」を乗り越えたマライアは、ようやく最近になって、治療を決意した。
Photo by Axelle/Bauer-Griffin/FilmMagic

2001年7月25日、押しも押されもせぬトップシンガー、マライア・キャリー(Mariah Carey)は、〈心身の消耗〉を理由に入院したが、その後、心のケアのため、別の治療施設(詳細は非公表)に移された。当時の彼女は、ヴァージン・レコードと巨額の移籍契約を締結したばかりで、さらに初主演映画『グリッター きらめきの向こうに』( Glitter, 2001)の公開を目前に控えていたため、その多忙ぶりから自身のウェブサイトでも過労を訴えていた。また、入院するまでの数週間、マライアの様子がずっとおかしかった、という証言もある。入院6日前の7月19日には、MTVの『Total Request Live』の収録に飛び入り、Tシャツを脱いでスポーツブラ1枚の姿をあらわにしていた。

2018年4月13日号の『People』によるインタビューでマライアは、2001年の入院時に双極性障害Ⅱ型と診断されたことを明かした。彼女は「長年、現実を受け入れられず、孤独だったし、誰かにこの事実を暴露されるのではないかと不安だった」と告白した。「過去最高につらい数年」を乗り越えたマライアは、ようやく最近になって、治療を決意したそうだ。

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自らの精神疾患に、いかに影響されたかについて、マライアは説明する。「ずっと、重度の睡眠障害だと思っていました。でもそれは、羊を数えても眠れないような、ただの不眠症ではありませんでした。私はとにかく働き続けていました。情緒不安定で、みんなをがっかりさせるのが怖かった。一種の躁状態です。そして、その状態が限界に達すると、うつが始まるんです。私の場合は、気力と体力がなくなります。すごく孤独で、悲しくなる。キャリアに必要な活動さえできない、そんな罪悪感も抱いてしまうんです」

また彼女は、精神疾患患者への差別意識の重みを実感したとも打ち明けた。「差別意識により私たちは孤立します。でも、私たちのアイデンティティは、精神疾患によって決定されるわけではありません。私は、精神疾患によって自己規定されたり、支配されたくはありません」

マライアのほか、これまで、女優のキャサリン・ゼタ=ジョーンズ(Catherine Zeta-Jones)や、歌手のデミ・ロヴァート(Demi Lovato)が発症を公表した双極性障害Ⅱ型は、米国内で数百万人が患っている精神疾患だ。今回のマライアのカミングアウトについては、ファンだけにとどまらず、メンタルヘルスの啓蒙に努める活動家たちも称賛している。〈うつ病・双極性障害支援連合(Depression and Bipolar Support Alliance; DBSA)〉広報部長のアレン・ドーダレン(Allen Doederlein)は、「自らの双極性障害の経験を公表したマライアは、数百万人のウエルネス(wellness)につながる扉を開いた」として、マライア支持を表明している。

〈全米精神疾患連合(National Alliance for Mental Illness)〉の戦略的パートナーシップの責任者であるカトリーナ・ゲイ(Katrina Gay)も、マライアのカミングアウトは、世間の精神疾患への理解の深まりを如実に示している、と賛同する。マライアの心の問題が明るみになった2001年当時は、ここまで公表すると「彼女の社会的ブランドやキャリアに危険を及ぼす可能性があった」とゲイは説明する。当時は、エンタメ業界でも世間でも、精神疾患をポジティブに捉える準備が整っていなかったのだ。ゲイはその理由を、精神疾患への差別意識が蔓延していたからだ、と指摘する。

ゲイは、2007年、不安定な精神状態を隠さなかったために激しいバッシングを受けた、ブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)を例に挙げる。世間からの風当たりの強さゆえ、精神疾患患者の多くが病状を隠そうとする。ゲイは、当時のブリトニー騒動を振り返る。「あれから社会は変わりました。当時の世間からの反応は冷たいものでした。みんな、興味津々ながらも悪意に満ちた目で、ブリトニーの苦しむ姿を眺めていたのですから」

2009年に発表された論文によると、ジェンダー・バイアスは、世間が精神疾患に抱く負の感情に拍車をかけている、という事実もあるそうだ。同論文に携わった研究者によると、世間は、重度のアルコール依存症など、男性に顕著な症状を示す女性よりも、ジェンダー・ステレオタイプに忠実な女性に精神疾患の烙印を押しがちだという。女性はうつ病にかかりやすい、といった固定観念もその例だ。この論文の著者は、「女性特有の症状は、真性の精神疾患だと認められない傾向が実に強い」と説明している。

そういったバイアスは、いまだになくなっていないが、精神疾患への世間の理解は深まっている、とゲイは言明する。「今の社会では、ありのままの自分を嘘偽りなく表現しよう、という気運が高まっています」。ゲイは続ける。「世界は変わりつつあります。精神疾患は以前よりも広く認知されており、精神疾患を公表するリスクは低下しています。精神疾患は、誰もがかかる可能性のある、れっきとした病気です。たとえ罹っても、人間は精神疾患を克服できる。つらいときもありますが、私たちは耐えられるし、乗り越えられるんです」

さらにゲイは、職場や組織における、精神疾患への差別意識に立ち向かうだけでなく、自らの内面にある差別意識にも向き合うべきだ、と訴える。それは、「自分は恥ずべき人間だ。こんな怖ろしい欠陥、誰にも打ち明けられない」という思い込みだ。さらに、対外的にも、精神疾患を非難したり、ステレオタイプを抱く友人や周囲に対処しなくてはならない。

米国人の5分の1が精神疾患を抱えているこの時代に、マライアのカミングアウトは「マライアがマライアらしくいられるのなら、私たちも自分らしく生きていいんだ、と教えてくれた」とゲイは強調する。「ひとりで耐え、克服するだけじゃなく、みんなに打ち明けていいんです。隠す必要なんてない。マライアみたいなスターがカミングアウトしたんだから、私たちも自分を偽らなくていい。精神疾患を抱えていても、私たちはひとりじゃない、と安心できます」