投降した沖縄の少年兵 ©2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会

陸軍中野学校出身者42名が沖縄に渡り、秘密戦の種を蒔いた。そして引き起こされる少年兵たちの死闘、強制移住とマラリアによる大量死、スパイ容疑の住民虐殺。カメラはこれまで語られなかった沖縄戦の陰の部分に光を当てる。ドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』を監督したジャーナリスト、三上智恵と大矢英代が、本作に込めたそれぞれの思い、未来への警鐘を熱く語る。

もともと三上監督と大矢監督は琉球朝日放送(QAB)にいらして、先輩後輩の間柄だったそうですね。

三上:私がQABにいるときに大学院生だった彼女と出会いました。ハキハキと話すし生意気なことも言う。波照間島に住み込んで映像を撮っていたと聞いたので「波照間の言葉できるの?」と尋ねたら完璧な波照間語で返されて、凄い子がいるなと思いました。QABに入った年の9月にはオスプレイ配備に反対する県民による普天間基地の全ゲート封鎖を大型台風が直撃するなかで現場リポートしたぐらいですから、群を抜いた後輩でした。

大矢:2012年に私は入社して、14年に三上さんがフリーになられたので、QABで一緒に仕事できたのは2年ぐらいです。私は記者で三上さんはキャスターだったので、ふだんのニュースの取材に同行することはありませんでしたが、自分が仕上げたリポートを視聴者に届けてくれるリレーのアンカーのような存在で、取材を受けてくれた方の思いを安心して託せる先輩でした。

フリーになって三上監督は沖縄の基地問題を扱ったドキュメンタリー映画を3作(『標的の村』、『戦場ぬ止み』、『標的の島 風かたか』)撮られています。そのうえで今回さらに『沖縄スパイ戦史』に取り組んだ動機はなんですか?

三上:それまでローカルのニュースのキャスターを19年やって、1週間の平日5日のうち3日は基地問題をトップニュースで報じてきました。それほど沖縄の人たちが基地のことで苦しんでずっと闘ってきているのに、これが全国に伝わらないという口惜しさが原点です。『標的の村』は、基地に反対している人たちの姿を通して、この国に住むすべての人に問いかける映画です。「あなたが住んでいるところが戦争の訓練の標的にされたらどうしますか?」「反対しますよね?」「お金も武器もなく、座り込むしかなかったら、あなたも一緒に座りませんか?」と。そこから訴えないと、辺野古の問題も高江の問題もわかってもらえない。なんでこの人たちは勝てないものに対してこんなに闘えるんだろう、なんでこんなに苦しいのに歌ったり踊ったりできるんだろう、なんでへこたれないんだろう──。反対運動の現場には、そんな人間の普遍的なテーマがたくさんあります。続く2作も『標的の村』のスタンスを踏襲し、3作目の『標的の島 風かたか』では、沖縄県民の強さ、しなやかさ、彼らが受け継いだ文化の豊かを描き切った自負があるんです。次の戦争に向かっているこの日本の間違った道のりをみんなに気づいてもらいたかった。でも、ある一定層の人たちしか観てくれないんですね。首根っこを摑んで頭をガクガク揺さぶり、「目を覚まして!」と叫ぶようなインパクトが過去3作に足りなかったのかもしれない。であれば次をどうするかと考えたときに、沖縄戦しかないなと思ったんです。でもこれは奥の手だから、沖縄戦でダメだったら私にはもう弾がない。そのぐらいの気持ちでこの映画に臨みました。

陸軍中野学校出身のエリート将校と沖縄の少年ゲリラ兵部隊〈護郷隊〉、波照間から西表への島民強制移住と多くの死者を出したマラリア地獄、住民虐殺事件、自衛隊の南西諸島への増強と軍隊としての本質的な問題など、この映画はとても多くを語り、濃度が高い作品になっています。全体の流れを構成するのに苦労されたのでは?

三上:出口は自衛隊による島々の要塞化の問題。これは最初から見えていました。というか、島の運命がどう変わるのか、これをわからせるために、護郷隊、戦争マラリア、住民虐殺といったファクトを配置していく。そのために取材した映像は、実はありすぎるぐらい膨大にあるんです。しかも私と彼女はそれぞれ別のパートを取材してますから、ふたりが持ち寄ったパズルのピースを取捨選択しながら有機的に組み合わせていくのが難しかったです。基本的に素材は、インタビューと資料映像の2種類です。それらを動的に面白く見せるため、私たちが手探りで取材していった過程を観客が謎解きしながら追体験できるような構成にしました。

大矢:三上さんは沖縄本島で護郷隊と住民虐殺を中心に、私は波照間島と与那国島、石垣島、あとはアメリカを取材しました。沖縄在住の三上さんが東京の編集室に来たのが今年の2月中旬、その段階で初めてふたりが撮った映像の全容がわかりました。出口はいま南西諸島が置かれている危機的状況と決まっていましたけど、そこに至る構成はその段階までわからないんです。例えば、波照間のパートが真ん中にくるのか、まえにくるのかでも大きく違ってきます。

波照間がまえにくる可能性もあった?

大矢:そうですね。完成した映画は護郷隊から入り、スパイ戦のために42人の陸軍中野学校出身者が沖縄全島に配置されたことが語られ、そのうちのひとりが波照間の島民を強制移住させた話に繫がります。ですが例えば、波照間という小さな島の事件から始めて、それを起こした人間と同じ任務を帯びた者が実は42人いたと広げていく図も描けるわけです。ただ、護郷隊から入ったほうが、中野学校出身者が目論んでいた秘密戦の全貌がよりわかりやすくなるとの判断から、いまの構成に行き着きました。

この映画の取材期間はどのぐらいですか?

三上:およそ10カ月かな。ただ、私は護郷隊の取材を始めて10年になるんです。映画の冒頭で使った護郷隊の慰霊祭の映像は2015年のものですし──。

大矢:8年ぐらいまえに私が撮った映像も入ってますし、そういうのを抜いて、約10カ月ですね。

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