私は〈合コンアレルギー〉だ。初めて参加した合コン以来、合コンが苦手になった。当時アルバイトをしていた寿司屋の先輩に誘われ、18歳の私は、初めて合コンに参加した。相手は、寿司屋の先輩が通う大学の学生2人だ。「現役女子高生が来る」と、男性陣の期待値はとても上がっていたらしい。だが、待ち合わせ場所に現れた私を見て、男性陣の表情が変わった。私は、彼らのお気に召さなかったようだ。輝きが失われていく彼らの目を、私は忘れられない。

男性陣の用意したハードルの下をくぐって始まった合コン序盤、男性陣のテンションは、ありえないほど低かった。寿司屋の先輩は、終始困ったような愛想笑いを浮かべている。盛り下がった飲み会を続けることもできたが、寿司屋のバイトの先輩のメンツを潰してはいけない、なんとか盛り上げなくては、と私は必死にひねり出した下ネタを大学生相手に披露しまくった。努力の甲斐あって、合コンはなんとか楽しい雰囲気で終わったが、私の合コンデビュー戦は、ただただ合コンを盛り上げることだけを意識し、不自然なほど高いテンションで下ネタをかますだけで幕を閉じた。もちろん、そこから恋愛には発展しなかった。苦い思い出だ。

合コンに参加したのは、それが最初で最後だ。当時の自分を思い出すと、本当に全身が痒くなる。もうあんな自分はイヤだ、と合コンとは縁遠い生活を心がけていた私のもとに、〈卓球合コン〉が開催される、という情報が舞い込んだ。

前述の通り、私は〈合コンアレルギー〉なので、通常であれば、合コンと名のつく集いには絶対に参加しなかっただろう。だが、今回は別だ。合コンの頭に〈卓球〉がついている。卓球は、誰でも楽しめる手軽なスポーツのはずだ。野球場ほど広いスペースも必要なく、サッカーのようにボールを追いかけて走りまわる必要もない。

過去には卓球が、外交手段として用いられ、〈ピンポン外交〉なる言葉が生まれ、政局を動かしたこともある。象徴的な出来事が1971年、愛知県名古屋市で開催された〈第31回世界卓球大会〉だ。この大会に、6年ぶりに中華人民共和国が参加した。この世界大会を機に、中国人選手とアメリカ人選手のつながりが生まれ、やがて、選手個人のつながりは、国と国とのつながりへと広がった。卓球をきっかけに、中華人民共和国とアメリカが、国交を回復したのだ。長年険悪な関係だった両国をつないだ卓球。国家をつなげられる卓球は、男女の関係もつなげられるのだろうか? クリスマスイブを翌日に控えた12/23、私は、イルミネーションがきらめく港町、横浜赤レンガ倉庫に向かった。

18:00、卓球合コンの会場である〈NTL 中目卓球ラウンジ Yokohama Bay Cafe〉に到着した。広々とした明るいスペースに、6台ほどの卓球台が設置されている。訪れる客層も、カップルや家族連れが多く、慣れない手つきで卓球に興じている。

店の一画で開催される卓球合コンの席に案内されると、男女が15人ほど、飲みながら談笑をしていた。席につくと、私の左隣に座る男性が話しかけてきた。

※バックプッシュ・・・強く押し出すように返球する打法.

タクヤとの自己紹介を終え、ふと卓球台に目を向けた。〈卓球合コン〉なのに、卓球台には誰もいない。タクヤ曰く、「合コンが始まって1時間ほど経つが、まだ誰も卓球をしていない」という。卓球をしなければ、卓球合コンの意味がないではないか。卓球経験者が集うこの合コンで、いちばん最初にラケットを握るのはハードルが高いのかもしれないが、このままでは、男女の仲を発展させるのが卓球なのか酒なのかわからないまま、卓球合コンが終わってしまう。焦った私は、席について早々、「ダブルスをやろう」とタクヤに提案し、タクヤの隣に座る男女に声をかけた。

ちなみにメアリーは日本人だ。卓球合コンにいっしょに参加した友人の「高橋メアリージュンに似てない?」のひと声で、あだ名がメアリーになったらしい。卓球初心者の私とメアリーは、ダブルスのルールを、タクヤとアキヒロに教わった。ダブルスの試合では、ペアが交互に入れ替わり、球を打つ。どうやら他にも、細かくルールがあるようだが、〈交互に打つ〉以外のルールは忘れ、ひとまずラリーを続けることを意識した。傍からみれば、初心者のレベルに合わせた試合は退屈だっただろうが、私は取材を忘れて卓球を楽しんだ。初対面の男女4人が、ともに喜び、悔しがり、自然にハイタッチが生まれる。試合を終えるころには、みんなの名前をしっかり覚えていた。

アキヒロとメアリーは、ひと試合終えて何を想っているのだろう。

卓球合コン、どうですか?

アキヒロ:楽しいですね。僕は普通の合コンはあんまり行かないんです。喋るのが得意ではないので…。なので、ただ話をするだけの合コンよりも、卓球があった方が盛り上げやすいです。

メアリー:卓球合コンはアリだと思う。スポーツが好きな人なら楽しめるはず。ただ、女子的には、ダブルスを組んだ男性も卓球初心者だとテンション下がるかな。やっぱり上手い人と組みたい。

卓球合コンでは、トーク力よりも卓球力が重視されるのだろうか。2人と話していると、突然、幹事の男性が声をあげた。ダブルスのトーナメント戦を始めるという。やっと〈卓球合コン〉らしくなってきた。ちなみに、今回の主催者は、これまで〈15回以上〉卓球合コンを主催しているツワモノだ。

酒を飲みながら卓球をして、気づいたことがある。ビール1杯しか飲んでいないのに、体を動かしたからか、全身にアルコールがまわっている。

自分の出番がきた。私とダブルスを組む男性は、どうやら私と同じく、卓球初心者のようだ。卓球初心者vs卓球経験者となってしまったこの試合で、私たちは、1点も取れず、コールドで負けた。卓球は、相手との力の差があまりにもありすぎると、ラリーも続かず、すぐに試合が終わってしまう。「ダブルスを組んだ男性が卓球初心者だとテンション下がる」メアリーの顔が頭に浮かんだ。

あっさりとコールド負けを喫した私は、トーナメント戦に出場する男女を観察した。やはり、試合前よりも試合後のほうが、男女の距離が近い。試合が終わり、席に戻ってからも、次の試合をふたりで応援している。はじめこそ、普通の合コンのような気まずさを感じたものの、ひとたび卓球が始まると、みんなの緊張が、みるみる解けるのを実感した。

試合のなかでも、特に面白いのは、卓球経験者だけで組むダブルスだ。まず、卓球経験者は、構えが違う。卓球台と同じ高さに目があるくらい姿勢は低く、天井の照明に当たりそうなくらいサーブを打つボールを高く上げる。初心者の私にはボールが見えないほど速いテンポでラリーを続けている。そんな卓球経験者のなかでもひときわ、みんなの視線を釘付けにする女性がいた。

※ドライブ・・・球に前進回転をかける打ち方.

卓球合コン、どうですか?

トモミ:卓球合コン、楽しいです! とにかく卓球が楽しい。合コンっていうか、卓球がやりたいです。

トモミは、その愛らしい見た目とは裏腹に、打球はえげつないほど速い。男性経験者の本気のスマッシュも、3本に1本は拾って打ち返すのだ。彼女が豪快なスマッシュを決めるたびにひらひらとゆれるリボンのついたシフォンブラウスと、黒いミニスカートから目が離せない。もし、卓球合コンにまた参加するなら、ゆらゆらひらひらゆれるデザインの服を着よう、とニューバランスのスニーカーにズボンを合わせてきた私はこっそりメモした。

21:00、合コンに参加してから3時間、もうすぐ終了時間だ。〈卓球合コン〉を堪能した私は、最後に、この店のオーナーであり、卓球合コンの仕掛け人である店長をつかまえた。

今日はありがとうございました。卓球初心者ながら、とても楽しめました。

川島店長:卓球は、パワーよりテクがものをいうスポーツです。足の速さも関係ありません。もちろん、運動神経があるに越したことはないですが、運動神経がなくてもできる。卓球は誰でもできるから、楽しいですよね。

普通の合コンよりも、他人と打ち解けるスピードは早い気がします。

川島店長:そうなんです。普通の合コンはカタっ苦しすぎますよね。自己紹介とか、席替えとか。でも卓球なら、ひと試合して席に戻れば、誰か別の人が隣に座っています。ハイタッチとか、いやらしくないボディータッチも自然に生まれるのが良いですよね。

どうして卓球合コンを始めたのですか?

川島店長:中目黒の卓球台のあるバーで、よく合コンをしていました。それが徐々に大きくなって、横浜で〈卓球ができるバー〉をオープンしたんです。この場所を利用して、今でも定期的に集まって飲み会をしているのが、〈卓球合コン〉の始まりです。まだまだ身内の集まりなので、もっと規模を広げたいですね。

ちなみに川島店長は、彼女いるんですか?

川島店長:僕は嫁がいます。卓球仲間との合コンがきっかけで知り合いました。嫁は卓球に全く理解がないですけどね(笑)

卓球は、男女の距離をぐっと縮める。ダブルスがきっかけで会話を始めた男女がたくさんいた。しかし、卓球は、あくまで〈きっかけ〉にすぎないのだ。きっかけをつかんだ後は、席に戻り、何かしらコミュニケーションをとらなければ、2人の関係は〈楽しい卓球仲間〉からは発展しないだろう。今から46年前の〈ピンポン外交〉も、卓球がきっかけだったが、「もっと仲良くしたい」という両国の意向があったからこそ、関係を改善できたのだ。国交も合コンも基本的なスタンスは同じなのかもしれない。もし、私の〈合コンアレルギー〉の元凶である、あの忌まわしい合コンデビューに卓球があったら、とも考えたが、相手の大学生の好意的な気持ちがこちらに向いていない以上、私は、卓球に絡めた下ネタをひねり出すしかなかっただろう。「バックでツッツキぃー」とか。