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性差別的広告のパトロールに密着

パリの匿名アクティビスト集団〈ブリガード・アンチセクシスト(Brigade Antisexiste)〉は、月1回のペースで活動している。その内容は、ステッカーと油性ペンを手にパリを歩き回り、公共の場に掲げられた性差別的広告への異議申し立てだ。
All photos courtesy of Brigade Antisexiste

ブリガード・アンチセクシスト(Brigade Antisexiste, 以下ブリガード)〉の主催者のひとり、エルサ(Elsa)は、真っ赤なバンダナと、同じく赤地に、白文字で〈SEXISTE〉と書かれた小切手サイズのステッカーを配布した。

ブリガードは、2016年4月に始動した。以来、月1回のペースで活動している。ブリガードの活動内容は、ステッカーと油性ペンを手にパリを歩き回り、公共の場に掲げられた性差別的広告への異議申し立てだ。

2017年12月某日、あいにくの雨、突き刺すような寒さのなか、女性12名、男性3名がブリガードの20回目のパトロールに集まった。

ブリガードのFacebookページでは、「クリスマス目前の今、性差別的広告が店頭に並んでいます。一緒に性差別と闘いましょう」とパトロール参加への呼びかけがUPされた。

参加者がパリ1区と2区にまたがる、ヴィクトワール広場に集合する。高級店が立ち並ぶ広場だ。みんなに向かって、26歳のエルサは再確認する。(*プライバシーの問題で、ブリガードのメンバーは全員姓を非公開としている)

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「ステッカーの貼付は、実のところ違法です。でも、今まで問題になったことはありません」とほほ笑むエルサ。「ただ、貼るときは周りに警察がいないか、充分に注意しましょう」

今回のパトロールには、非営利セクターで働くエルサ、そして、もうひとりの主催者であるレア(Léa)が参加している。ふたりが先導し、参加者たちは、エチエンヌ・マルセル通りを歩く。

「ルートは決まっています。歩いているときにショッキングな広告、ポスターを見かけたら声をかけてください。そこで止まりますから、どうしてその広告が目に留まったのか説明してください」とレア。彼女は21歳。グラフィックデザインを勉強中の学生だ。「みんなで話し合い、ステッカーを貼るかどうするか、決めましょう」

参加者たちは、クリスマスの買い物客のあいだを通り抜けながら、GUESSの店舗に近づく。5体のマネキンがブランドの冬物コレクションをまとい、ウィンドウに立っている。そして、ブリガードたちは、マネキンの奥のポスターに注目した。

黒の網タイツを履いたモデルが、うつぶせでヒジをつき、アゴを手に乗せている。唇を軽く開いた扇情的な表情で、カメラをまっすぐ見ている。

「正直なところ、この広告については、議論の余地もないでしょう」と参加者のひとりがタバコを吸いながら、軽蔑しきった声色で発言する。「こんなふうにソファに横になる女性なんていないでしょ」。他の参加者もうなずく。「非常にポルノ的ですよね」と別の参加者が追唱した。

ブリガード・アンチセクシストのボランティアが、GUESSの店頭にステッカーを貼る.

「改めて確認しておくべきなのは、私たちの目的はモデルに対する〈スラット・シェイミング〉ではない、ということです。イメージ全体を批判するのが私たちの役目です」とエルサは今いちど念を押す。「では投票しましょう」。挙手制で匿名投票をし、ステッカーを貼ることになった。

コミュニケーション業務に就く24歳のモルガン(Morgane)が「私、ステッカー貼りたいです!」と名乗りをあげた。そして〈SEXISTE〉ステッカーをモデルの肩に貼る。モルガンが芝居がかった動きでステッカーを指すと、参加者たちは喝采を送った。

「あのポスターの、すべてがショックだったからです」。どうして名乗りをあげたのか、モルガンに訊いた。「衣装、横たわる姿勢…。女性の品位を落とし、女性を軽視しています。こんな広告はありえません」

2時間のパトロールで、参加者たちは、あらゆる隠れた性差別について話し合った。例えば、携帯電話の広告。女性をターゲットにした店内のディスプレイは、ピンク色で統一されていた。また、バス停にあった、ロレアル(L’Oréal)のマスカラの広告における、非現実的な美のスタンダードについて。彼らは同時に、パリ中心部で見つけた性差別的な広告に、説明書きもしていった。通行人に注意を喚起するためだ。

メトロで赤いステッカーを見つけ、ブリガードについて検索し、参加を決めたロリアーヌ(Lauriane)。29歳の婦人科医である彼女は、「おもしろい」と語る。「みんなで話し合い、それぞれが自分の意見を述べる。賛成してもしなくてもいい。あらゆるレベルの性差別と闘い、コトを進められます」

「ブロンドの白人モデルが3~4度出てきたのが、興味深いです」と人道支援組織で働く24歳のシャルリー(Charly)。「フランス人を代表するタイプはありません。男女問わず、みんなが抱きがちな〈美とはかくあるべき〉というステレオタイプです」

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ブリガード・アンチセクシストのメンバー.

2017年4月、ブリガードの共同創始者で、生物学を専攻する学生、ロレリーヌ(Lauréline)は、ブリガードの発端について説明してくれた。「始まりは、2016年2月です。友人2人といっしょに、パリ中心部のシャトレへいき、性差別的広告にステッカーを貼ることにしたんです。とても充実した気分だったので、もういちどやることにしました。週を追うごとに、賛同してくれる人が増えたので、Facebookページを立ち上げ、みんなが参加できるようにしました」

以来、彼女たちの打ち出すコンセプトはフランス全土へ拡散し、今では27もの都市に支部がある。さらに、国内を飛び出し、ベルギー、スイス、カナダなど、世界中に広がっている。

2017年3月28日、ブリガードは、記念すべき勝利を祝った。パリ市議会が、大手屋外広告代理店〈JC Decaux〉による〈性差別など差別的な〉広告の禁止を含む、新たな条例を制定したのだ。これは、パリ市初めての試みだ。既に、ロンドン、ジュネーブでは、同様の法律が可決されている。

その日、ロレリーヌは、ブリガード代表としてパリ市庁舎の前で、フェミニスト団体〈Les effronté-e-s〉とともに、デモを展開した。デモ参加者たちは、同月初旬にパリを席巻し、のちに掲載が禁止されたイヴ・サン・ローランの過激な広告をプリントアウトし、パリの役人たちに、どんな広告が女性の品位を落とすか、改めて訴えた。

パリ市庁舎のプレスリリースによると、男女平等、人権、反差別活動を担当する副市長のエレーヌ・ビダール(Hélène Bidard)は、今回のパリ市の禁止令が最終的に国の法律にも適用されることに期待しているようだ。「問題になる広告は、世間に流布する性差別を擁護し、ある種の暴力が生活を脅かす状況を肯定してしまっている」

現在、ブリガードは、他のフェミニスト団体と共に、どのような広告が性差別的なのかを定める基準の制定に取り組んでいる。

「広告主が、商品を売るために女性の身体のいち部を性的なものとして表現したら、私たちにもあおりを喰らいます」と22歳のロレリーヌは主張する。「公共の場に掲げられるデリカシーのないステレオタイプには、もう耐えられません」