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女性にとって、新オフィスでの勤務が始まっていちばん苦労するのは、メール・サーバーのデバッグを待つことではない。それより重要なのは、暖房をつけてくれ、と頼めるようになったり、デスクでダサいブランケット・ポンチョをかぶっても引かれない程度に、オフィスの雰囲気に溶け込むのを待つことだ。女性にとっては、特に夏場、クーラーがガンガンに効いているオフィスは冷凍室そのものだ。女性たちは白湯を入れたマグカップを両手でぎゅっと握りしめ、ダウン・コートを着込んで電話に対応している。真冬でもお昼は外に出て、日光に当たろうとする。一方、多くの男性は、オフィス環境を快適だと感じている。

これはどういうことだろう? 女性の体温が低いのか、あるいは、男性があまり温度に頓着しないだけか。それとも、まさかとは思うが、男性は弱々しい姿を見せないようにできているのか。オレゴン大学で人間の体温調節について研究する専門家クリストファー・ミンソン(Christopher Minson)教授は、女性も男性も変わらず人間の体温は、約37℃前後だという。むしろ女性は、男性よりも体温が少し高い傾向にあるらしい。それでもなお、女性は男性より寒がりなのは身体の大きさが違うからだ。体温の低さと、寒がりなのは別の話だ。「人間の身体は、深部体温を維持するために巧みにデザインされており、実際に体温が下がる前に寒さを感じるようになっています。警告システムですね」とミンソン教授。女性は筋肉量が少ないので、体積と表面積の比率が男性よりも大きい。つまり、生みだす熱に比べて放出する熱が多いので、体温を失いやすいのだ。だからこそ、〈警告システム〉が早めに作動する。

数年前、身体の大きさがどれほど重要なファクターとなるかについて、カナダの研究者チームが検証した。少数の女性からなるグループを首まで冷水に浸からせて、彼女たちの体温がどれくらいの速さで低下するかを測定した。そして、体温低下の速さと、表面積と体積の比率、脂肪量との相関関係を見出した。男性についても同じ相関関係が見出されている。つまり、身体の小さい男性は比較的寒がりなはずである。ただ、より女性が寒がるのには、他の要因もある。女性の代謝率(=食べ物から得たエネルギーを消費する割合)は男性より低い。つまり、女性の身体が生み出す熱も少ないのだ。また、別の研究では、女性の手足は、一般的に、男性よりも1.5~2℃程度冷たいのが明らかになっている。つまり、女性の身体は先端部から、生命維持に必要な臓器が集まる深部へと温かい血液を運ぶ傾向があるのだ。おかげで手足は冷え、不快極まりない。

こんなに寒い思いをするのはオフィスだけだ、という女性もいる。実のところ、ビルは寒い。空調を22℃程度(外だったらTシャツ1枚で過ごせるレベル)の快適な気温にセットしても、ビル内の冷却装置は膨大な空気の流れを生み出して、部屋を北極のような寒さにしてしまう、とミンソン教授は説明する。オフィスには日光が差し込まないので、太陽の暖かさも享受できない。

そもそもビルの温度設計に明らかな誤りがある。実のところ、ビルの温度は、男性の快適を考慮して設定されているのだ。『Nature Climate Change』誌に掲載された研究によると、ほとんどのビルが設定している快適気温モデルは、1960年代、男性の平均代謝率を元に算出されたという。この気温モデルでは、女性の代謝率は最大35%も過大評価されており、再検討を要する、と同研究は主張している。このままでは明らかな女性差別だ。

しかし、状況が改善されるまで、女性たちと寒がりの男性たちがオフィスで凍えないように、個々人の快適温度を保つデバイスに頼るしかない。ミンソン教授をはじめ、専門家たちは、デバイスの研究、開発に努めている。暖房機能付きの椅子、マウスパッド、衣類…。そういった商品が市場に並ぶ日も遠くないだろう。ミンソン教授は、もし各々が温度調整デバイスを持っていれば、ビル全体の空調をゆるく設定できるので、省エネにもなるという。しかし現段階では、現実的な気がしない。

そこでミンソン教授は、手足の冷えを防ぐための対策法の実践を勧めている。それだけでも不快度はかなり減少するそうだ。効果があるのは、指なし手袋や、靴下重ね履きなど。また、オフィスのどこかには大体暖かい空気が溜まるスポットがあるので、それを探して歩き回ってみよう。そして最後に、改善されるまで不満を声にし続けよう。女性は労働人口の47%(日本は43.4%)を占める。従業員の半分が凍えながら仕事をしているなんて、フツーに考えておかしな話だ。