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生ハム切りのプロ 1脚42万円

スペインの〈コルタドール・デ・ハモーネス(生ハム切り師)〉、フロレンシオ・サンシドリアンは、これまで、スペイン国王からロバート・デ・ニーロ(Robert De Niro)まで、錚々たる顧客たちのために生ハムを切ってきた。母国スペインの〈ハモン・イベリコ大使〉だ。

Alle Fotos mit freundlicher Genehmigung von Storm Communications.

彼の顧客は、世界でも名だたるスターたちだ。バラク・オバマ(Barack Obama)元米国大統領、元スペイン国王のフアン・カルロス1世(Juan Carlos)、そして名優、ロバート・デ・ニーロ(Robert De Niro)…。みんな、彼がスライスした、口のなかでとろける、なめらかなハムに舌鼓を打った。彼の名は、フロレンシオ・サンシドリアン(Florencio Sanchidrián)。スペインが誇る〈コルタドール・デ・ハモーネス(生ハム切り師)〉だ。

生ハム切り師、そして生ハム大使のフロレンシオ・サンシドリアン。All photos courtesy Storm

フロレンシオが1本の脚のスライスを請け負う金額は、なんと約4000ドル(日本円で約42万円)だという。スペインの名産品ハモン・イベリコの〈大使〉を務めるフロレンシオは、どれだけすごい大使なのだろう。

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まず、プロの生ハム切り師になるまでの経緯を教えてください。この仕事は、あなたにとって、どんな意義があるのでしょうか。

私は元々、ウェイターだった。ある日、生ハムのスライスをすることになって、ハマったんだ。いろいろと勉強し、スキルを磨いて、最終的に、身も心も、このすばらしい職業に捧げようと決心した。私にとってこの仕事は、食い扶持を稼ぐ手段ではあるが、スペインのハモン・イベリコの世界的な知名度を上げ、スペインの名産品として世界に認めてもらいたい、と切望している。だから、世界各地のイベントに参加して、ハモン・イベリコの周知に努めているんだ。ハモン・イベリコは、トリュフ、キャビア、フォアグラと並ぶ、世界4大珍味だ。

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フロレンシオが追求しているのは, スペインのハモン・イベリコのスライスだ.

卓越したコルタドール・デ・ハモーネスの条件は何ですか?

イベリコ豚の血統、飼育場所など、商品を隅々まで知るべし。そして生ハムをスライスするさいは、そのラベルをすべてきちんと確認すべし。ラベルには、豚の出生地から保管場所、その場所の湿度や室温まで、商品について、われわれが把握しておかなければならない、すべての情報が記されている。それに加え、良いコルタドール・デ・ハモーネスは、関節部分を避けねばならない。最後、肉の提供時には、お客さんが五感を総動員してハムを楽しめるよう、精魂を注ぐ。

英国では、イタリアのプロシュートのほうが有名で、スペインの生ハム〈ハモン〉の知名度はそこまで高くありません。プロシュートとハモンは何が違うのでしょうか?

全然違うのだ。プロシュートの豚は、われわれのイベリコ豚とはまったくの別物だ。イベリコ豚は、スペイン土着の黒豚で、スペイン南西のイベリア半島でしか成長、繁殖していない。イベリコ豚の多くは、放牧されている。あるいは、範囲が定められているにしろ、自由に動き回れる環境にいる。そしてその土地のドングリや草などを食べて育つ。食物の違いが、肉それぞれの、色や味、香り、脂の口どけ感の違いを生む。

プロシュートは完全にその逆だ。肉の色は白く、豚たちは集約的に飼育され、自由に歩き回れない。

それでは、ハモン・イベリコとハモン・セラーノの違いは何ですか?

イタリアのプロシュートやパルマハム、フランスのジャンボン・ド・バイヨンヌは、すべて〈ハモン・セラーノ〉の仲間なんだ。ハモン・イベリコとの主な違いは、原料の豚の種類、飼育環境、あとは塩漬け後の熟成期間だ。ハモン・イベリコの熟成期間は、18~36カ月。一般的なハモン・セラーノの2倍だ。

なるほど、よくわかりました。あなたはこれまで、数々の名だたる世界的指導者や著名人のために生ハムをスライスしてきました。そのなかで、風変わりな注文はありましたか?

世界的スターに提供できるなんて光栄なことだし、みんな、よろこんで賞味してくれた。ロバート・レッドフォード(Robert Redford)に、自分でスライスしてみてもいいか、と訊かれたのを覚えている。彼は、ハモン・イベリコをすごく気に入って、4つの部位を試していたよ。最高だ、と褒められた。

いま、スペインの生ハム業界をどうやって盛り上げているのですか?

私は〈世界ハム大使〉として、毎年5大陸を訪れている。スペインのASICI(Asociación Interprofesional del Cerdo Ibérico; イベリコ豚専門職協会)も、長年、立派な活動を続けている。彼らは、スペイン国内外での生ハム振興だけでなく、製造段階から、消費者に届くまでの工程をトラッキングすることで、生ハムの品質を高めようと努めているんだ。

「死ぬ前にこれだけは食べろ!」という生ハムを教えてください。

6年熟成のハモン・イベリコが最高だ。あるいは2014年製のハモン・イベリコがヴィンテージ化して、市場に出回るのを待つのをお勧めする。ドングリがたくさん採れて、すばらしい年だったからね。

スペインの生ハムは、動物性食品に多く含まれるオレイン酸が豊富なため、健康にもいい、とどこかで読んだ記憶があります。もっと積極的に生ハムを食べるべきでしょうか?

そのとおり。ハモン・イベリコの秘密はオレイン酸だ。他の赤身肉と違い、ハモン・イベリコには、オレイン酸をはじめ、一価不飽和脂肪酸が多量に含まれている。一価不飽和脂肪酸には、コレステロール値を下げ、心臓血管の機能を高める働きがある。それ以外の栄養価も実に高い。天然の抗酸化物質、タンパク質、数々のミネラルやビタミンが摂れる。ハモン・イベリコは美味しいだけじゃない。身体にも良いんだ。

なるほど。ありがとうございました!