「〈下品〉って、男性にはあまり使わない気がするし『〈女性〉はこういうことしてはだめですよ』というのがあるから、下品だといわれるのかな、と。やっていい、やっちゃだめ、の基準が男性よりも厳しいな、とは感じます」

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上手く描くのをやめた〈女性〉

「〈下品〉って、男性にはあまり使わない気がするし『〈女性〉はこういうことしてはだめですよ』というのがあるから、下品だといわれるのかな、と。やっていい、やっちゃだめ、の基準が男性よりも厳しいな、とは感じます」

女性の社会的地位、格差についての議論が増えるのと同時に、〈女性が働きやすい職場〉〈女性が輝ける社会〉〈女性がつくる未来〉を目指し、女性を応援する制度や価値観を生みだそうとする動きが社会全体に広がっている。だが、ここでいう〈女性〉とは、果たしてどんな女性なのか。女性に関する問題について真剣に考えている女性、考えていない女性、そんなのどうでもいい女性、それどころじゃない女性、自分にとって都合のいい現状にただあぐらをかいている女性。世の中にはいろんな女性がいるのに、〈女性〉とひとくくりにされたまま、「女性はこうあるべきだ」「女性ガンバレ」と応援されてもピンとこない。

「いろんな女性がいるんだから、〈女性〉とひとくくりにしないでください!」と社会に主張する気は全くないし、そんなことを訴えても何にもならない。それよりも、まず、当事者である私たち女性ひとりひとりが「私にとって〈女性〉とは何なのか」本人独自の考えを持つべきではないのか。女性が100人いたら、100通りの答えを知りたい。

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さいあくななち ゃん(26)

「〈女性〉とは」と考えたことはありますか?

あんまり真剣に向き合ったことはないです。でも、私の描く絵にはいつも〈女の子〉がいます。画家として活動をしていて、よく「この女の子は自画像ですか?」と訊かれるのですが〈心のなかにいる女の子〉という表現がいちばん近いです。絵を描くときは、本当に無心で描いているのですが、描き終えるとなぜか女の子がいるんです。何故なのか、自分でもわからないです。

作品に、女の子が登場し始めたのはいつからですか?

専門学生になってからです。絵の授業で先生に「上手く描こうとしなくていいよ」と言われてから、徐々に私の作品に女の子が登場するようになりました。

それまでは、絵を上手く描こう、と意識していたんですか?

そうですね。それまでは、絵を上手く描こうとしてたし、上手く生きようとしていました。だから「上手く描こうとしなくていい」ってすげえな、と。私のなかの常識をぶち壊してきたというか、とにかく衝撃的でした。

上手く生きる、とはどういう意味ですか?

思っていることをぽろっと口に出したら、「変だね」と周囲から言われたことがあって、それが怖かったんです。自分らしくいないほうがいい、話を合わせなきゃ、上手く生きなきゃ、と。クラスで目立つタイプでもないし、取り柄もないし、私は何をやっても無理だな、というのが自分のなかでありました。でも、高校卒業の時期に、人生でいちばん辛い経験をして、変わらなきゃ、と意識し始めたんです。

詳しく教えてください。

「違う女の子を好きになった」と、当時の彼氏に振られました。初めての挫折です。それで、その相手の女の子が超可愛かったんですよ。あぁ、もう勝てねえわ、と。このままじゃ、一生振られる人生だ、私も何かやらなきゃ、とウズウズしてたところに、その先生の授業があって。

「上手く描く」「上手く生きる」を排除して、最後に残ったのが〈女の子〉だったんですね。

そうですね。ずっと我慢していた気持ちをやっといえる、いっていいんだ、と。それから描く絵も変わったし、私もやっと、自分の気持ちがいえるようになりました。

あなたが〈女性〉であることは、作品に影響していますか?

私は絵を描くとき、自分の感情や気持ちをぶつけるように描いています。男性は理性的というか、ここまで感情任せに、考えなしに描かないんじゃないかな。ものづくりの現場で色々見ていて、男性は、ちゃんとプロセスを踏まえて創作するなぁ、と感じます。だから、私がもし男性だったら、作品も全然違っただろうし、絵にピンク色を使うかな? とも思いますね。

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絵を描くときは、意識してピンク色を使うようにしているんですか?

絵を描くとき、色については考えていません。手にとった色で感情任せに描いていると、なぜかピンクっぽくなります。昔は、どちらかといえばピンクは苦手でした。ピンクって、わざとらしいじゃないですか。服も、ピンクより青とか黒のほうが無難だし、みんなに合わせていました。だから絵を描き始めたばかりの頃は、ブルーとか緑が多かったかもしれないです。それがだんだん、描く絵も服も、ピンクになっていきました。

ピンク色って、いわゆる〈女性らしい〉色だと思うのですが、〈女性らしさ〉を押し付けられるのは嫌なタイプですか?

今はだいぶ〈女性らしさ〉の定義も自由になってきたとは感じますけど、やっぱり押し付けられるのは嫌ですよね。第21回岡本太郎現代芸術賞で岡本太郎賞をいただいて、いろいろな意見が増えました。誰かに何かいわれるとき、絶対に〈女〉が付いてくるなぁと、受賞してから強く感じるようになりましたね。

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具体的に、どのようなことをいわれましたか?

「下品」が、今回多かった気がします。〈下品〉って、男性にはあまり使わない気がするし、「〈女性〉はこういうことしてはだめですよ」というのがあるから、下品だといわれるのかな、と。やっていい、やっちゃだめ、の基準が男性よりも厳しいな、とは感じますね。本当は、女性だって何を言ってもいいし、何を表現しても良いはずなのに。

何について、「下品」だといわれたんですか?

なんだろう、顔かな?(笑)2ちゃんねるにスレが立って、絵への批判もありましたが、容姿に関する書き込みも多かったです。「ブス」とばかり書かれたり「自撮りupするなよ」とか。でも、もし自分が男性だったら「ブス」なんていわれない気がするんですよ。なぜ女性は〈可愛い〉とか〈美しい〉が前提じゃなければいけないんだ、と。自撮りだってupしていいじゃん、盛れたし。私は好きな服も着るし、好きな化粧もするし、絵を描きたいし、ただ自分らしくいたいんですけど、周りがうるさくて。批判なんて気にしなければ良いのかもしれないけど、容姿は私自身も気にしているし、自分が気にしていることは、他人に指摘されても傷つくし、キツいし、ムカつく。息苦しい。生きづらいです。

では、もし性別が選べるなら、女性ではなく男性を選びますか?

いや、私は絶対、女性でよかった。女性特有の生きづらさもあるけど、やっぱりまだ女性のほうが自由だし、かっこいいし、女性のほうが自分を〈武装しやすい〉から。

どういう意味ですか?

女性のほうが、服とか化粧とか、鎧が手作りできる感じがします。でも、りゅうちぇるさんのような、性別にとらわれずファッションを楽しんだり、男性の固定観念を壊してくれる男性が現れて、時代の変化を感じました。彼のような生きかたの男性が増えることで、男性も自分らしく生きられる幅が広がるし、女性の固定概念も壊されていくようで、私自身、背中を押される気持ちになります。

男性、女性、それぞれ役割はあると思いますか?

そんなものは、もうごちゃごちゃになっちゃえばいいんです。やりたいやつが、やりたいことをやりたいようにやるのが、いちばん生きやすいんじゃないかな。働きたい女性はどんどん働いていいし、家事とか子育てが好きな男性はやればいいし。私は、今まで通り描きたい絵を描いて、生きたいように生きたいです。

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上手く生きようとしていた頃と比べると、だいぶ変わりましたね。

そうですね。中学生、高校生の自分からは考えられないです。「上手く描こうとしなくていい」。絵を描くのと同じで、素直に好きなようにやれば、みんなどうにかなるはずです。私は私だから〈女性らしく〉なんかより、〈自分らしく〉を大事にしたいです。