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パートナーが腹上死した場合の対処法

さまざまな研究で、濃いセックスへと尽力すればするほど、心臓麻痺や発作のリスクが高まるという相関関係が確認されている。セックスと関連したオーバードーズや、ドラッグ関連の合併症、そして過激なプレイ。相手が死んでしまった場合、どうすればいいのか? 法的にはどうなるのか?
パートナーが腹上死した場合の対処法

近年、セックスの効用が高らかに謳われており、イギリスの国民保健サービス(National Health Service)までもが、セックスを有益な健康法として奨励している。ストレス軽減や免疫力強化、女性の膀胱コントロール補助、そして前立腺の健康を保つ効果があり、セックスは現代文化の〈特効薬〉となっている。しかし、私たちの生活に良い効果をもたらしてくれるセックスの最中に、死に至るケースも珍しくない。

さまざまな研究で、セックスに没頭すればするほど心臓麻痺や発作のリスクが高まる、と死とセックスの関係が確認されている。死亡数が多いのは男性で、更にいうとEDの男性たちだ。また不貞行為の最中だともっと増える。ジョージア州ローレンスヴィルの警察官ウィリアム・マルティーネズ(William Martinez)は、2009年、31歳で心臓疾患が原因で死亡した。妻ではない女性、自分以外の男性と、モーテルで3Pに興じている最中に、彼は他界した。

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セックスと関連したオーバードーズや、ドラッグの合併症で死ぬケースもある。なかには、合法の薬品を使用した結果、死亡した事例もある。たとえば2009年、28歳のセルゲイ・ツガノフ(Sergey Tuganov)は、バイアグラを飲み狂い、女性2人と12時間に及ぶ耐久セックスの後、死亡した。違法の薬物であれば、さらに致命的だ。2009年、43歳のオーストラリア人医師スレッシュ・ネア(Suresh Nair)は、彼の部屋に来た売春婦に大量のコカインを摂取させ、それが原因で売春婦2人が死亡した。また、マヌケ、としか表現しようのないセックス中の事故で死亡するケースもある。1983年、サンフランシスコのとあるクラブの副支配人は、ピアノの上でセックスをしている最中に、ピアノが載ったエレベーターを稼働させてしまい、ピアノと天井に挟まれて死亡した。激しいセックスやSMプレイがきっかけによる不慮の死もある。2016年、59歳のイギリス人警察官ゴードン・センプル(Gordon Semple)は、同性愛者向けアプリ〈Grindr〉で出会った50歳のステファノ・ブリッツィ(Stefano Brizzi)とのセックスで、マスクを着用した自分の顔の上に彼を座らせ、装着していた首輪を彼にきつく締めさせて快楽を貪った結果、命を落としてしまった。

不名誉な事例からもわかるように、腹上死は、一般的ではないと思われがちだ。真偽はさておき、珍事だからこそ、世間はこの手の話を好むのだろう。中世のローマ教皇から20世紀中頃の政治家まで、有名人たちの腹上死がネタになるのも仕方がない。しかし、腹上死は、不当に小さく扱われている。健康上の理由によるセックス中の死亡件数だけでも年に数千件はある、とも予想されている

だが、いくら私たちがそういうネタが好きで、いくら腹上死が比較的珍しくない出来事だとはいえ、もしパートナーがセックス中に死んでしまったら、いったいどのような法手続きがあり、どう対処すべきなのか、ハッキリわかっている人は少ないだろう。腹上死は大したコトではない、とする風潮もある。俳優マシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)の母、ケイ・マコノヒー(Kay McConaughey)は、1992年に夫が心臓発作で腹上死した件について、自伝『I Amaze Myself』で、ただの追加情報かのようにさらっと言及しているし、2011年にオハイオ州で起こった〈SMプレイ中に猿ぐつわをした男性の窒息死事件〉でも、誰も罪に問われなかった。一方、腹上死後の裁判が長く続き、苦難を強いられる場合もある。2007年、パートナーがセックス中に死亡したカナダ人女性は殺人罪で起訴され、2014年には10代の若者少なくともふたりが、同意の上での激しいセックス中にパートナーを窒息死させたとして起訴されている。

パートナーがセックス中に亡くなったときの責任について、カリフォルニア州オークランドを拠点に活動する〈レッド・ライト・リーガル(Red Light Legal)〉の代表クリスティーナ・ドルジン(Kristina Dolgin)に話を聞いた。レッド・ライト・リーガルは、腹上死により起訴される事例がもっとも多いと予想される、米国内のセックスワーカーを法的に支援する団体だ。彼女は、どんな状況であれば、捜査が実施されるのか、この不測の事態に対処するためにはどうすればいいのか、比較的シンプルな基本情報を教えてくれた。

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パートナーがセックス中に死亡したとします。どのような場合に取り調べられたり、告訴されたりするでしょうか?

誰にも定義できないでしょう。しかし、関係が伝統的な価値観にのっとっている場合、たとえば婚姻関係にある夫婦、核家族の夫婦であれば、婚外性交、SMプレイばかりしているのでないかぎり、起訴されるリスクはかなり低いでしょう。多くの場合、実際に何をしていたか、そして客観的視点からどういう行為に見えるかを基準に判断されています。行為のタブー度が高ければ、リスクも高くなります。一般的に恐ろしげな行為であれば、よりいっそう告訴される可能性も高くなります。

もっとも法的に立場が厳しくなる腹上死の例を教えてください。

売春行為中の腹上死ですね。性交中に、明らかになんらかの犯罪行為があった場合も同様です。身体にかかる負荷によって致し方なく心臓発作で死亡した場合でも、ドラッグ摂取や、過激なSMプレイをしていたのであれば、それが直接の死因でなくても、スティグマとして扱われたり、偏見を抱かれもします。

一般的に、殺人罪に問われれば、多くのハードルを越えなければなりません。この国の法制度は対審制ですから、倫理的に大きな偏見を持たれていたり、悪党扱いされている容疑者にとって、潔白を証明するのは非常に厳しいです。

オーバードーズでパートナーが死んだ場合は、どう考えるべきですか?

カリフォルニアには<善きサマリア人の法>* がありますから、責任を問われない場合もあります。とりわけオーバードーズへの緊急処置を奨励するためです。これによりオーバードーズの犠牲者だけでなく、医療処置を施した人も、規制物質の使用、所持の罪に問われなくなります。

* 1951年にジョンズ・ホプキンス大学病院の医師が黒人女性、ヘンリエッタ・ラックス(He窮地の人を救う際、無償で善意の行為をしたならば、たとえ失敗し、最悪の状況になったとしても、責任を問われないという趣旨の法。

しかしこの法律も、それ以外の罪からは守ってはくれません。たとえば顧客がオーバードーズで倒れたので救急車を呼ぼうとしたセックスワーカーは、結局、売春罪には問われてしまいます。このような状況では、検察官やその他の司法当局の判断によって、立場が大きく変わってしまいます。非常に主観的ではあります。司法当局には多大なる自由裁量権が与えられており、逮捕されるか否かは、彼らの判断次第です。

もちろん、救急車を呼ぶな、と薦めているのではありません。しかし、そういう危険性があるおかげで、ひとつの命を救えない可能性もあるのです。

では、激しいセックス、無理な体位、過激で危険なSMプレイで死んだ場合はどうですか?

カリフォルニアでは他州と同様に、〈殴打〉や〈拷問〉といった類の行為に同意してはいけない、と法的に規制されています。少しでも叩いたり、ムチで打ったりしたら即逮捕というわけではありません。ベッドルームの行為を警察が逐一関知しているわけではありませんから。しかし、もし検察官や司法当局がベッドルームをのぞいて、「これは死因と結論づけられるSM的行為だ」と判断したなら、殴打、ムチ打ち、首絞め、窒息プレイ、流血プレイは、本質的に危険行為と判断されます。たとえ結果として、何らかの問題が起こる可能性がゼロに近いとしてもです。カリフォルニアや他州では、それらの行為が本質的に〈悪〉で、本質的に〈危険〉である、と判断した過去の判例があるので、裁判所にとっても、検察にとっても、疑わしき行為を死因と結びつけるのはとても簡単です。

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では普通のセックスで誰かが死んでしまった場合、そのなかで訴訟に発展するのはどういうパターンが多いのでしょうか?

捜査を希望する関係者がいるか否かです。たとえば家族の誰かが、財産を少しでもたくさん相続したい、と望んでいたとします。故人の死因がパートナーの責任になれば、遺産や保険金の受取人からそのパートナーを外せますから、それが訴訟のきっかけになります。

仕事としての性行為でも、そうでない場合でも、どうしたら腹上死の責任を最小限に抑えられるのでしょう。

リスクがあるのか、ないのかを確認するべきです。もちろん、それは誰しもやっているでしょう。誰もパートナーには死んで欲しくないでしょうから。しかし、性産業の従事者は、やはり危険です。でも簡単にリスクを避ける方法もあるんですよ。

SMプレイをするのであれば、心肺蘇生トレーニングを受けたほうがいいでしょう。また、オピエート* のオーバードーズに備えて、ナロキソン** を常備しましょう。とにかく、どんなお客さんが相手になるかわかりません。人それぞれ、いろんなタイプのドラッグを使用しています。そしてもし可能であれば、相手の健康状態について確かめておくといいですね。そうすればリスクのレベルが把握できます。心臓に問題を抱えているお客さんもいるかもしれません。そのときには、相手にあまり負荷をかけないよう心がけるべきです。

* ケシから抽出して得られる麻薬性物質。 ** オピエートの過剰摂取で呼吸困難を起こしている場合に、呼吸を回復させる拮抗薬。

これらの対処法は、セックスワーカー以外にも有効ですが、それ以外の人々がセックス前に、こういう話し合いをしているか、それはわかりません。行為の前に、セックスについて話したりしないでしょう?

相手の身体的リスクを知っていればいるほど、死の責任が重くなりませんか? 更に長い付き合いなら、無罪は難しくなるのではありませんか?

まさにそうです。故人がSMプレイなど、これまでの行為の影響も含めて、医療問題があるのをパートナーが知っていたとすれば、法廷での状況も厳しくなります。

腹上死されたら、セックスワーカーであろうとなかろうと、どう行動するべきなんでしょうか。

もし自分に関連するような証拠は、絶対に隠したり壊したりしてはいけません。警察を呼んだ場合、警察から連絡を受けた場合は、捜査を拒否し、まず弁護士に相談してください。黙秘権を行使しましょう。

なんらかの罪に問われた場合は?

過失致死であろうと、殺人罪であろうと、起訴された場合、セックスワーカーにできることはそんなにありません。

しかし、徹底的に闘うべきです。支援してくれる味方を探しましょう。そういう団体を探してもいいですし、支援してくれる家族や友人を募るだけでもかまいません。結局、そういったケースの95%は、審理まで進みません。審理に進んだとしても、みんなが協力してくれれば、流れは変わります。だから、訴えられたとしても、もし可能であれば、簡単に諦めないでください。