ベロチューをディープに探る

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ベロチューをディープに探る

よく考えればディープキスは奇妙な行為だ。どうして私たちはディープキスをするのだろう。ただ単に変態だから? それとも他人と「唾を交わしたい」と欲するような、生得的、生物学的な理由があるのだろうか? 

基本的に他人の唾は気持ち悪い。他人の唾が自分のドリンクに入ったらがっかりだし、会話中に相手の唾が飛んできたら最悪だ。男性が当然のような顔をして、歩道のあちらこちらにタンを吐くのも非常に不愉快だ。だけど想像してほしい。そのタン吐き男性が、もしDickiesのくるぶし丈パンツと、Supremeの最新アイテムを身につけていたら、一晩かけて、彼の唾で自分の口の周りをベトベトにしたがる好事家もいるだろう。

よく考えればディープキスは奇妙な行為だ。どうして私たちはディープキスをするのだろう。ただ単に変態だから? それとも他人と「唾を交わしたい」と欲するような、生得的、生物学的な理由があるのだろうか?

残念ながら専門家のあいだでも意見が割れている。つまり明確な答えはない。パートナー選びのために進化の過程で必然的に生まれた習慣、とする説があるいっぽう、そもそもディープキス文化など、軽蔑の対象であり、メディア消費やグローバル化により市民権を獲得したにすぎない、とする説もある。

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科学界でよくなされる〈生まれか育ちか〉論争は、ディープキスというテーマにおいても活発だが、一般人は、ディープキスについて特に深く考えた経験がないのが実情だろう。

同僚たちは、初ディープキスに至った理由についてこう語っている。

「友人に負けたくなくて。あと、みんなしてるのも知ってたから、自分もやってみたかった。あとは単純に遊び感覚」

「テレビで観て当たり前だったから。あと、自分がブスじゃないって証明するための最終目標だった」

「ふたりの人間が互いの舌を絡め合う。他人とつながる手段としては最も簡潔な、最も親密な行為でしょう」

それぞれの事例や意見も充分納得できる内容だったが、やはりここは専門家の意見を伺おう。私たちがディープキスをする理由について、それぞれ異なる見解をお持ちの研究者ふたりに話を訊き、ディープキスについてさらなる理解を試みる。

「ディープキスは本能的な行為であるはずです」と語るのは生物人類学者のヘレン・フィッシャー博士(Dr. Helen Fisher)。「地球上で口を開けてキスをする動物は人間だけではありません。チンパンジーもキスをするし、象の求愛行動でも、相手の口のなかに自分の長い鼻を入れます。鳥たちも互いのくちばしをつつき合うし、犬など、相手の顔じゅうをなめ回す動物もいます。人間も同じです」。また、多くの動物にとって口と口を合わせる行為が自然である証拠として、動物の親子の〈口移し〉を挙げた。

一方、そこまで単純な話ではない、と主張するのはラスベガスのネバダ大学で文化人類学を教えるシェリー・ヴォルシュ(Shelly Volsche)教授。彼女は、口移しについてこう語る。「確かに自然な、生得行動ではあります。しかし、それを性的、恋愛的文脈で語るのはナンセンスです。ひとつの明確な目的のために進化した生得行動のロジックで、他の行動を説明するようなものです」

ヴォルシュ教授が共著者として2015年に発表した研究レポートでは、恋愛、性的な口づけ(つまりディープキス)は、世界のなかでも、46%の文化にしかない習慣であることが明らかにされた(この研究以前は、約90%の文化で存在していると推測されていた)。フィッシャー博士に訊くと、こんな答えが返ってきた。「ディープキスはしないかもしれませんが、相手の顔を噛んだり、なめたり、顔をすり合わせたりはします。それらは全て、口づけのバリエイションなのです」

ディープキスは概して、主に米国など、脱工業化した諸国での習慣であり、しないよりはする人数のほうが多い、とヴォルシュ教授は指摘する。

また、教授によると、ディープキス不在の文化に暮らす人々がこの習慣について見聞きすると、ほとんどの場合嫌悪感を抱くそうだ。しかし西洋文化に慣れ親しみ、広告などで美男美女のディープキスを絶えず晒されていても、その心情は理解できる。病気を予防しようとする本能的欲求と相反しているようでもあり、ディープキスの意味がなかなかわからない。

「ディープキスをする人/しない人にそれぞれ注目すると、衛生状態の良し悪し、セルフケアの有無がその選択に大きく関係していることがはっきりとわかります」とヴォルシュ教授。つまり、バーで出会った得体の知れない相手とディープキスできるか否かの判断は、リステリンで口をすすげるか否かにかかっている。

また教授は、人類の歴史において、そして、現在でも狩猟採集生活を営む社会では、長めの前戯が当たり前なわけではない、と語る。「アカピグミー族(=ディープキスの文化を持たない民族)はそもそも夜の営みについてあけすけに語らない民族ですが、彼らにとって〈楽しい夜の営み〉とは、質よりも回数の話なのです」

また、ディープキスはホルモンレベルや、ホルモンがパートナーに与える影響とも関連している、と分析する専門家もいる。「仮説ですが、唾のなかには性的欲求を高めるテストステロン(男性ホルモン)が含まれていて、相手の欲望を高めるために男性が相手の口の中に唾を入れるのだ、という説もあります」。そうフィッシャー博士はいうが、それでは女性同士のディープキスについては説明がつかない。

ホルモンレベルはさておき、フィッシャー博士はパートナー選びにおけるディープキスの重要性については確信している。「ディープキスは、パートナー選びにおいて重要な役割を担っていると私は考えています。1回目のディープキスで感情がより高まる可能性もありますし、別れの決定打になることもありえます」

このように〈ディープキス=本能的行為〉説を主張しているフィッシャー博士だが、文化的影響も無視できない、と認識している。「人間の脳は柔軟です。先天的に受け継がれた基本的な行動パターンが、文化の影響でかたちを変える可能性はあります」。そして彼女はこう締めくくる。「私は、ディープキスが自然な行為だという見解を翻すつもりはありませんが、そこには、生物学的、文化的影響があります」