〈女性用コンドーム〉は身近なツールになるのか
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〈女性用コンドーム〉は身近なツールになるのか

米国食品医薬品局(FDA)は、法的に〈女性用コンドーム〉と定義されている製品の再分類と、名称の変更を検討している。それが実現すれば、市場開拓につながり、消費者にとって身近なツールになる可能性がある、と支持者たちは期待している。

内部装着型、ないしは、女性用コンドームを忌避する米国人は少なくない。しかし、〈性の健康(sexual health)〉を提唱するアクティビストは、近日中に実現する可能性のある、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration, 以下FDA)による女性用コンドームの名称変更と規制緩和によって、同製品が世間に普及すると信じている。

女性用コンドームを装着するにはまず、膣の入り口に入れやすいように、内側にある小さなリングをぎゅっとつまんで持つ。次に、指をつかってコンドーム全体を膣内まで入れ込まなくてはいけない。セクシーな動作とは程遠く、アダルトビデオやハリウッド映画で取り上げられもしなければ、いわゆる性のハウツー本にも登場しない。

性の健康の研究者たちによると、女性用コンドームが普及しないのは、「気持ち悪い」「変」などの悪い評判のせいだという。女性用コンドームが製品として初めて米国で認可されたのは1993年。メディアがそのニュースをどのように扱ったのか、2004年に調査したところ、同製品は、くらげ、人工肛門、ジップロックなどに例えられ、「ボストン湾に浮かべるモノ」「試験管とゴム手袋を足して2で割ったモノ」「ムンクの叫び」と揶揄されるなど、セクシーさとは縁遠いモノの代表格のような扱いだった。その頃に比べて、同製品のデザインは、やや洗練されたが、製品として普及しているとは言い難い。

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だが、性の健康を支持するアクティビストたちによると、女性用コンドームは、より高い性的満足度をユーザーにもたらすという。また、挿入〈される側〉が避妊のコントロール権を持つ、唯一の方法だともいう。

しかし現在まで、米国内ではFDAによる厳しい規制のため、女性用コンドームの製造、販売は困難で、消費者が製品を手にし、正しい使用法を知る機会がなかった。昨年6月以来、米国内で女性用コンドームを製造していた唯一の企業も、ついに、利益向上のために医療保険会社や医療従事者向けの販売へとかじを切り、ドラッグストアから撤退している。

しかし、近い将来、状況が変わるかもしれない。FDAは今、法的に〈女性用コンドーム〉と定義されている製品の再分類と、名称の変更を検討しており、それが市場開拓につながるかもしれないのだ。もしこの変更が実現すれば、女性用コンドームは、ついに、ニッチから主流になり、消費者にとって身近なツールになる可能性がある、と支持者たちは期待している。

via Wikipedia.

女性用コンドームと似たような避妊具は、古来より存在していた。紀元前3000年頃、クレタ島のミノス王は、ヤギの膀胱を女性用コンドームとして使っていたという。今のかたちの(動物の膀胱ではない)コンドームが発明されたのは1990年代前半だが、それ以降も不人気だった。長い間、主に国際保健や援助プログラムを通して、男性のパートナーがコンドームの装着を拒否するような状況にいる女性たちを救うために、女性用コンドームは利用されてきた。

しかし、米国内で女性用コンドームへの反応は、嘲りや、疑い、嫌悪感など、ひどい評価だった。2013年、女性向けブログサイトのJezebelは、女性用コンドームを「キモい」と表現し、2014年にはまた別の女性向けサイト、XOJaneのライターは、女性用コンドームの使用感を、まるでビニール袋とセックスをしているようだと例えた。

今、米国内で販売されている唯一の製品は、7インチ(約18センチ)程の長さで、ニトリルという、ラテックスに似た、より強度の高い薄い素材でつくられている。その製品には、ふたつのリングがついており、しなるように設計された内側の、アナルでの使用の際には取外し可能なリングは、コンドームを膣内の正しい位置にとどめる役割を果たし、外側のリングは、コンドームがずれないようにする役割を果たしている。基本的に、この製品は、膣であろうが、アナルであろうが、挿入「される」側、いわゆる〈受け側〉のモノであり、〈女性用コンドーム〉という名称は、実は正しくない。

サラ・セメルカ(Sara Semelka)氏は、シカゴエイズ基金(AIDS Foundation of Chicago)が設立した、研究者、医療従事者、関連団体を束ねるキャンペーン・ネットワーク〈米国女性コンドーム連盟(National Female Condom Coalition、NFCC)〉の代表を務めている。「この製品を女性用と決めつけてしまっていることが問題なんです」セメルカ氏。「女性用コンドームのパッケージを見ると、どれも女性の膣しか描かれていません」

シカゴでクィアを対象に性の健康を教育するニコール・ホルムス(Nicole Holmes)氏によると、女性用コンドームが男性同士のセックスで使われるケースをよく目にするという。ゲイの男性のなかには、パートナーのペニスが大きい場合、女性用コンドームを使うとより自然な感じがする、という声もある。しかし、こういった使い方は世界のコンドームの供給全体に比べると僅か0.2%にも満たない

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女性用コンドームは、正しく使用した場合でも失敗率5%と、男性用コンドームの失敗率2%に比べて避妊に失敗する確率が高い。しかし、使用のさい、一部を身体の外に出しておくので、接触感染するヘルペスなどの病原体が広まるのを防止できる、という利点がある。また、暖かさや、内側のリングによるペニスへの刺激、そして外側のリングによるクリトリスへの刺激などにより、性的満足度が高い、というユーザーもいる。

さらに、ニトリルは、ラテックスより柔らかく、より破れにくい。とはいえ、絶対に破れないわけではない。正しく使用したとしても、コンドームの破れ、精子の溢れ、製造不良などに起因する、一定数の失敗が起こる。

しかし、多くのユーザーにとって、女性用コンドームのいちばんの魅力は、受け手側が自分の身体を守る術を持てる、ということだろう。セックスワーカーや、パートナーがコンドームをつけたがらない、了解なしに勝手にコンドームを外されるなど、コンドームの使用を巡って悩みをかかえているポテンシャル・ユーザーにはとても便利な製品だ。

セメルカ氏は、コンドーム装着権を得て力づけられた〈受け手側〉をたくさん見てきたという。「身体のことは本人がいちばんよくわかっているんです。コンドームがちゃんと入っているということも、本人ならちゃんとわかるんです」

Photo by "Anqa," Creative Commons.

2017年12月、NFCCのような複数の団体が、女性用コンドーム取扱の変更を検討する、というFDAの声明を称賛した。理由は、女性用コンドームの名称を公式に〈使い捨て内部装着型コンドーム〉に変更する、とFDAが提案したからだ。キャッチーではないにせよ、専門家が目にしたであろう、広範にわたる女性用コンドームの利用方法を反映した名称だ。

FDAは、内装型コンドームの所属分類を、現在のクラス3から、男性用コンドームと同じクラス2への変更も合わせて提案している。FDAは、医療機器を3つのクラスに分けている。そこに分類されるのは、ペースメーカーや、人工心臓弁など、使用上のリスクが最も高く、製造、販売に特殊な条件、特別な管理体制を要求される機器だ。

まだ内装型コンドームの研究も科学的知識の蓄積もほとんどなかった1993年、この製品が初めて認可された当初は、同製品のクラス3への振り分けは正しい判断だったのかもしれない。今や20年以上もの間テストが繰り返された結果、製品は安全であり、規制を緩めても大丈夫、と証明するだけのデータが十分蓄積された、とセメルカ氏はいう。

FDAによる内装型コンドーム認可の過程で実施されたヒアリングに参加した経験のある、ペース大学(Pace University)のエリカ・ゴラブ(Erica Gollub)博士もセメルカ氏に同意する。「安全な製品である内装型コンドームに課された規制を緩和すべき、真っ当な理由があります。それは、男性女性問わず、挿入する側にもされる側にも、望まない妊娠、性感染症、HIVを防ぐための新たな選択肢を提供するためです」

アクティビストたちは、FDAによるクラス変更が実利もたらすだろう、と期待している。わずらわしい事務処理、厳しい条件がなくなれば、内装型コンドームを製造する業者が増える。うまくいけば、製品の種類も増え、装着のさいに気分が悪くなってしまう繊細なユーザー向けに、タンポンのようなアプリケーターがついたタイプもできる可能性もある。そんな市場競争であれば、価格の低下にもつながるだろう。

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何年もの間、様々な企業が内装型コンドームのデザインを変えようと試みてきた。国際的に活動している医療系非営利団体〈PATH〉は、コンドームの内側のリングをウレタンフォームに変え、挿入しやすいように溶けるカプセルを先端につけた製品を開発し〈ウーマン・コンドーム(Woman’s Condom)〉と名付けた。〈キューピッド(Cupid)〉という商品は、それと同様にウレタンフォームを利用して、コンドームが膣内で正しい位置に留まるように工夫されており、素材は、ニトリルでなくラテックスだ。〈Phoenurse〉という商品には、挿入時に利用するスティックが同梱されている。だが、こういった商品もまだ世間に広まってはいない。FDAの認可を受けるためには、時間も費用もかかるからだ。とあるスタートアップは、シリコン製の折りたたみ型コンドーム、その名も〈オリガミ(Origami)〉という商品の開発に取り組んでいるが、法廷闘争の影響で製造は中断されたままだ。

米国でFDAの認可を受けて内装型コンドームを製造している唯一の企業〈Veru Healthcare〉は、処方箋をもらうか、同社のWEBサイトで12個もしくは24個入パックを購入するか、どちらかの販売方法でしか用意していない。だからこそ、今、低価格で、簡単に商品を購入できるか否かが重要なのだ。内部装着型コンドームは、ひとつあたり2〜3ドルはする。決して、気軽に手を出せる商品ではない。

こういった障壁は個人だけではなく、社会全体の公衆衛生にも影響する。ロサンゼルス統一学区でHIV/AIDS防止プロジェクトのアドバイザーをしているティモシー・コーディック(Timothy Kordic)氏によると、ここ5年ほどで、いまだに女性用コンドームへの偏見を拭えない大人に比べ、若年層の内装型コンドームへの評価がポジティブになっているという。だが内装型コンドームは、いまだに高価で手に入れづらいため、学区の教育プログラムに必要な数を確保できていない。価格を下げ、どこでも誰でも手に入れやすくするだけで、状況は大きくかわる、とコーディック氏は考えている。

こうした支持者たちの確信とはうらはらに、内装型コンドームが男性用コンドームに肩を並べるには、越えなければならない壁がまだまだ残されている。たとえ商品が手頃になったとしても、米国人に受け入れられないという可能性もある。比較的規制が緩いとされてりうヨーロッパでさえも、内装型コンドームは普及していない。

それでも、セメルカ氏は、慎重ながらも楽観的だ。2月2日にパブリック・コンサルテーション期間が終わったので、FDAが公募で集まった意見を吟味し、最終的な判断を下すのを待つばかりだ。クラスと名称の変更が実現すれば「わたしたちの出番です。今はまだ、バトンはFDAの手にあります」と彼女。