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笑われて それでも首振る ニセメタル

映画やテレビで大活躍した愛すべき〈ニセメタル野郎〉たちをご紹介。その輝けるフェイクっぷりは、メタル界に真実をもたらし、称賛され、尊敬を集め、愛されているのでした。
Photo via Moviestore Collection/Rex

映画とかテレビのライブハウス・シーンって、トホホ〜ンなパターン多いですよね。大学生みたいなお客さんばっかで、全員拳上げて、オイオイ!いって、でもエキストラ少ないからフロアに隙間があって。バンドはギターが長髪、ベースはモヒカン、ドラムがスキンヘッズ+グラサン。この場合、ヴォーカルは市原隼人さんがいいなぁ。…とってもステキな映画なのに、そのシーンだけでドチ~ンと萎えてしまったりします。しかーし、メタルは別。いくらドチ~ンなシーンでも、なぜか微笑ましかったり、爆笑したり、逆に納得したり…。厳格なメタルヘッズたちが激昂したなんて話も聞いたことありませんし、逆に「コイツらは本物!」「コイツらはニセモノ!」という議論が、常にヘッドバンカーたちのあいだでは飛び交っているとか、いないとか。

…と、いう訳で、そんなニセモノのなかでも愛されているメタル野郎たちをご紹介。その輝けるフェイクっぷりは、メタル界に真実をもたらし、称賛され、尊敬を集め、愛されているのでした。更なるご興味を持たれましたらTATSUYAへレッツゴーです。

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バンド名:スパイナル・タップ 『スパイナル・タップ(This Is Spinal Tap, 1984)』

1984年の偽ロックドキュメンタリー。大傑作。伝説的な英国のベテラン・ヘヴィーメタル・バンドの災難を記録したものだ。そしてこの映画に対する各ミュージシャンの公式コメントは、「すごく面白くて、すごくイタい」ということで一致している。クリストファー・ゲストがギターの名手ナイジェル・タフネルを演じ、マイケル・マッキーンがフロントマンのデヴィッド・セイント・ハビンズ役を。そしてハリー・シェアラーは、ベーシストのデレク・スモールズを映画史上最も見事な髭をたくわえて演じている。紆余曲折しながら純粋なメタルバンドへと成長し、遂にプラチナ・ディスクを獲得するまでを綴っている。

この映画に現れる様々な場面は、多くのメタルバンドに通じるエピソードだ。バンドがライブ会場への道中で迷子になったり、重要な小道具が完全に間違ったタイミングで発射されたり、メンバーのガールフレンドが作曲に口出ししたら、シンガーとギタリストの間で喧嘩が起こったり。そしてドラマーは連続して不可解な死を遂げている。

通常は〈10〉までしかないボリュームを改造したアンプを見せながら、ナイジェル・タフネルはいつもの虚勢と頭の悪さで「11まで出せるんだぜ!」と笑顔でのたまう。これこそがスパイナル・タップなのだ。

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バンド名:スティール・ドラゴン 『ロック・スター(Rock Star, 2001)』

2001年のマーク・ウォールバーグ作品『ロック・スター』は、ジューダス・プリーストのフロントマンだったロブ・ハルフォードが1996年にバンドを離れ、ティム・オーウェンズが代役を務めた経緯を題材としている。当初は実話をストレートに再現するためにジューダス・プリーストの呼称である〈メタルゴッド〉というタイトルで企画されたが、ジューダス・プリースト、ロブ側からのストップもあり、アレンジして制作は進められた。そのためマーク・ウォールバーグはクリス“イジー”コールを演じ、彼が加入するグループの名前はスティール・ドラゴンとなり、ザック・ワイルドや故ジョン・ボーナムの息子であるジェイソン・ボーナム、ジェフ・ピルソン(exドッケン)といった現実のメタル界のベテランが脇を固めることになった。

公開当初こそ散々な結果だったが、やがてコアなファンがつき始め、特にメタル界隈では傑作として語られる作品となった。そんな発言をしているうちの1人が、とんでもないことに誰あろうロブ・ハルフォードなのであった。彼は「サイコーにくだらねぇ(笑)!」と断言している。

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バンド名:ワイルド・スタリンス 『ビルとテッドの大冒険(Bill & Ted’s Excellent Adventure, 1989)

『ウェイン&ガース』、『ビーバス&バットヘッド』、そして『ビル&テッド』こそが、最高に愛すべきメタル馬鹿のティーンエイジャーだ。そんな二人によるハードかつヘヴィーなロックンロール・ドリーム・バンドこそがワイルド・スタリンス。『ビルとテッドの大冒険』を始め、『ビルとテッドの地獄旅行(Bill & Ted’s Bogus Journey, 1991)』でも活躍する我らが不幸なヒーローは、土曜朝のアニメやFOXチャンネルの生番組、いくつかのテレビゲームをもロック色に染めた。

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更にアクション・フィギュアや朝食用シリアルまで登場。二人のエアギターには誰もが敬礼する。

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アーティスト名:ディーコン・ダーク 『ラブ・ボート(The Love Boat, 1977 – 1987)』

1970年代、『ラブ・ボート』は、豪華クルーズ船を舞台にしたコメディ・ドラマの番組として世の中を席巻していたが、それはピークを過ぎた俳優のためのものだった。そのひとりがソニー・ボノで、妻でもあったパートナーのシェールと別れた後、しばしば『ラブ・ボート』にも乗船していた。彼の最も印象的な航海は、ディーコン・ダークに扮したときのもの。それはアリス・クーパーやキッスをモデルにした顔面フルペイントのロック・スター。〈デンジャラスで気持ち悪いクレイジーロッカー〉と紹介されたディーコン・ダークは、船上パーティーに飛び込み、「ぶっ壊せ!ハンマーで殴れ!ぶっとばせ!」と叫ぶ。ディーコン・ダークは意図的に演出されているが、メタル界の未来を奇妙に予言していた。バック・ミュージシャンは、ブラックメタルのコープスペイントの初期バージョンみたいだし、ディーコンのメイクは、デンマーク・メタル界の伝説マーシフル・フェイトのキング・ダイアモンドと似通っている。これは偶然だろうか?そうかもしれない。どっちにしても、キング・ダイアモンドにこのことは聞けないけれど。

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アーティスト名:モレク 『白バイ野郎ジョン&パンチ(CHiPs, 1977 – 1983)』

1979年に『ラブ・ボート』でディーコン・ダークが現れてから3度のテレビシーズンが過ぎ、オジー・オズボーンがコウモリの頭を食いちぎって全国のママを恐怖に陥れた直後、NBCのバイク警官番組『白バイ野郎ジョン&パンチ』からはドン・モーストがデビューし、再度インチキ・メタルの苦しみをもたらした。モーストは、モレクという名前のアリス・クーパー/オジー・オズボーンのクローンとして登場。赤いボディスーツ、赤いケープ、赤い巻き髪のウィッグ、そして紅白のおそろしげなフェイスペイントのモレクが、野外のオーディエンスを熱狂させるところから番組が始まる。カスタムされた霊柩車に飛び乗ると、モレクの音響システムから死のメッセージが流れ始める。

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バンド名:ザ・ローン・レンジャーズ 『ハードロック・ハイジャック(Airheads, 1994)』

1994年のイカれたメタル喜劇。アダム・サンドラー、スティーヴ・ブシェミ、ブレンダン・フレイザーが、バカなヘヴィーメタル・トリオとしてキャスティングされており、そのアホさ加減は、自分たちを〈孤独なレンジャーたち〉と名乗っており、その論理的な間違いすら理解出来ない有様。自分たちの音楽を聞かせるための無謀な作戦として、ホット・ソースを充填したウォーターガンを手にラジオ局を奇襲。DJたちを人質にし、期待通りのドタバタ喜劇を展開する。眉をひそめるようなヘッドバンガーも、最後にはあまりの馬鹿馬鹿しさに屈服し、爆笑してしまうはずだ。クリス・ファーレイやマイケル・マッキーン、マイケル・リチャーズ、アーニー・ハドソン、ジョー・マンテーニャ、ジャド・ネルソンといった脇役も主役陣に負けず劣らず滑稽。

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バンド名:ブラック・ローズ 『ブラック・ローズ(Black Roses, 1987)』

1985年に上院議員の妻であるティッパー・ゴアとPMRCが政府に掛け合い、精神を破壊するようなヘヴィーメタルの邪悪さからアメリカの若者を守るために、レコードやCDなどに〈警告〉のラベル付けを義務化するよう要請した。しかしそれから3年後、最低最悪のヘヴィーメタル・ホラー映画『ブラック・ローズ』がVHSとして放たれた。ティッパーにとっては最低の悪夢だった。悪魔の顔とギターがプラスチックの浮き彫りになっているパッケージだったので、警告ラベルが貼れなかったのだ。ブラック・ローズ自体は、ランボルギーニでツアーをするようなグラムメタルのグループ。ある日、彼らは一風変わった集落にたどり着き、急速にそこの若者の心をとらえ、親たちを食う悪魔を育て、ヘヴィーメタルのあらゆる地獄を見せしめる。この作品の唯一残念な点は、それが実際には起こりえないことであるため、ティッパー・ゴアは結局、神経質な堅物のままでいられることだ。

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アーティスト名:サミ・カー 『ハロウィン1988・地獄のロック&ローラー(Trick or Treat, 1986)

1986年のハロウィン・スリラー『ハロウィン1988・地獄のロック&ローラー』は、当時のヘヴィーメタル・ブームとホラー映画ブームを見事に合体させた。そしてこの映画は、アンチヒーロー、サミ・カー(トニー・フェールズ)のモリモリなヘアスタイル同様、山のような成功を収めた。マーク・プライスが、カーを死ぬまで崇拝するオタクのヘッドバンガー、エディを演じている。カーの死を弔うエディは、キッスのジーン・シモンズが演じる深夜のロックDJ ニュークを訪れる。ニュークはエディにカーの貴重なカセットを渡すが、それをかけると、ボーカリストの汚れた霊が解き放たれ、声の届く限り恐怖をまき散らすのだ。この映画ではオジー・オズボーンもゲスト出演、更にモーターヘッドのエディ・クラークと、UFOのピート・ウェイから成るスーパーバンド〈ファストウェイ〉がサウンドトラックを提供している。W.A.S.P.のブラッキー・ローレスがサミ・カーを演じる話もあったそうだ。