ピーター・フック大いに語る NEW ORDERとJOY DIVISIONパンクとドラッグ そしてDV

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ピーター・フック大いに語る  NEW ORDERとJOY DIVISION パンクとドラッグ そしてDV

〈フッキー〉ことピーター・フックが、30年以上にもなるNEW ORDERの歴史を網羅した書籍『Substance: Inside New Order』を発表した。そこでロングインタビューを敢行。現在は法廷で争っているNEW ORDERとの関係から、JOY DIVISIONの記憶、パンクシーン、そしてこれまで知られていなかったDVについても語る。

目の前にいるのが、30~40年前のピーター・フック(Peter Hook)だったら、私はぶん殴られていただろう。現在60歳。JOY DIVISION、そしてNEW ORDERのオリジナルメンバーである彼は、ロサンゼルス・オムニホテルの上品なロビー・バーのテラス席で、長椅子にもたれて座っている。その姿はまさに威風堂々、立派な英国紳士に他ならない。仕立てたグレーのスーツに、シルクのスカーフとポケットチーフを合わせ、さりげなくコロンが香る。12年も断酒を続けている彼は、ノンアルコールのブラッディー・メアリーを飲みながら、生ハムをつまんでいる。

その姿は、バンドメンバーたちと〈エサをむさぼるブタのように〉ドラッグやセックスに溺れ、指の爪を血まみれにしたベーシストの姿からはほど遠い。彼はかつてのそんな姿を、30年以上にもなるNEW ORDERの歴史を網羅した『Substance: Inside New Order』に記している。

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ファンお馴染みの冷笑的で無遠慮なフックはもういない、というワケではない。たとえば「ポンクロック」とセクシーなマンチェスター訛りで語るパンク・シーンの思い出や、会話でも文章でも嬉々として披露される明敏な考察(ときに穏便な表現に変えられてしまうが)、そして会話に垣間見られるいたずらそうな笑い方、輝く瞳に、かつての彼が現れている。

「音楽の進化を妨げているジジイたちを排除するのが最大の目的だった」。JOY DIVISION、NEW ORDERが率先してその目的を遂行したパンク、ポストパンクの両ムーブメントについて、フックはそう説明する。「今や俺たちがそのジジイだ。だから、かつての自分たちがやりたい放題やらなくてよかったと思っている。もし当時のジョニー・ロットン(Johnny Rotten)や俺が好き放題やっていたら、今はどうなっていただろう? 今の俺みたいなジジイを駆逐しようと考えていたんだから、変な気分だよ」

『Substance: Inside New Order』は、フックにとって3作目となる著書だ。前2作であるJOY DIVISIONの歴史を描いた『Unknown Pleasures: Inside Joy Division』(2012)、そしてNEW ORDERが共同設立者となったクラブ〈ハシエンダ(The Hacienda)〉の歴史を明らかにした『The Hacienda: How Not to Run a Club』(2010)は、共に高評価だ。そしてこの3作目もこれまで同様、筆鋒鋭く、ウィットに富み、恐れを知らず、カバーしている内容はこれまでより広い。「イアン・カーティス(Ian Curtis)が死んだときの状況を克明にする必要があるだろうか?」。本書はそんな疑問から始まる。ここで言及されているのは、1980年、まだ若いバンドであったJOY DIVISIONの成功後に自殺したフロントマンだ。「JOY DIVISIONは私の人生を決定づけ、NEW ORDERは私の人生を形成した」

本書は計800ページにも及ぶが、そのなかで、その疑問への答えというより、31年分の疑問と折り合いをつけてきたバンドの姿が描かれている。疑問に取り憑かれながらも、ポップミュージック、エレクトロニック・ミュージックの再成形に勤しんだバンドの姿だ。本書は、スキャンダラスな暴露本ではなく(実際、暴露話はたくさんあるが)、喪失を経験したあとのつながりと創造についての本である。NEW ORDERというバンドが誕生するきっかけとなった悲劇以来、自分たちの存在意義を探してきた彼らだが、死と成功がいかにしてバンドを定義づけ、破壊したのか、よかったことも辛かったことも記録されている。

『Substance: Inside New Order』は、バンドの歴史を包括しており、誰が読むかによっては、物議を醸すであろう秘話も明かされている。未だに影響力の衰えない伝説のダンス・ロックバンドの脱神話化を試みているのだ。〈ゲロのなかに置き去りにされる〉、〈あいつの時差ボケを治すには、経験したことのない大量のコカインが効くとわかった〉などのタイトルがつけられた章では、NEW ORDERが過ごした退廃的な日々のなかの最良、最低の瞬間だけでなく、バンドの金銭的な問題、フック自身が経験したうつ病、依存症、そして亡き妻であり英国の人気コメディ女優のキャロライン・アハーン(Caroline Aherne)による家庭内暴力についても語られている。

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「実のところ、もしもあいつらが俺抜きの卑怯な再結成なんてしなければ、この本は書かなかったかもしれない」とフック。2007年にNEW ORDERは、フック抜きで再結成し、両者は現在もバンドの権利について裁判で争っている。(ちなみにフックは現在THE LIGHTというバンドで活動している)。「ぶっとんだ内容の本だからね。この本の執筆を構想し始めたとき、謎に包まれたバンドが、実は単なる変装したMÖTLEY CRÜEだった、なんて皆知りたいだろうか、と悩んだくらいだ」

そこには自己憐憫や恨みがあるわけではない。フックは何よりも、まず自らを思う存分笑い、失敗から学ぶ術を知っている男だ。本の冒頭には〈バンドを結成するときやっておくべき10のこと〉というリストも掲載されている。私たちは出版記念イベントのツアーの合間をぬって、フックにインタビューを敢行し、本書の裏話を訊いた。テーマは、八方塞がりが続いていたNEW ORDERの歴史、パンク、政治、JOY DIVISIONファンのラッパー、ヴィンス・ステイプルズ(Vince Staples)にまで及んだ。

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本書に取り組む際、「良い出来事も悪い出来事も全部書く」と決めていたんですか?

もちろん。人生は有意義な授業みたいなもんだ。人生に、何か助けがあるとしたら、それは、他人の経験からしか学べない。だから、俺のたくさんの経験…特に妻から受けた暴力、アルコールとドラッグ依存症、事実をすべて書かなきゃいけない。そう明確に考えていた。苦しい経験だったからこそなんだ。誰かが自分を援助してくれるのであれば、自分にはその援助を受ける価値がある。そして、他人が助けを必要としているときには、自分が彼らにチャンスを与えなくてはいけない。ひどい経験を乗り越えるには、周りからの多くのインスピレーションが必要だった。俺には最悪の経験が2回ある。もし最悪な経験をしている人に働きかけるなら、他にも苦しんでいる人がいるんだ、という事実を教えてあげればいい。

ファンにとっては「まさか」と思ってしまうような出来事の公表に、ためらいはありませんでしたか?

「まさか」と思うヤツはいないんじゃないか? 80年代はそういう時代だった。でも確かに、NEW ORDERの脱神話化を図った面もある。その神話をつくったのは、主に自分たちだ。自分たちの素顔について話すのを拒否していたから、勝手に想像された。そうやって神話ができあがっていったんだ。面白いよ。マスコミっていうのは、例えば活動について話が聞けないと、〈ダークなアート的作品〉とかいって紹介するんだ。事実からはかけ離れているけれど、俺たちにとっては好都合だった。そういう記事を見ては皆で笑ってたよ。俺たちのパブリックイメージは、非常に謎めいていて、激しく、そして間違いなく頭の良いバンド、という感じだった。自分たちの写真をジャケットに載せない、表に出てこないメンバーたち……とかよくいわれていた。むしろイメージを自分たちでつくりあげていたんだろうね。実際は、自分たちでも何をしているかわかっていなかった。「NEW ORDERは、ありふれたバンドだった」なんていうつもりはないが、最高の音楽をつくるなら、自分自身のイメージを築いてから、それを維持するのが簡単なんだ。音楽は常に自分たちの味方でいてくれるからね。

そのイメージづくりは、意図的なものだったのでしょうか? それともバンドが発展していくうえで自然に生まれたのですか? NEW ORDERというバンドは、足場をしっかり固め、バンドの道筋を見極めるのには時間がかかりましたよね。

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なんの迷いもなくなるまでにはかなり時間がかかった。俺たちはイアンについても、JOY DIVISIONについても話をしたくなかった。レコードをリリースするようになってから、トニー・ウィルソン(Tony Wilson、FACTROY RECOORDSの社長)に訊かれたんだ。FACTORYって会社は完全にインディペンデントで、型破りで、狂ってるんじゃないか、と疑いたくなるようなレーベルだったんだが、あいつらは、音楽さえよければ俺たちが何をしようとかまわない、というスタンスだった。俺たちのマネージャーもそういう姿勢だったんだ。だから「これについて話したい?」と訊かれたときに、「ノー」と答えたら「わかった」で終わったよ。そんな感じだったんだ。だから何年もインタビューは受けなかったね。でも今となってはかなりインタビューを受けているから、どうして俺が昔は取材を受けなかったのかわからない、と皆思うだろう。まぁ、そのおかげで今は生きやすくなったよ。当時は何をやっているかについて、適当な返事さえする必要がなかった。実際、コンセプトとかについての話し合いすら、ほとんどしてなかった。計画なんて立てなかった。自然にやっていただけなんだ。だから悲しいくらい、話すことなんてなかったんだよ。しかも俺たちは若かった。音楽をつくってる若いやつらで、曲の意味について話したがるやつなんて、そうそういないんじゃないかな。違うか?

どうでしょうか…。確かに、この時代のなかで、当時のNEW ORDERのような活動をするのは想像できないですね。今は皆、自分について語りたがります。SNSのせいですね。謎に包まれた新しいバンドが出てきても、全てが公開され、神秘的なものなどなにもない。そういう現在の環境に対するアンチテーゼのみでしか、神秘性は存在しないのではないでしょうか。

俺は幸運だ。だってもう60歳なんだから。今の新人アーティストが普通にやっている経験を、俺もしなきゃいけない日が来ないよう願っているよ。当時はレコードを売っていた。皆がどう考えているかは知らないが、俺は全部無料で公開するなんてとてもじゃないけど無理だ。売るためのものと同じ時間をかけて、同じように音楽はつくられているんだ。そして誰もが知ってのとおり、人生においていちばん大切なものは時間なんだ。

この本について、メンバーからの警告などはありませんでしたか? 内容について、彼らの了承を得るという法的な義務などはなかったんでしょうか?

まあ裁判をしているから、内容はかなりチェックされたよ。彼らが指摘した法的文書は、見たこともないくらいの厚さだった。350ページだ。大変だったな。イギリスの名誉棄損法、プライバシー法は、不利な部分を否認できるといった点で、今や世界から羨望の的になっている。ただ残念ながら、それは著者にとってはいい法律といえない。こちら我慢しなきゃいけないんだ。おかしいよな。俺は中立的な姿勢で、事実に基づいて本を書いた。だけどそれが、いろいろな解釈をされる。君の解釈もあるだろうし、他の読者は違うとらえ方をするかもしれない。そして弁護士もまた、完全に違う解釈をしたんだ。賠償金を払え、というのが向こうの要求だよ。出版社のもとで本を書くっていうのは、責任逃れではない。世間ではそう考えられているかもしれないが。しかし、自分の書いた内容には責任を持たなきゃいけないんだ。

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今の時点で、どんな反応が返ってきていますか? メンバーや他の人たちからなにかいわれましたか?

快く思わない人たちもいるだろう。裁判のことを考えると、いちばんよくない時期に出版したな、という気もする。でも、とにかくやるべきことをやるだけだ。バーナード・サムナー(Bernard Sumner)に会ったら訊いてみな(笑)。きっと向こうも話したいはずだ。俺のインタビューのあとなら、君も、彼にいろいろ訊きたいだろう。

本書では、バンドの金銭問題についても触れています。こういったタイプの本で、お金の話は省かれたり、曖昧にします。読んでいて楽しい内容でもありません。なぜ、あなたはそれを書いたのですか?

これまでのロックにまつわる書籍には、金の話はほとんど書かれてない。俺はいつも「ふざけんな」って思ってた。金こそ世界でいちばん気になるポイントだろ。俺は、「やつらのライブのギャラはいくらだ?」「このレコードでどれくらい稼いだんだ?」なんていつも気にしている。多くの本では、ほのめかすくらいはしているかもしれないが、絶対に明確な数字は教えてくれない。ジェームズ・コーデン(James Corden)の本『May I Have Your Attention, Please?: The Autobiography』(2011)にはかなりムカついたな。すばらしい成り上がりストーリーなんだけど、成り上がりの程度がわからないんだ。読んでいたら、「で、それでいくらもらったんだ?」って疑問がわく。イライラするんだよ。本をつくるなら、物事を正確に書かなきゃいけない。そしていちばん興味深いのは、ビジネス的にどういう仕組みだったのか、どうなってたんだ、って部分だ。THE BEATLESもTHE ROLLING STONESも、マネージャーがダメにしたっていうのは周知の事実だろう。誰もが、どうやって、どれくらい稼いだか、という事実を開示してこなかった。何を得たのか、何をしたのか、そこが明らかにされていないと、俺はモヤモヤする。全部教えてくれないなんてつまらない。臆病だね。

この本を読んで、多くのミュージシャンがハッとするのではないでしょうか。

だろうね。俺は、今みたいにマネージャーをつけず、自分でビジネスをしていた。アーティストは、マネージメントによってどんどんダメになるのを学んだ。舞い上がっていると気が回らなくなるんだ。有名になって、ちやほやされると、そのせいで未来を考えられなくなる。阻害される。その結果どうなるかというと、スッカラカンになる。リムジンやらスタッフやら照明やら、飛行機で機材を運ぶ運送費やら、ドラッグやら、そういうものに散財したんだ。盛りを過ぎたあとになってマネージャーに電話する。「あのときのお金ってどうなったの?」って尋ねるような全てのミュージシャンのために保護施設を用意してあげたいくらいだよ。まったくおかしな世界だ。俳優なんかも同じなんじゃないか。ちやほやされる全ての人間はそうなる。で、マネージャーは答えるんだ。「ああ、心配しなくていいよ。ほら、酒でも飲んでな。コカインもあるよ」とね。つまり、あいつらがすべてを隠して、見せないようにしているわけだ(笑)。

この10年で音楽業界をとりまく状況は大きく変わりましたが、アーティストにとっては良くなっていますか? それとも悪くなっていますか?

最悪だ。音楽への熱い気持ちがない。拝金主義の大企業が音楽ビジネスを手がけている。80年代、90年代は、レコード会社がバンドと契約する際、忠誠心を示してくれた。そのバンドと仕事をするのは、アーティストとして信頼しているからだった。だからもしファーストアルバムがヒットしなくても、じゃあ次はどうするか、どう動くか、と考えた。それが今では、ヒットが無ければ即クビだ。ミュージシャンには、かなりキツい状況だ。

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本書で描かれている、ライフスタイルと音楽の関係は、JOY DIVISION時代も含まれています。そこには当時のサッチャー政権時代の文化、社会の沈鬱な様相も反映しています。なんだか、現在の政治状況とよく似ている気もするのですが、当時と現在の政情を、音楽という切り口で比べると、何が見えるでしょうか?

ミュージシャンは、政治に深く参加していくべきなのかどうか、俺はわからない。参加したとしても、結局は政治から離れ、なんだかきまり悪くなるパターンが多い気がする。ミュージシャンとして伝えるべき〈政治〉は、ひとりひとりが実践するべき政治、つまり正しい行動についてだ。他人の面倒をみる、平等、公正、敬意、それを伝えるべきなんだ。普通の政治は政治家に任せておけばいい。

興味深いのは、英国がどん底の時代にパンクが現れた事実だ。当時の英国には革命が必要で、まさにパンクがそれだった。そしてサッチャー時代のあとは、ポストパンクだ。サッチャー時代は全てが輝いていたよ。80年代前半っていうのは、本当に輝かしい日々だった。80年代後半もそうかもしれない。パンク以外の、もうひとつの革命があった。アシッドハウス、マッドチェスターだ。英国にはそれがあった。そのあいだに政治状況は変わった。NEW ORDERは政治的に活動していたと思う。プロモーションもしなかったし、変わっていたからね。誰も理解できなかった。メディアに出る絶好の機会を与えられても、俺たちはそれに乗らなかった。退屈な気がしたからだ。メディアをめちゃくちゃにしたときは嬉しかった(笑)。俺たちの政治姿勢は、何にも頼らないこと。世界に向けて中指を立てていたんだ。実は、観客に対してもそうだった。俺たちはアンコールに応えなかったから、毎回騒動が起きていた。俺たちにとって、アンコールに応えるのはダサかったんだ。

アンコールを拒否して起こったボストンでの騒動についても、本書では触れていますね。

騒動は毎回起こっていた。笑えるのは、俺に詰め寄ってくるヤツらの「二度とこの街でライブすんな」っていうセリフだ。だから俺は、ロサンゼルス、ボストン、アテネ、東京、ニューヨーク、どこでもライブできないんだ。俺が二度と行っちゃいけない都市のリストは相当長い。最高だ。でも俺は、信念を守るべく行動するだけだ。あれは闘争だった。当時のイギリスで、パンクの渦中で生きるには、暴力や攻撃を避けて通れなかった。ミュージシャンとして、あまりにも強烈な事態に耐えなければならなかった。でもそれで自分の殻が強くなった。かなりタフな状況だったから、自分もタフにならざるをえなかった。どうするべきかわかっていたんだ。

今は観客もすごく穏やかで、行儀がいい。まさに中流階級だ。文字どおり、なにをしても大丈夫だ。マンチェスターでTHE KILLERSのライブを観たんだけど、ボーカルのブランドン(・フラワーズ、Brandon Flowers)の声が出ないからって、演奏を中断したんだ。観客はかなりイライラしてた。そこに誰かが現れて、ブランドンは体調不良だと発表し、結局コンサートは中止になった。俺はそこで、「よっしゃー、壊せ! やれ! 火をつけろ!」って盛り上がったんだけど、観客は「それは大変だ。大事じゃないといいけど。ああー、心配だなあ」という雰囲気になってた。うそだろ、マジかよ、ロックンロールはどうなってるんだ、昔みたいな騒ぎは起きないのか、もう期待しちゃいけないのか。残念だったよ。

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そのような状況は、なにを意味しているのでしょうか? あなたの音楽は、パンクという行動を通して、もしくはその後の享楽主義的な暴飲暴食生活を通して、常に〈何かに対して〉でした。ドナルド・トランプ(Donald Trump)時代を迎えて、音楽は現実逃避、あるいは対抗手段として発展するのでしょうか?

なにかしらの避難場所は必要になるだろう(笑)。難しいな。なにに影響されているかなんてはっきりわからない。でも気づいてないところできっと、なにかしらの影響を受けているんだろう。SEX PISTOLSを観てバンドを組んだJOY DIVISIONは、何かに突き動かされたんだ。勝ち目もないのに、身体をひきずって世界中を周り、そして成功した。それってかなり強いメッセージじゃないか。どうなるかわからない状況でも、自分の行動や発言に対して強い信念がある、そんなスタイルを示しているんじゃないか? だから、それ自体が政治的姿勢だろう。

君のいうとおり、俺はパンクにのめりこんだ。20歳、つまり、10代を終えたとき、俺は自分がなにをしたいのかわからなかった。俺がどうすべきかなんて、誰も教えてくれなかった。怖かったし、失望していた。だから〈反抗〉こそが、いちばん手っ取り早かったんだ。ステージのジョニー・ロットンは、そこにいる全員に対して「くたばれ」という言葉を吐いた。彼を好きになった理由はそこだ。LED ZEPPELINはそんな発言しなかった。DEEP PURPLEだって、「お前らは、今までで最高のオーディエンスだ」っていってた。前日も翌日も絶対同じセリフをいっていたはずだ。でもジョニー・ロットンは、観客たちを〈ろくでなし〉呼ばわりして、俺たちがいかにクソ野郎かって声にしたんだ。俺たちは、「すげえ! 俺たちと同じようなこといってる!」って興奮した。そのギグのあと、俺たちはミュージシャンになろうと決めたんだが、当時の俺はおかしな状況にいた。実は既にあるバンドに所属していたんだけど、楽器は持ってなかったし、演奏したこともなかった。なんだったんだろうな。

今でも音楽は、かつてのパンクと同じような反応を得られるでしょうか? 音楽の未来はどうなるでしょうか?

おかしな話だが、俺は自分の音楽的キャリアをここらで終わらせて、若いやつらに道を譲るべきだろう、とも考えて始めている。音楽をやっている若者は腐るほどいる。俺が音楽を始めた頃は、ミュージシャンになるっていうのは、ジプシーと同じものだと捉えられていた。たとえばバンをレンタルするにしても、ミュージシャンはダメだった。行商人もダメだったし、ジプシーもアイルランド人もダメ。イギリスはそんな感じだったんだ。ミュージシャンの社会的地位は、とんでもなく低かった。でも今では各地に音楽学校があり、DJやり方や、演奏方法、更にミュージシャンとしてどうふるまうべきか、そこまで教えてくれる。マネージャーになるにはどうしたらいいのか、ローディーになるにはどうしたらいいのか、そこまで教えている。たまったもんじゃない。音楽の道を目指す若者は、そんな学校に入り、楽しく毎日を過ごしている。でも音楽っていうのは、必要なときに必要なものをあてはめるようなもんじゃない。教えられるものじゃない。音楽を〈勉強しよう〉なんて考えは間違いだ。

過去の音楽を継承している若者が「過去の遺物なんていらない」なんて発言してるのを聞くと、笑わずにはいられない。確かに退屈な音楽かもしれない。彼らは生まれてさえもいなかったんだ。だけど、過去の遺物を駆逐したいのであれば、自ら立ち上がって創るしかないんだ。俺たちもそうやってきた。俺はちょうどいい時期、いい場所にいた。幸運だった。俺たちは、世界の軌道を変えるようないくつかの音楽的革命を経験してきた。文化的にも、音楽的にも、世界を変えたんだ。たまにこう考える。「俺は正しい行動をしてきたよな」とね。誰にも異論はないだろう。この20年、25年、30年、パンクにおける全ての歴史的な瞬間に、文字どおり俺は立ち会った。違う41年か。やばいな。俺たちが誰かの刺激となっていたならいいよね。若者たちの刺激になる存在、「こんなクソ音楽、ぶっ壊してやる!」って、若者にいわせてしまうような存在だ。そういうバンドであるべきだ。皆に、「こんなのぶっ壊す」っていわせて、彼らを行動に駆り立てるべきだ。だから俺は、THE 1975のようなバンドが好きなんだ。マット(マシュー・ヒーリー、Matthew Healy)は友人だ。近くに住んでる。あいつらはすばらしいバンドだよ。彼らの音楽活動には、興味をそそる何かがある。普通のバンドとは違う。ライブだって普通のバンドとは違う。好きになるに決まってるさ。

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〈普通のバンド〉とはどんなバンドでしょう?

普通のバンドは、サビがあってブリッジがあるようなやつだ。しかし、THE 1975にはグルーヴがある。非常に効果的なグルーヴだ。彼らの2ndアルバムを聴いたとき、俺は本当に感心した。1stよりも、いろんな意味で秀でている。1stを超えるのはかなり難しいんだ。リスクを選ぶミュージシャン、チャンスをモノにするミュージシャンもいるわけだ。マットのステージパフォーマンスもすばらしい。評価されるだけのモノをもってるアーティストだね。だから俺は、マットが10年後、マネージャーに電話して、「あのときのお金ってどうなった?」って訊かなくていいように願っている(笑)。でも彼もご多分に漏れずそうなるだろうけどね。

先ほどあなたは、これまでに経験したさまざまな音楽的・文化的革命について言及しましたが、現在、「そんなの必要なの?」と考える人たちもいます。どうですか? この意見に賛成ですか?

FACT0RYやHACIENDA、そして、俺たちの活動は唯一無二だ。ひとつの街を16年も、自分たちの資金だけで楽しませてきた人間なんて他にいない。こういった活動に参加していた連中は、それだけ稼いでもいたんだ。俺たちは、イギリスのマンチェスターという街で、音楽のムーブメントをつくりあげ、そしてまた別の文化的ムーブメントも築いた。それはバンドの〈解放〉だった。なぜならパンクもポストパンクも、他に行くところがなかったからだ。ちょうどディスコが登場した時期だった。それは真面目でスマートな文化だった。当時、俺たちみたいなやつには居場所がなかったんだ。普通じゃないヤツには居場所がなかった。ディスコに通うヤツらなんかは、まさに普通だった。だから、自分たちで何とかしよう、って始めたんだ。俺たちが楽しめるクラブがなかったから、自分たちでつくった。今思えば非常に急進的だ。今ではこの世界で行動を起こすひとつのモデルみたいになっている。しかし、経済的にはうまくいかなかった。なぜなら俺たちはバカだったからだ。理想主義で、ビジネスには向いていなかったんだ。

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両方を兼ね備えた成功者、理想主義者にはなれるとお考えですか?

生き抜くには、理想と現実をすり合わせなければならない。理想主義的で現実を観ない人間は、この世界では生きていけない。自由にできるヤツは最高だよ。確かにそういう連中もいる。たとえばデヴィッド・ボウイ(David Bowie)。彼はやりたいようにやって成功した。危うい時期もあったけど、それをくぐり抜け、崇拝される老紳士、ミュージシャンになった。でも彼は、コカインでハイになりながら、ナチスの黒い制服を着て、ナチス式敬礼をやりながらベルリン中をドライブするようなヤツでもあった。絶対誰かにたしなめられるだろ? すごいと思わないか? 勇気が必要だよ。SEX PISTOLSも、ナチスへの抗議として、ダンサーのジョーダン(Jordan)にナチスの制服を着させたんだけど、結局完全に誤解されてしまった。かなりの勇気が必要だったろうね。

彼らは命も賭けていた。それだけ信念が強かったんだ。確かにニヒリストだし、攻撃的だ。でも、音楽発展の妨げになっているジジィ全員を排除するのが最大の目的だった。今では俺たちが的にされて然るべきジジィだ。だから、かつての自分たちがやりたい放題やらなくてよかったと思ってるよ(笑)。もし当時のジョニー・ロットンや俺が好き放題やっていたら、今はどうなっていただろう? 今の俺みたいなジジイを駆逐しようとしていたんだから。変な気分だよ。でも結局、自分がやっていることが、どれだけ上手くできるかっていうのが答えなんじゃないかな。俺は60歳になる今でも、25歳くらいの連中しかいないようなクラブでDJをやってるし、若いヤツらもそれを楽しんでる。もし、俺が25歳で、DJが60歳だったら、そんなクラブには行かなかっただろう。でもそうやって、勲章を得てきたんだ。その勲章を身につけている。誰も、「あなたはここにいるべきではない」なんていえない。

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なるほど。

俺はいわゆる〈政治的音楽〉と呼ばれるような音楽も聴く。たとえばボブ・ディラン(Bob Dylan)。あれもプロテスト・ミュージックだ。ヒッピーの時代、皆が自由を求めていた時代だ。60年代はそういう時代だった。自由になる。髪を長く伸ばして自由を得る。まあそれは冗談として、そんな時代想像ができるかって話だ。シンガポールとか、髪を長く伸ばしちゃいけない国はまだある。変な話だろ? 今の年齢になって、世界を変えようとはもう考えていない。これまで何度も世界を変えてきたから。だから、今は楽しんでる。自分が達成し、進めてきた現実を、力まずに面白く味わう時期だと考えている。本に話を戻すが、このNEW ORDERの本で書いた現実もすばらしいストーリー、すばらしい経験だ。この本を手に取り、読んだヤツらは、皆、感銘を受けるんじゃないかな。へえ〜、最初はSEX PISTOLSから始まったんだ、それからこんなこと、あんなことが起きたんだ、とね。そうやって誰かにインスピレーションを与えられたら嬉しい。

本の話に戻りますが、家庭内暴力についても書かれていますよね。なぜ語ろうと決断したのですか? 特に男性が、妻からの家庭内暴力を公の場で語るのは珍しいですよね。

まず、これは俺の人生において大きな出来事だった。それに俺の人生において最悪の経験だった。自分が愛した人にそんなことをされたのが本当に苦しかった。そして、それをきっかけに俺はうつ病になり、パニック発作などにも襲われるようになった。確かに男がね、それもイングランド北部出身の男が、このような話をするのは難しい。そんな話はすべでない、と暗黙の了解もある。それに、妻の立場を気遣って話さなかったのも事実だ。彼女はとても人気のある女優だったから、みんな信じないだろうしね。狂言だ、といわれる可能性もあった。この本は計800ページあって、そのなかでいろんな話を書いたけど、妻の件について触れているのは17ページだけだ。でも、英国では、皆、何よりこの話に飛びついた。

当時、俺は助けが必要だった。本当に。何人かが俺に寄り添い、助けてくれた。心から感謝している。この経験について語るのは、男性であろうと、女性であろうと、皆にこの事実を知ってほしい、という願いからだ。この本を出した直後、助けを請いに俺の家の近くまで来た若い女性がいた。俺は「マジか」って感じだった。俺たちは長い時間話をした。できるだけ彼女のためになるようなアドバイスをしたし、彼女が苦しんでいる出来事について、自分の経験から語った。彼女には今でも時々会ってるよ。近くに住んでいるんだ。俺に会いにきたときには、「その節はありがとうございました。今では気分も楽になりました。克服しようと思います」といってくれる。つまり、俺は他人がなにをいおうとどうでもいい。俺は、俺のために書いたんだ。俺の話を知ってもらうために書いた。これが誰かの助けになるように、そんな想いで書いたんだ。

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衝撃もあった。俺に連絡してきた友だちもかなりいたけど、そのなかのひとりがこう話した。「お前が悩んでいたなんて知らなかったよ。実は俺もそうなんだ」とね。驚いたよ。まぁ、この件については、実のところ難しくなかった。いずれ公表する日が来る気がしていたし、俺の人生で重要な位置を占めている出来事だからね。語るべき話だ、というのも気づいてた。アルコール依存症、ドラッグ依存症についてもそうだ。リハビリ施設に入ったときには、俺の人生は終わった、と疑わなかった。でも実際は、俺の人生はそこから始まったんだ。この12年、酒は飲んでない。これほど気分がよい期間はなかったし、自分自身にも満足している。誰もがそうとは限らないだろうが、俺は、施設でたくさんの人たちから刺激をもらった。施設を出るときには、すっかり触発されていた。苦しい闘いだった。俺みたいな元アル中患者と会うときは、いつも喜びを感じるんだ。酒やドラッグに溺れても、それを乗り越えれば、新しい人生が待ってる。そう断言できるんだ。ドラッグのせいで、俺は死にたい、と血迷っていたんだからね。以来、俺は最高の人生を送っている。おかしな話だ。結局それも、人々に刺激を与えられる、っていう事実に尽きる。

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それまでは、話したくなかったのですか?

いや、単に機会がなかっただけだ。インタビューで訊かれれば、話していた。あともうひとつ、いいたいことがある。英国では、大勢がリハビリ施設に入っているのは周知の事実だけど、リハビリの何たるかを、元患者は決して語らない。それが俺にとっては衝撃だった。だから俺は、それについても書きたかったんだ。確かに俺たちは最悪な状態だった。文字通り底辺の生活を送ってた。それを克服して、脱するなんてできるわけない。シラフでいるのは困難だった。シラフでいるには、世界はあまりにも自分に厳しすぎた。俺はそう勘違いしていた。酒が飲めなくなったら、俺にはなにも残らないとね。でも実際は、何もなくならなかった。更に不思議なことに、音楽に対する情熱も蘇ってきた。酒を飲み始めた頃は音楽が大好きだった。金はなかったが。当時の俺の音楽への想いの強さは、誰にも想像できないかもしれない。そして、自分の音楽的キャリアを築くために世界と闘った。しかし、周りの連中から金、ドラッグ、アルコールなんかを与えられるようになって、情熱を失った。それで俺はダメになったんだ。で、今度は突然、全てを取り上げられた。それからまた突然、音楽への激しい情熱がよみがえってきた。「え!」って感じだったよ(笑) マジですばらしい気分だ。あんなクソみたいなモノ必要なかったんだ。罠に嵌っていたようなもんだ。ミュージシャンが嵌るお決まりの罠だ。でも今じゃ、ミュージシャンこそ酒を飲まない。ウケるよ。俺も飲まないし、ジョニー・ロットンもTHE STONE ROSESのイアン・ブラウン(Ian Brown)も飲まない。

音楽の世界では、依存症じゃない方が逆にタブーだったりしますよね。依存症にまつわるロマンティズムだったり、メンタルに問題を抱えているのが〈良し〉とされる。でも現在、そんな風潮はなくなったようです。

弱さの露われ、と捉えられている。俺はパニック発作に苦しんでる。実は、今回のNEW ORDERとの裁判のおかげで、また発作が始まったんだ。お礼をいいたいね。でもそれは、人生のなかでどうにか対処しなきゃいけないことのひとつだ。自ら命を絶しかない、と思い詰めたイアン・カーティスみたいな悲しい最期は迎えたくない。多くの友人たちのような悲しい最期を迎えたくない。実はこの1カ月で、友人がふたりも自殺している。俺はそうなりたくない。どんな理由があろうとも、日々、自らを奮い立たせて、なんとかやっていきたい。それってかなり大変な闘争なんだよ。この本には、いろんなストーリーが興味深く書かれているかもしれないけど、それだけじゃなくて、俺みたいな状況のなかで苦しんでいるヤツが読んで、なるほど、助けがあるんだな、と気づいてくれたら嬉しい。

ところでヴィンス・ステープルス(Vince Staples)は好きですか?

誰? バンド? チェックしてみる。米国人? 英国人?

米国のラッパーで、ロサンゼルス・ロングビーチの出身です。彼はJOY DIVISIONの影響を受けていると公言し、アルバム『Summertime ‘06』(2015)のアートワークは、JOY DIVISIONのアルバム『Unknown Pleasures』(1979)を参照したものなんです。ですから、あなたも知っているかなと気になりまして。

家に帰ったらすぐに聴くよ。不思議なんだけど、ちょうど今ラップにハマってるんだ。娘がiTunesアカウントをもっていて、彼女の音楽が俺のところに表示されるから、ランニングするときには彼女のリストを聴いてるんだ。ドレイク(Drake)や50セント(50 Cent)、フロー・ライダー(Flo Rida)とかその辺りだね。もちろんカニエ・ウエスト(Kanye West)も。俺のお気に入りは、マックルモア&ライアン・ルイス(MACKEMORE & RYAN LEWIS)だ。俺も、ラップが好きだ、ってくらい成長した訳だ。ラップは、アート・フォームとして過小評価されている。シンプルに見えるからだろう。しかし実際は、うまくやろうとすると相当難しい。そのなかで秀でるのもかなり難しい。ラップ人口は相当多いからな。とにかく彼をチェックしてみるよ。

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PETER HOOK & THE LIGHT 今秋来日決定!
お問い合わせ : 英国音楽/VINYL JAPAN 03-3365-0910