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自分の母がアリス・クーパーの熱狂的なファンだということは、以前からわかっていた。幼少期、友だちの母親は、ロッド・スチュワートのかすれた甘い声をレコードプレイヤーで聴き、クリフ・リチャードの最新カレンダーをキッチンに飾っていた。しかし、私の母は、蛇を抱いてレザーに身を包んだクーパーがプリントされたキャンバス地のショッピングバッグで、食品売り場をウロついていた。アリス・クーパーでは飽き足らず、ジャック・スパロウの冒険活劇のブーツや髭面、ラッセル・ブランドのルネサンス風のベスト姿や力強い語り口にも、彼女はのぼせていた。とっぽい男性への愛情は、長年かけて変遷した。しかし、どれも、アリス・クーパーの職人的キャバレー芸がルーツだ。

それだけ長いあいだ愛情を抱きながら、本人を1度も見ていないのが面白い。母は、「『悪夢へようこそ』ツアーは、ロンドンとグラスゴーだけ。ランカスターから行くにはちょっと不便だったから」という。母が最初に買ったクーパーのレコードは、1972年の『スクールズ・アウト』。それ以来、彼は、たくさんの作品をリリースした。スタジオアルバムだけでも、30枚近くある。クーパーは、一貫して創造性を発揮し、ロックンロールの重鎮たちとも共演した。しかし、母は、クーパーの経年劣化を厳しい目で見つめていた。「ついにチャンスが来たのに、もう60近いし、こんなに太っているなんて想像してなかった」

ニューアルバム『パラノーマル』のツアーとして、ロンドンのSSEアリーナでのコンサートが発表されると、チケットを取った。

オカン

SSEアリーナに向かうと、周囲にはクリーパー・シューズを履いたミレニアルズ、ほこりっぽいレザースカート姿のブロンドの古参がタムロしている。外にいた年配の集団から写真を撮るよう頼まれ、そのうちのひとりが「誰かが死んじまう前に急いで頼むよ」と冗談めかす。アリス・クーパーのコンサートにぴったりな、死臭が漂っている。理想のセットリストを尋ねると、母は、すぐさま「ビリオン・ダラー・ベイビーズ」や「アイ・ラヴ・ザ・デッド」…母いわく〈ちょっと陽気な素敵な曲〉…などの定番に加えて、マニアックな曲も並べた。「以前は「ガター・キャット対ジェッツ」が好きだったんだけど、今の私にはちょっと合わないかも。60歳のギャングなんてあまりいないでしょ?」

鼻血が吹き出そうなくらい気持ちの昂まりとともに、観客は開演を待ち構えている。クーパーによるナレーションがアリーナに響き渡る。「アリス・クーパーとの1夜を待ち望んだみなさま、悪夢へようこそ。もう引き返せません。ヤツはそこにいる!」

そして、幕が上がった。初っ端から「ブルータル・プラネット」でカマす。RAMMSTEINのタンツメタルの鉄味のような、耳を突き刺す和音が飛び交う。巨大なスクラップの深みからステージに現れたクーパーは、ピカピカのスパッツを履いていた。手にはいつもの杖がしっかりと握られ、流れる髪はミヤマガラスのように黒い。アシスタントがドレスアップ・ボックスから現れ、2つのドラムセットと赤ちゃんの頭の模型の間を斜めに進み、パンク版〈Jackanory〉かのようなクールなスタッズ付きのベストに、クーパーの衣装を素早くチェンジした。

クーパーは、1986年の『コンストリクター』収録の「ザ・ワールド・ニーズ・ガッツ」で、グラムメタル・スタイルを確立し、『ダーティ・ダイアモンズ』の「ウーマン・オブ・マス・ディストラクション」では、〈ショックロックのロミオ〉としての名声を確固たるものにした。「date」と「castrate」で韻を踏めるアーティストは、そうそういないだろう。アリスは時間をたっぷりとって、ステージの中央から、暗闇にいる大勢のファンを睨め回す。背後には嵐が近づいていた。

長年、クーパーのもとで妖しい響きを奏で続ける〈ハリケーン〉・ニタ・ストラウスが紡ぎ出したのは、我を忘れてしまうほどの壮大なギターソロだ。バンドが「ポイズン」を速いテンポで演奏し始めると、炎の色のスモークが彼女の両脇に立ち上った。この会場にぴったりな、80年代クーパーの定番があるとすれば、それは間違いなくこの曲だ。愛すべき高音ボーカリストの能力が如何なく発揮される。母は卒倒しかけている。会場が大観衆で埋まっているにもかかわらず、その声は、官能的で、彼が耳元で歌っているかのようだった。

クーパーは、階段を大股で昇り、バックステージの暗がりに消えたが、その間も、バンドは、きっちり演奏を続けた。演奏は、徐々に静かになり、ベースとドラムだけが残る。すると、1階席で手拍子が広がり始めた。ステージが暗くなり、ドラマーだけが照らしだされる。琥珀色の光が巨大なドラムセットを包んだ瞬間、観客は、クーパー演芸の世界に引き込まれた。「お前たち、腹が減ってるんだろ。ディナーの時間だ」とスピーカーがガナリ立てると、会場の全員がこれから何が始まるのかを理解した。

「フィード・マイ・フランケンシュタイン」が始まり、巨大な手術台のようなセットがステージに登場した。クーパーは血まみれの白衣を着ている。機械からスモークが吹き出し、半分人間で半分骸骨のような人物が、彼にガスマスクを手渡す。クーパーは扉形の穴からセットの内側に入った。機械からは火花が飛び散る。彼の身が心配になる。もはや、彼が若くないのは、皆さんご存知だろう。「火花の量が多すぎる」といわんばかりに、クーパーが目を2回瞬かせたのがガスマスク越しにわかった。

ヒステックな雰囲気が高まるなか、クーパーは冷静に「オンリー・ウィメン・ブリード」を歌い、聴衆を落ち着かせた。結婚生活で虐待を受ける女性についてのバラードだ。母は私に寄りかかり、「この曲で彼は変わったの」と耳打ちした。現在のアリス・クーパー像を形成した曲であり、実生活とはかけ離れた怪物を演じてもいるハイな〈アリス・クーパー〉からかけ離れた〈本名:ヴィンセント・デイモン・ファーニア〉は、尊敬すべき人物だ。36年間、結婚生活を続け、ほぼ同じ年月、禁酒を貫いている。フランケンシュタインの悪ふざけも納得がいく。

しかし、この曲で気を緩め過ぎてしまったようだ。フードを被ったキャラクターと骸骨がクーパーに突然襲いかかり、彼を追い立てる。「マニアック・イン・ラヴ」の歌詞どおり〈in a straight jacket love(拘束衣の愛)〉に縛られてしまった。

母は椅子にへたり込み、口に手を当てている。しかし、クーパーは歌い続ける。ビニールの衣装を着たナースが、拘束されたクーパーの腕に針を突き刺すと、会場は騒然となる。突然、会場全体がシュールな雰囲気に包まれた。クーパーはトゲトゲしい声で「ここを出ていくぞ」とガナリ立て、悪役に「俺に触るな」と怒鳴った。そして、その勢いと力で解放されたが、それも長くは続かない。骸骨がギロチンのような什器を運び込み、クーパーを鉄の顎にかけようとする。

このとき母は、愕然としていた。彼女は、再び、口に手を当てている。ケバケバしい格好のナースが励ましの言葉を送るよう観衆に促すが、正直、みんなは、クーパーのショーを観たいのだ。ついに、ギロチンの刃が落ち、悪役たちが血まみれの頭を桶から取り出す。バンドの演奏が再開されたが、私の頭には疑問符が浮かんでいた。クーパーが抜け出せるような穴はなかったはずだ。

暗転し、ステージの1ヶ所だけが明るく照らされる。死んだクーパーが復活するのだろうか。ギターのリフが高まり、チャイナ・シンバルが容赦なく叩かれる。ステージが転換され、アリス・クーパー・バンドが紹介される。クーパーが再登場し、オリジナルのメンバー、チャック・ギャリック、トミー・ヘンリクセン、ライアン・ロキシー、デニス・ダナウェイ、そして〈プラチナゴッド〉ことニール・スミスをステージに迎えた。母にもお馴染みのメンバーだ。母は、『スクールズ・アウト』のジャケットにあしらわれたメンバーのイニシャルのあいだに、彼女の名前を彫り込んでいたほどなのだ。学習机のように開くジャケットには、インク入れも付いている。ステージでは背景セットが『ビリオン・ダラー・ベイビーズ』の ジャケットに変わり、クーパーがステージに戻る。衣装は、煌くゴールドのスーツに変わっている。〈驚異の部屋〉から、串刺しにされた札束を取り出し、金に取りつかれたお偉方のように聴衆に突き出した。

演奏はさらに続く。「ノー・モア・ミスター・ナイス・ガイ」では、クーパーが〈Little old lady〉と歌うのに合わせて母が自らを指していた。壮大なショーの大団円を仄めかすかのように、クーパーは、メンバー紹介を始める。その様は、まるで、リストをチェックするかのようだった。娘のシェリル・クーパーは、ダンサーとして踊っていた。そして、アリス・クーパーを演じていたのは…「俺だ」。そして「おやすみ、そして、恐ろしい悪夢を」と別れを告げる。

憧れには会わないほうがいい、という向きもある。しかし、私は、憧れがギロチンにかけられる姿を目撃することを、強くお勧めしたい。母も同じ意見だ。