「ダウンロードじゃわからない」「ストリーミングじゃわからない」はてさて、なにがわからないのだろうか? それは人からの言葉。RCサクセションもBLACK FLAGもジョン・コルトレーンもBUTTHOLE SURFERSもツェッペリンもMAYHEMもN.W.Aも、みんな誰かの口から聞いた。音楽が好みだったのか、そうじゃなかったのかは置いといて、先輩だったり、クラスのヤツ、好きな異性、おしゃれな友達の言葉があったからこそ、その音楽に出会えた。辿り着けた。周りの大好きなみんなからの言葉だ。

そしてレコード屋も。カウンター越に矢の如く放たれる聞きなれないアーティト名、バンド名、ジャンル名。矢が心のど真ん中に刺さるたび、音楽がどんどん好きになった。ずっとカウンター前を陣取っていた。今考えれば、大迷惑だったろうに。本当にすいません。そう、ダウンロードでもストリーミングでも、レコ屋さんの言葉は聞けやしない。そんなプレイリスト見たことない。だからもう1回、言葉を聞きにいこう。今度は大人の話も。

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第6回は、1937年(昭和12年)創業、荻窪の〈月光社〉。今は亡き、旧・鳥もと本店跡を背に、今は亡き、「突然、バカうま」(by 糸井重里)のラーメン佐久信跡を抜け、今も漂う煮干しと鶏ガラと豚ガラのラーメン春木屋を過ぎたら右に。荻窪で1番高いインテグラルタワーが、「高いところから、いつもすいまへん」なんて、日々低身低頭しているような威厳あふれる店、月光社に辿り着く。赤く輝く〈レコード買入〉の文字は、中央線のみなさんにもガッチリ届いているハズだ。

ジャズ、ロック、歌謡曲など、ほぼオールジャンルを揃えているが、主力アイテムはクラシック。それもかなり安い。春木屋のちゃーしゅーわんたん麺なら、余裕でLP3枚、中華そばでもおつりがもらえるプライスだ。正直いって店内は狭いし、ホームページもない。エサ箱は縦型だから肩痛、首痛も必至。それでも全世界のレコード・ジャンキーたちは、♫ふれあいの街〜、おぎくぼ〜、タウンセブン〜♫ の荻窪に足を運んでいるのだ。

店主の髙橋祐幹氏に話を伺った。

今年で81年目を迎える月光社さんですが、ずっと荻窪でやられているんですか?

いえ、最初は隣の阿佐ヶ谷でして、戦後に荻窪に移りました。元々は、遠い親戚がSP盤の店から始めたのですが、私の父親がいわゆる丁稚奉公みたいなかたちで、北海道から上京し、ここで働き始めたんです。その後、昭和38年頃に、先代が引退することになったので、父がすべてを買い取って、現在に至ります。

ということは、高橋さんは3代目になると?

はい。

高橋さんは、いつこちらに入られたのですか?

大学を卒業して、2年ほどプラプラ遊んで…

遊んでからですか(笑)。

はい。24、5歳くらいからですね。

いずれは、お店を継ごうと考えていたのですか?

そうですね。高校生くらいから、意識はしていました。まぁ、保険みたいな感じで考えていたかもしれません。好きなことをやって、どこかで芽が出ればいいかな、出なかったら家に入ればいいかなって。もうあまちゃんもいいところですよ(笑)。

やはり、小さい頃から音楽に囲まれていましたか?

はい、そうですね。

高橋さんは、現在おいくつですか?

私は51歳です。

その世代ですと、やはり子供の頃は、RCサクセションとかサザンあたりを聴いていたんですか?

僕はねぇ、そっちにいかなかったんですよ(笑)。父は家でクラシックなどを聴いていましたし、母も相当な音楽ジャンキーだったんですね。ですから、テレビで歌謡曲が流れていても、「こういうのは聴かないほうがいい」って。

じゃあ、『ザ・ベストテン』も禁止?

隠れて観ていましたけどね(笑)。まぁ、兄も幼稚園の頃からピアノをやっていましたから、私も普通にクラシックを聴いていました。

でもまわりの同級生は、クラシックなんて聴いていませんよね? ロックだのなんだの。

そうですね。小学校6年生のときにキッスが流行ったので、僕も当然聴き始めたわけです。

「ロックなんて聴くな!」なんて、お父さまに怒られたり?

いえ、ロックはいいんですよ。でもキッスとかディープ・パープルあたりを聴いていると、「こんなのはダメだ。こっちのほうがいい」って、レッド・ツェッペリンのレコードを持ってくるんです。あとはエマーソン・レイク・アンド・パーマーとかルネッサンスとか。

プログレですか!

馬鹿ロックみたいなのは聴いてほしくなかったみたいです(笑)。ストレートな音楽、初期衝動にあふれた音楽、一瞬の血の沸騰…みたいなのは、ダメでした。

〈一瞬の血の沸騰〉って最高です(笑)。

ヨーロピアンロックに代表される、練られたロックだったり、様式美系のロックを薦めていましたね。

じゃあ、パンクなんてもってのほかですよね?

いえ、セックス・ピストルズを聴いていたとき、「音はチープだけど、歌詞はいいね」っていってくれたことがあります。父は、バリバリのクラシック畑なんですけど、若い人たちの言葉とか、行動に対しては、とても理解がある人です。私も「お前は、髪を赤くしろ」っていわれたことがあります(笑)。かといって、法を犯せとか、秩序を乱せっていうことではなく、音楽家、そして芸術家をリスペクトしているんです。僕もそんな父の影響を強く受けました。

でも、中学、高校生なんて、反抗期でもあるじゃないですか? お父さまが認めない音楽とかも聴きたくなりますよね?

はい、ですからそこも隠れて(笑)。他のレコードは、店のものを家に持って帰って、聴いていたんです。まぁ、月光社で万引きしていたわけですね。

うまいですね(笑)。

まぁ、聴いたら返していましたけど(笑)。フリーのレンタルレコードみたいなものです。でも、父に認められていないものは、持って帰れないんですよ。「え、こんな子供ロックを聴くの? こんなセンスなの、君は?」って、父に思われるのが嫌だったんですね。ですから、キッスとかは、友達だったり、それこそレンタルレコードで借りたりしていましたね。

高橋さんは、バンドとかはやっていなかったんですか?

中3からやっていました。ランディ・ローズなんてギタリストがいまして。

はい、オジー・オズボーンの。

クラシック・テイストあふれる奏法をするんですよ。僕は、クラシック・ギターもやっていたので、「このスケールは、クラシックのパクリだ…かっこいい!」なんて。

だったら、高橋さんもバカテクだったのではありませんか? プロになれるような?

いえいえ、プロになる人は最初から違いますよ。指が動くとかじゃない。もう音色が違う。同級生にもっとすごいヤツがいたんです。絶対に敵わないようなヤツ。ですから、プロ・ミュージシャンになろうとは考えもしませんでしたね。

お父様さまのご指導もあって、音楽のエリートコースを歩んでこられた髙橋さんですから、25歳でお店に入られたときは、もう相当お詳しかったのではありませんか? クラシックの知識もたっぷりで。

いえいえ、そんなことはありませんでしたし、今も全然です。もっと詳しいお客さんもいますから。勉強しなくてはならないことはたくさんあります。終わりはありませんね。

入られたのは90年代頭ですよね? それこそレコードからCDへの移行期を迎えていたと思うのですが、月光社さんにも影響はありましたか? 「クラシック・レコードが無くなってしまう」。そんな不安とかは?

それはありませんでした。レコードとCDでは、音がまったく違うわけですから。それにウチはSP盤からスタートしていて、現在もSP盤を扱っています。それこそ、今も売れていますし、買取もあるんです。確実にSP盤にも需要があるんですよ。LP化されていないSP盤もありますしね。

CD化どころか、LP化されていないものがあるんですか?

たくさんありますよ。そして、そういう隙間を楽しんでらっしゃるお客さまもたくさんいらっしゃるんです。ですからCDが出たときも、レコードが無くなる、人気が落ちる、なんて心配はありませんでしたね。

では、現在もクラシック・レコードのファンのかたは、たくさんいらっしゃると。

はい。

お値段は全体的にどうなんですか? 

二極化しているといっていいでしょう。ジャズもそうなんですけど、初版盤が尊重されていますね。逆に、2版や3版などの値段は、かなり落ち着いています。ですから、初版を追っかけなくてもいいかたは、バンバン聴ける状況なんです。クラシックの入門には良い時期ですね。安いレコードをたくさん買って、そのなかで気に入ったものがあれば、初版を購入すればいいと思いますよ。そこで本来の音を楽しめばいいんです。

え? 本来の音ですか? 初版盤は音が違うんですか?

はい、初版とそれ以降のものは違うんです。

どういうことですか? リマスターされているとか?

まず、レコード盤の素材が違います。そして、そのときのカッティング・エンジニアによっても、音が変わる。最内周まで溝が切ってあるとか。

最内周?

レコードの後半部分のことですね。そこまでいっちゃうと音が歪むので、B面に移しているものもあります。更にいうと、プレスした国によっても変わってきます。例えば、〈ドイツ・グラモフォン〉というクラシック・レーベルがあるんですけど、この日本盤レコードはマスターテープをドイツから輸入しているわけではなくて、そのダビングしたものをプレスしているわけです。ワンクッションあるので、確実に音が変わってしまうんです。

ということは、完全オリジナルの初版は、1種類しか存在しないということですか?

そうです。各国の初版でも音が違うんです。で、みなさん、なんでオリジナルの初版が欲しいかというと、それが1番現場の音に近いからなんですね。録音したエンジニアは、その場に立ち会っているわけですし、それを元にカッティングとプレスをしている。いっぽう、各国の初版の場合、ダビングされた音を元にカッティング以降の作業をしているので、オリジナルの音を聴いていないんですよね。どこかに「こんな感じだろう」という勝手なイメージが存在してしまうんです。

月光社さんにも、そんな高価な初版盤が回ってくるんですか?

はい。ただウチは、オリジナルばかりを扱っている店ではありません。そんなのは関係なくて、2版や3版を安く店に出して、気軽に楽しんでもらいたいと考えています。

たしかに月光社さんのレコードは安いです。5〜600円当たり前。1000円以上すら、あまりお目にかかれません。

はい、ウチは安いです。例えば、神田とかお茶の水でしたら、何件もレコード屋さんがあるじゃないですか。ハシゴができるわけです。でも荻窪はウチ1件だけ。せっかく電車賃を払ってここまで来てくださったのですから、神田、お茶の水価格よりは安くしています。それに僕、高いレコード嫌い。

そうなんですか?

もちろん定価以上の値段をつけているレコードもありますけど、やっぱりたくさん聴いてもらいたいんですよね。結局、金を持ってるヤツの勝ちになっちゃうでしょ。それだけだったら、本当に面倒臭い世界ですよ(笑)。

お店に並んでいる商品は、やはりお客さまからの買取が中心ですか?

はい。店頭での買取もありますし、出張買取もします。いちおう電話で、どんなジャンルのレコードを持ってらっしゃるのかを確認するんですけど、「60年代の英国盤ばかりなんです」なんていわれたら、ヨダレをダラダラ垂らしながら向かいます(笑)。

(笑)。でも月光社さんは、お店のホームページをお持ちではありませんよね。ほとんど他のお店は、大々的にホームページで〈高価買取!〉なんて、告知をしていますが、月光社さんはどうされているのですか?

ウチはタウンページに載せています。あとは、やはり口コミですね。

でも、それだと買取の範囲も狭まってしまうのではありませんか?

いえ、それがそうでもないんですよ。それにインターネット以前の話なんですけど、ある音楽雑誌に買取の広告を出していたんです。でもそうすると、北海道とか沖縄などからも依頼があるんですね。さすがにそこまでは行けませんでしたし、更にこれがインターネットになってしまうと、世界を相手にしなくてはならない。でもタウンページなら、杉並、世田谷、中野、新宿、練馬くらいまでですし、口コミでも千葉くらいまでなら行きますしね。それにクラシックは、他のお店だと断られるパターンも多いので、ウチにお持ちになられるかたは多いんです。それで十分なんですよ。

では、通販はされていますか? ホームページをお持ちではないので、どこかのショップサイトに出品されているとか?

いえ、通販もやっておりません。これもインターネット以前の話なんですけど、電話やWANT LISTなどから注文を受けて、通販をやっていた時期もあるんです。ただ、ちょっとトラブルが多かったんですね。店頭販売なら、その場で盤質などの商品確認ができるんですけど、通販だとそれが不可能になります。同じタイトルのレコードはたくさんありますけど、それが中古盤となると、完全に1点モノになりますから、通販だと伝わらない部分が出てきてしまうんです。ですからウチは、店頭で確認していただいて、その場で販売するようにしています。

では、売り場はここだけですか? 催事に出店されたりとかは?

それもありません。百貨店さんなどからお話はいただくんですけど、どうしても経費がかかってしまいますからね。その分、安くして、店に出すようにしています。しかし、まぁ、ウチはなにもやっていませんねぇ(笑)。行動力がない。

いえいえ(笑)。

こっそり、こっそり、やっているんですよ(笑)。

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