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キ印レーベル 〈AMPHETAMINE REPTILE RECORDS〉を振り返る

現在もシーンで狂走を続ける米国産地下モンスターたち。

SUB POPとAMPHETAMINE REPTILE。阪神と巨人、もしくは「東のX」「西のCOLOR」ってな感じでしたね、当時は。SUB POPのTシャツ着てるヤツがいれば、「オレはAMPHETAMINE!」って競ってみたり、「NIRVANA?いやいやCOWSでしょ!」って強がってみたり。でも実際はライバル関係って訳でもなく、お互いバンドが行き交ってシーンを盛り上げておりました。どっちかと言うとSUB POPは優等生タイプ。それに対してAMPHETAMINEは完全に席後ろグループ。授業中にカップ麺食って、そのオイニーで迷惑をかけるヤツらですね。キ印だらけのジャンク・レーベルなのです。

AMPHETAMINE REPTILE RECORDS(AmRep)の拠点はミネソタ州ミネアポリス。パンク・ムーヴメンに感化されたトム・ヘイゼルマイヤーによって1986年に設立されたのですが、当時彼はアメリカ海軍に所属しており、シアトル周辺に配属されていたため、スタートはミネアポリスではありませんでした。彼はHALO OF FLIESというバンドもやっており、既に有名だったDISCHORDやTOUCH&GOなど様々なレーベルに音源を送ってはみたものの見事に断られ続け、「じゃあ自分で!」とレーベルを開始。そんな訳で記念すべき一発目のリリースはHALO OF FLIESのデビュー・シングル「Rubber Room」となります。ちなみに、自分のバンドの作品をリリースする為に、レーベルを始めるこの手のパターンは当時めちゃくちゃ多かったです。そして「俺たちもの出してよー」のこれまた良くあるパターンで、知り合いのリリースも開始。MUDHONEYの前身バンドであるTHE THROWN UPSやU-MEN(トムも一時期参加)といったシアトル・バンドを輩出。こうしてミネアポリスとシアトルのネットワークは自然に形成されたのでした。そんな状況を顕著に表していたのが1988年から始まった7インチのシングル・シリーズ「DOPE-GUNS-N-FUCKING IN THE STREETS」。そのVol.1には、U-MEN、THE THROWN-UPS、HALO OF FLIES、そしてMUDHONEYが参加しており、正にグランジ・ムーヴメント前夜の状況がココに。ちなみにこの「DOPE-GUNS-N-FUCKING IN THE STREETS」はVol.12まで続き、AmRepの代名詞的シリーズにまで成長。MELVINS、HELMET、SURGERY、COWS、TAD、JESUS LIZARD、UNSANE、SUPERCHUNK、JAWBOX、TODAY IS THE DAY、ROCKET FROM THE CRYPT、そしてBOREDOMSなどが、レーベルの垣根を越えて参加。全て限定7インチというコレクターにとってはたまらんフォーマットも相俟って、世界各国で争奪戦が繰り広げられたのでした。

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そして89年にホームタウンのミネアポリスに戻ったトムは、積極的にレーベル活動を進めて行きます。COWS、SURGERY、BOSS HOG、TARなどのアルバム・リリースも開始。更に90年代に入るとオルタナ~グランジ・ブームの到来により、AmRepも一気に大注目株レーベルへと成長。そんでもってダメ推しドーン!でHELMETが登場。ゴールド・ディスクにも輝いて、AmRepはウハウハ状態になったのでした。

しかし、ココからがSUB POP やMATADORなんかと違うところ。オルタナ・ブームの影響により、メジャーからの引き抜きが相次いでいた時代。もちろん魔の手はAmRepにも及んだのですが、商売ベタなのか、冷めていたのか、トムは主要バンドであったHELMET、SURGERY、BOSS HOG辺りを「どうぞ~」ってお見送り。他にもTARはTOUCH&GOへ、GOD BULLIESはALTERNATIVE TENTACLESへと移籍してしまいます。「そして変態(COWS)しかいなくなった」状態のAmRepでしたが、トムはそれを嘲笑うかのように新鋭バンドのシングル・シリーズ「Research and Development(調査して開発)」をスタート。HAMMERHEAD、THE CROWS、CHOKEBOREなどをDevelopmentし、アルバム・リリースに繋げて行きました。そしてスターも誕生!スティーヴ・オースティン率いるTODAY IS THE DAYがデビュー!更にはメジャーを離脱したジャンク帝王UNSANEもやって来てアルバムをリリース!そんでもってダメ押しでMELVINS祭りもスタート!SNIVLEM名義でインチキ・アルバムを出したり、1996年1月から12月にかけては、限定シングルを毎月出したりと、AmRepは「NOISE ROCK」レーベルのチャンピオンとして何度も防衛を果たして来たのです。しかし1997年辺りからリリース数が少なくなり、同時に作品の再プレスを停止。誰もがそれを閉店のお知らせと捉え、AmRepの終焉を感じたのでした。

ところがどっこい、こっからがスゴかった!トムは完全にAmRepを自分のデッカい玩具にして走り出します。2000年には記念すべきシングル・リリース100番目にまたもやMELVINSを登場させるのですが、これが限定200枚!その後も300とか250とか500とか多くても1000枚限定でシングルをリリース。それもディストリビューターを通さないで自身でさばいて行きます。

また彼は、元々CoopやKOZIK、Derek Hessなどのイラストレーターと交流があり、自身もAmRep作品のジャケの多くを手掛けておりました。そして現在もPrintmaker(版画家)~デザイナ―の“Haze XXL”として活動しており、作品の展示やフィギュア制作、ジッポ・ライターのプロデュースまで行なっております。その手腕はもちろんAmRepの作品にまで及んでおり、ハンドメイド・ジャケットはもちろんのこと、限定100セットで木製ボックス・レコードとか、ボックスCDとか、シルクスクリーンポスターとか、書籍とかを作りまくり。完全にお楽しみの世界へ突入してるんですね。そしてそれらのリリースがほとんどMELVINS(笑)。現在もシーンのトップに君臨しているMELVINSですが、悪ふざけ部門はAmRepに任せている感じですね。

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あと忘れてならないのがHALO OF FLIESの復活。H・O・Fと名乗って、こちらも限定盤をバンバンリリース。でもこれも悪ふざけに近いかな、「セミ再結成」とか訳分からないノリ。で、音の方もHALO OF FLIESを軽く越えた最高のジャンクやってます。

そんなノリにHELMET、UNSANE、COWS、REDD KROSS、GRANT HART(ex HÜSKER DÜ)、BOSS HOGなど大御所たちが再集結。MELVINS同様、AmRepで限定盤出したりして楽しんじゃってるのでした。

要するにトム・ヘイゼルマイヤーは、AmRepをスタートした時点に戻った訳です。シコシコとフライヤー作ったり、ジャケット描いたり、バンドと交流したり。今が楽しくてしようがない!だからAmRepのバックカタログの再発にも全く興味がないそうなのです。そんな彼の軌跡は、「THE COLOR OF NOISE」というドキュメンタリー映画にもなってしまいました。

先に述べた通り、版画家~デザイナーとしての活動はもちろん、現在はレストランまで経営しちゃってるトム。ちょっと小太りになったジャンクの王様は、インクとハンバーガーとMELVINSに包まれ、毎日を幸せに過ごしているのでしたッ!!

§

続いて主要作品をご紹介!!

HALO OF FLIES / Music for Insect Minds(1991)

デビュー・シングル「Rubber Room」も収録。彼らの歴史がパーフェクトに分かるコンピレーション・アルバム。初期シングルは限定200とか300枚しかプレスされてなかったんで、西新宿のレコ屋でも高値で売買されてましたねー。セール初日には行列が出来たりしてねー。スゴイ時代だったなぁ。基本的にはガレージ・パンクなんですけど、バンド名通り五月蝿いです。それも耳の回りでブンブン鳴ってる感じのウザいヤツ。やっぱノイズロックではなくてジャンクロックがぴったり。

HELMET / Strap It On (1990)

AmRep最大のヒット作。1989年にニューヨークで結成された「メッチン」のファースト・アルバム。ジョリジョリに切り裂かれるギター・リフと、タイトでありながら斧の如く薙ぎ落とされるビート(ドラムは現BATTLESのジョン・ステイナー)は正に轟音。重戦車がフリーウェイを突っ走っている感じです。今作発表後にメジャー移籍するのですが、同時にこのファーストの権利もメジャーに譲ってしまったトムの潔さは、HELMETよりある意味切れ味抜群。解散→再結成を経て、現在ものんびりやってます。

TAR / Roundhouse (1990)

シカゴ出身。AmRepにしてはクセが無くてストレートな感じ。80年代後半からのオルタネイティヴ・カレッジ・ロックの流れ。いぶし銀。今作はミニに続くファースト・アルバム。…ってな訳でスティーヴ・アルビニ~BIG BLACK、JESUS LIZARDスメル高し。スメル高くてスルメなアルバム。聞き込めば聞き込むほど味が出る。地の味なんですけどね。ただこの等身大な感じでノイズ・ギターかましているところが、USインディーのダサかっちょいいところ。その後TOUCH&GOに移籍しましたが、結局スターになれなかったところも好感持てます。

COWS / Peacetika(1991)

やっぱAmRepの代表選手じゃないですかね。アホバカキ印。来日公演(新宿アンチノック!)では、前評判通り逆立ちして大喝采されてましたっけ。87年にミネアポリスにて結成。パンクとカントリーとブルースを奇声とノイズまみれにさせたジャンク・ミュージック。この4作目のオープニング・ナンバーはちょっぴりクラブヒッツにもなって「馬鹿ーッ!馬鹿ーッ!」ってシンガロングされてました。トムのレストラン「Grumpy's」にて昨年復活ライヴを!この夏もTHE COWZとして何発かやるようですよ。

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BOSS HOG / Drinkin' Lechin' & Lyin' (1989)

これは血眼になって探しましたねぇ。当時出回っていたのはドイツ盤で、クリスティーナの大事な部分は削られておったので。PUSSY GALORE解散後、ジョン・スペンサーが美形奥様と始めたバンドのファースト。無修正アメリカ盤をゲットしたときの嬉しさと言ったら!ほとんどエロ本探しと同じでしたね。音はお得意のジャンク・ガレージ。そこに夫婦漫才の如くジョンスペとクリちゃんの掛け合いが入るという。この次の作品まではカッチョ良かったんですが、ジョンスペ人気に乗っかりメジャーデビューしてからは、もうネタみたいで残念でした。ロンリー・チャップリンみたいな感じ?現在クリスティーナはFacebookで「1,000いいね!」を目指して頑張ってます。

SURGERY / Nationwide (1991)

AmRepの中では一番まともな存在だったのではないでしょうか。長髪振り乱し系のルックスもスマートだったし、音もブルースを骨太にしたような正統派グランジ・スタイル。このファースト・アルバムでもドライヴィンでグルーヴィンなロッキンをかましています。NIRVANAの影響もあって94年にメジャー・デビューを果たしますが、翌年にヴォーカルの喘息が悪化してお亡くなりに。いいバンドだっただけに本当に残念でした。

UNSANE / Scattered, Smothered & Covered(1995)

ニューヨークが生んだノイズジャンクの最高峰。元々は今をときめくMATADORに所属していました。で、今となっては信じ難いのですが、初期のMATADORってジャンキー多かったんですよー。DUSTDEVILSとかH.P.ZINKERとか。で、UNSANEもそのチームだったんですが、MATADORがメジャーのATLANTICと提携したら、やっぱアルバム一枚だけで切られちゃった。ま、この音でメジャーってのも気色悪いですが。そこで手を差し伸べたのが我等がAmRep。今作はサードにして最高傑作でしょう。ジョリッジョリのノイズ・ギターとガッチガチのビート。ヴォーカルも絶叫系です。ジャケも本当によろしくないですね。大好き!

HELIOS CREED / Boxing the Clown(1990)

AmRepの中では珍しくキャリアのある方。なんたって70年代後半から活動していたLAのポストパンク~ニューウェイヴ~インダストリアル・バンドCHROMEのギタリスト様なのだからー。しかしいくら重鎮っても変態はAmRepに集まって来る。このソロ4作目でもスティーヴィー・ワンダーやジミ・ヘンドリックスの名曲をぶっ壊したり、BUTTHOLE SURFERS級の珍曲を披露。そして何と言ってもやはりこのギターワーク。電気ビリビリ過ぎです。更に全体的に溢れるチープなスペーシーさもたまらん。ボロボロのUFOがビームを出すときのBGMにピッタリです。レイ・ウォシャム(SCRATCH ACID、RAPEMANetc)が頑張ってドラム叩いてます。

MELVINS / Singles 1-12 (1996)

現在はお互いを玩具にしあってるAmRep とMELVINS。その序章とでもいいましょうか。1996年1月から12月にかけて、毎月リリースされたシングル・シリーズをまとめて2CDでリリース。オリジナル・シングルはそれぞれ限定800枚しかプレスされなかったので、ゲット出来なかった方には嬉しいパック盤ですね。GERMSやFLIPPERのカバーとか、デモ、ライヴ、リミックスなどなどお宝がザックリ。でもココからMELVINS入っちゃいけません。たっぷりと遊んでますからね。ついでにAmRepから出ている「SNIVLEM」名義のアルバム『PRICK』(1994)はもっと手を出してはいけません。お客さんの声とか無音とかの作品なんで。

TODAY IS THE DAY / Today Is The Day(1996)

メジャーの魔の手に荒らされ始めたAmRepが、なぜ動揺せずにいられたのか?あたいは思うんです。トムはこの隠し球を出して、世の中をびっくらさせたかったに違いない。そしてみんながびっくらしましたよ。スティーヴ・オースティン率いる暗黒スラッジジャンク帝王。カオスを越えて、ダダッ子にしか聞こえない激ヴォーカルと船酔いノイズグルーヴ。その究極がこのサードですね。キーボード入れて更におかしくなってます。その後スティーヴ・オースティンがCONVERGEのプロデュースするような御大になるとは思ってなかった。トムもそうに違いない。だからフツーに「バイバーイ」って、次作からはRELAPSE RECORDSに譲りました。