ギリシャとEUのあるべき姿 アテネ大学パナギオティス・イオアキミディス教授の見解_top

interview: Μελπομένη Μαραγκίδου
photo: European Audiovisual Services

二転三転した挙句、ギリシャは、EU(欧州連合)と新たな金融支援プランで合意し、デフォルト(債務不履行)は回避したものの、財政再建への道程は険しい。今回の合意で、今後、ギリシャは緊縮財政政策を取らざるを得ず、その政策は、ギリシャ国民を圧迫し、それにより高まる不満は、さらなる情勢悪化につながる恐れもある。

ギリシャにとり、再建の実現が必須であることはもちろんだが、支援に合意したEUは、ギリシャ以上に、ヨーロッパの確固たる安定を目指し尽力しなければならない。ギリシャ再建、というEUが解決すべき喫緊の課題は、綻びが見え隠れするEUの意義を改めて問い直す機会を当事者たちに与えたようだ。

EUと、いち加盟国としてのギリシャが、どのように自らを律し、ヨーロッパ、ひいては世界の安寧に資すべきなのか。チプラス首相とメルケル首相の御乱心で状況が二転した直後、EU研究の第一人者、アテネ大学のパナギオティス・イオアキミディス教授に見解を尋ねた。

EUはどういった理念を掲げて設立されたのでしょうか。今もEUは当初の目標に忠実だと思いますか。

簡潔に説明します。ヨーロッパ統合の過程が始まって以来、ヨーロッパ共同体としてのEUには、ヨーロッパの安定と平和を保証する、という大命題があったことを、われわれは忘れてはなりません。というのも、それまで、ヨーロッパ大陸は紛争、流血、破壊といった悲劇に見舞われ続けてきましたから。しかし、過程の中では、民主社会と繁栄、環境保護、世界平和の促進といった、新たな目標が追加されました。こうして、今日のEUにたどり着いたのです。

EUが設定した、課題はある程度達成されました。EU加盟国は安定を享受しています。加盟国同士の武力的諍いはありません。かつて、ヨーロッパには、フランスとドイツのような対立関係が目立っていたのですが、現在では安定した状態にあります。紛争はテーブルを囲んで行なわれます。つまり、議論です。時にそれは激論になりますが、われわれは夜通し会議を行い、共通の解決策や妥協案を探ります。ある程度の競争心はあるものの、最終的には友好的な解決策を見出します。そして、EUを語る上で、これこそ見落としてはならない部分なのです。過去、ヨーロッパが経験した悲劇を知らない若い世代は、こうした状況を当然のものと捉えています。しかし決してそうではありません。もし何らかの理由でEUが解散すれば、ヨーロッパは、血塗れの紛争、市民同士の敵対が再発し、新たな悲劇が始まるでしょう。だからこそ、我々はこれまでEUが達成してきたことを「前向きで成功した」と記録する必要があるのです。

一方、EUの現在のシステムには深刻な欠点があることも強調せねばなりません。われわれは、より良いヨーロッパを実現させなければなりません。第一に、大半の市民の期待や要求に応えられるよう、民主的に運営されるヨーロッパが必要です。現在のEUには大規模な「民主主義の赤字」がありますが、それは補填されるべです。平均的なヨーロッパ市民と民主的に再結束できる方法を探る必要性があります。特に、若い世代との紐帯が必要です。第一の大きな欠点は「民主主義の赤字」。第二の欠点は、経済通貨同盟(EMU)を完遂するための、適切な政策の不備です。大部分において、我々がギリシャ関連で経験した問題は、EMU制度の不十分さに原因があります。EMUは通貨統合のみを基礎としており、共通の経済、財政及び社会的な政策がありません。今後、危機を回避するためにはこうした欠点を克服する必要があります。EUはヨーロッパ大陸にとって不可欠な機関です。EUなくして、我々は安定、平和、民主主義を享受できないだけでなく、現在の繁栄を失うでしょう。

EUが設立された当初、目的のひとつは、戦争を回避し平和を確保する、とのことでしたが、今の目標は何なのでしょう。

最近のウクライナを例にとると、平和実現は現在進行形の課題であり、EUの主な目標であるでしょう。EUは、当り前に受け取られがちですが、ヨーロッパ内の安定を維持する不可欠な機関なのです。EUは、グローバル化、中国やインドといった国々の経済及び政治勢力の拡張、そしてとりわけ大規模な移民流入の原因となる地球温暖化という大問題等、一連の課題に対応していかなくてはなりません。

現在、EU圏内で経済戦争が起こっているのでしょうか。

そういう大げさな意見には賛同できません。私個人は、経済戦争が起きているとは考えません。とはいえ、各国間に過酷な対立や、辛辣な意見衝突があるのも事実です。EU各国が、異なった考え、関心を持っていることはよくあり、異なる点を激しく、冷酷で残忍な方法で主張することもあります。これは良くないことですが、戦争、と呼ぶのは大げさに過ぎます。各国間に多くの相反する辛辣な見解があるということは、むしろヨーロッパという枠組みの必要性を強調するものです。何故なら、EUという妥協を促進する枠組みのない状況でのこうした対立を想像してみてください。何が起きたであろうか考えてみてください。その場合、間違いなく、戦争になるでしょう。ただ、今現在、戦争は起きていませんが、欧州各国の間には、最近のギリシャの件からもわかるように、激しい対立は存在しています。

先週末(ユーロ圏財務相会合、2015/7/11)の、EUとドイツの、ギリシャに対する態度をどうお考えですか。

ドイツの振る舞いは、的外れで、思慮を欠いていました。結果的にああいった態度は、EMUの強化、というEUの目的に役立ちません。もちろん、ドイツも同じ目標に向かっています。ドイツの態度には、基本的な誤りが目立ちましたが、ドイツはギリシャを破壊しようとしている、といった類の見解には賛成しかねます。

EUがギリシャに対してある特定の考え方を持っているのではありません。フランスやイタリアのように、ギリシャに非常に協力的な国々もあります。EUの機関、例えば欧州委員会も、ギリシャにとても協力的でが、それに何の不思議もありません。一方で非常に頑固で手厳しい国々もあります。ドイツの思考に近い国々です。しかしそこに関しても、理由を説明する必要があるでしょう。その原因はギリシャのやり方に大きく関係しています。ギリシャはEUから最大規模の支援を受けてきました。わが国はどこよりもよりも多額の借金を抱えています。われわれは、2つの支援プログラムを利用していました 。一つは、メモランダムです(EU、IMFとギリシャ政府が交わした緊縮財政策に関する合意文書)。類似のプログラムがポルトガルとアイルランド等、他の国々にも適用されました。ただ、他の国々は誤りを修正し、改革を行い、支援プログラムを脱して安定を回復し、ユーロ圏の通常加盟国として機能できるようになったのですが、ギリシャはまだそれが達成できていません。改革を行わなかったためです。では、ギリシャは何をしたのか。ギリシャは改革に同意したものの、それを実際の政策に反映しなかったので、改革は施行されませんでした。これに加え、過去5か月間に大きな間違いを犯したことで、EUとギリシャの信頼関係に、大きな亀裂入ってしまいました。そのため、決定事項が全て達成可能であるか、ギリシャに保証を求め、非常に厳しい規制を要求する国があったのです。この説明は、そういう国々の非常に辛辣な態度を正当化するものではなく、私はただ事情を説明しようとしているのです。我々はEUを理解もする必要もあり、自分の国を整理する必要もあるのです。

先週の出来事を経て、ヨーロッパはどうなるのでしょう。 

ヨーロッパは変わらなくてはなりません。先週末の出来事とは別に、ヨーロッパには変わる必要があるでしょう。先週末の交渉は、劇的で困難なものでしたが、それを歴史的レベルに持ち上げる必要はありません。ヨーロッパは、私が挙げた全て理由により、変わらなくてはならないのです。より民主的で、より結束力のある、今以上のヨーロッパとなるべきでしょう。われわれが経験した劇的な週末とは関係なく、全般的な変化が必要です。

EUの構造は危機に瀕しているのでしょうか。

その質問は民主主義の欠陥と、EUがヨーロッパ社会との紐帯を今一度強めなくてはならない必要性に関連しています。というのも、EUの制度に、懐疑的、否定的な勢力が伸長しつつあるからです。こうした勢力は、極右主義のファシストに影響されています。そうした人々は、国家への帰還、国家主権こそが問題を解決すると信じています。もちろん神話に過ぎませんが。これがコインの片面で起こっていることです。その一方には、そういった様々な出来事に対応しなくてはならない欠点があるにも関わらず、欧州統合を支持し、ここで言及した価値を理由に、EUを不可欠な存在であると見る良識的なヨーロッパ市民が存在します。安定、平和、民主社会、繁栄。どの政治的な事象でもそうですが、リスクは必ず伴います。EUも、新しいリスクを相殺すべく、新しい課題に順応し対応できる能力がなくてはなりません。ある意味、EUは脅威にさらされています。ただ、新しい環境に順応さえすれば、その生命を脅かすあらゆるリスクの回避が可能です。