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敵対行為停止合意発効後もシリアに轟く爆撃音と銃声

リヤド氏は「停戦なんて嘘だった。今日は10回以上政府軍の空爆があった」と悲しげな声で電話してきた。敵対行為停止により、シリアの大部分は比較的穏やかにはなったものの、一部ではまだ空爆や戦闘が続いている。

「停戦だ! 今日はアサドの空爆が一度もないぞ!」シリア北部のイドリブ県に住む自由シリア軍戦士のリヤド氏が、嬉しそうに電話をくれた。

2011年3月に勃発したシリア内戦が5年目を迎えようとしていた2月27日午前0時、米国とロシアが主導する敵対行為停止合意が発効された。この日は、連日鳴り響いていた空爆音や銃声がピタリと止み、シリアは数年ぶりに平穏を取り戻したかのように見えた。

しかし翌日、リヤド氏は「停戦なんて嘘だった。今日は10回以上政府軍の空爆があった」と悲しげな声で電話してきた。敵対行為停止により、シリアの大部分は比較的穏やかにはなったものの、一部ではまだ空爆や戦闘が続いている。

シリアに軍事介入中だった有志連合軍とロシア軍、アサド大統領の率いる政府軍、反体制派、計114組織が敵対行為停止に合意した。しかし、この合意にはISとアルカイダ系武装勢力のヌスラ戦線は含まれておらず、有志連合軍、ロシア軍、アサド政府軍はこれら組織に対する攻撃を制限されていない。

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当然、この合意で、ISとヌスラ戦線も攻撃を仕掛けないはずがない。

現にISは、27日0時の合意発効から数時間後に、北部のクルド人支配地域テル=アビアドを攻撃している。ここは、14年夏はISの支配下にあり、「アッラーの他に神なし」と書かれたISの黒旗がトルコとの国境沿いに掲げられていた。だが1年後には、クルド人民防衛隊(以下YPG)が有志連合軍らの支援を得て反撃し、支配権を取り戻している。

IS系メディア・アアマクは、テル=アビアドのあるラッカ県北部を「サプライズ攻撃する」と事前に報じていた。トルコ治安部隊によれば、ISがテル=アビアドを2箇所から攻撃し、国境を超えたトルコでも銃声や爆発音が数時間にわたって聞こえたという。

今回は、YPGがIS戦闘員らを包囲し、ISの作戦は失敗に終わった。IS側で45人、YPG側で20人の死者が出る激戦となった。完全に戦闘が停止したとは言い切れない状況だ。

敵対行為停止合意を受け入れた組織が支配する「グリーンゾーン」への空爆を無期限に停止すると約束していたロシアも動きを止めていない。シリアの反体制派メディア『Step News Agency』の記者アリー・アル=アラー氏によれば、シリア北部のハマー県では、合意発効後も連日政府軍やロシア軍の空爆が続いているそうだ。「ハマー南部のヒルブナフサでは、停戦後の4日間だけで、シリアの政府軍 の空爆が40回、ロシア軍による空爆が20回もあった」アリー氏はメールでの取材にそう答えた。「停戦は失敗に終わった。以前と変わらない」

ハマー中心部は内戦勃発時から政府軍の支配下にあるが、郊外の多くは支配権をめぐって政府軍と反体制派の衝突が相次ぎ、常に不安定な状態だ。

反体制派メディア『Radio Free Syria』によれば、合意発効から4日目の3月1日にも、政府軍の空爆犠牲者だけでなく、拷問により、民間人の死者もでている。今回の「敵対行為停止合意」には、戦場における攻撃制限は組み込まれているが、拷問に関する規制はない。水面下で行われる拘束者への拷問は、合意の範囲外だ。

トルコ国境と接するイドリブ県北部のアトメ村でも、政府軍による空爆に加え、YPGとISやヌスラ戦線の衝突が止まない。

「空爆の数は確かに停戦前と比べて減ったが、完全になくなったわけではない」アトメ村に住む活動家のアフメド氏も、合意を否定した。「政府軍とロシア軍による空爆はまだ続いている。 われわれは今でも空爆の音に怯えながら生活している」

アトメ村には、収容人数が5千人を超える(2014年3月取材時)難民キャンプが国境沿いに設置されており、自由シリア軍やイスラム戦線などの反体制派勢力がキャンプの警備を担っている。アフメド氏によれば、合意が発効された今でも、難民キャンプには爆撃音が響き渡っているという。

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Miyu Layla Suzuki
1990年4月生まれ、静岡出身。横浜市立大学在学中の2013年夏に初めてシリアを訪問し、卒業後も2度に渡ってシリアの反体制派地域を取材。自由シリア軍・イスラム戦線・ヌスラ戦線・クルド人民兵組織らなど多くの反体制派組織と接触。14年春にはアルカイダ系武装組織・ヌスラ戦線への密着取材を行った。