圧倒的破壊兵器としての〈性暴力〉
Image via Wikimedia Commons

FYI.

This story is over 5 years old.

圧倒的破壊兵器としての〈性暴力〉

女性や少女に対する性暴力は、現在、各地の紛争で兵器として利用されている。その中には、南スーダン、ミャンマー、コンゴ民主共和国での紛争も含まれるが、それらは、一例に過ぎない。

AK-47、ドローン、クラスター爆弾、化学兵器、核兵器については耳にしたことがあるはずだ。しかし、兵器として認識されていない兵器がひとつある。それは、恐怖を与え、家庭を崩壊させ、共同体を破壊し、身体的な傷を女性の体内に残し、時には、彼女たちにHIVを感染させる。それはまた、〈民族浄化〉で利用される機会も多く、標的になった共同体の女性たちの出産を阻害する。その兵器とは〈レイプ〉だ。そして、レイプを無くすためには、〈#MeToo〉と同じく、ムーブメントを加速させるエネルギーが必要だ。

女性や少女に対する性暴力は、現在、各地の紛争で兵器として利用されている。その中には、南スーダン、ミャンマー、コンゴ民主共和国での紛争も含まれるが、それらは、一例に過ぎない。

デニス・ムクウェゲ博士は、コンゴ民主共和国を拠点に活動するコンゴ人の産婦人科医だ。彼は、ブカヴにパンジー病院を設立し、患者の治療にあたっている。彼の専門は、反政府勢力による集団レイプの女性被害者の治療だ。

Advertisement

現在、ムクウェゲ博士の勤務地、コンゴ民主共和国東部では、約70もの武装グループが活動しているという。同地を混乱させるのは、反政府勢力による武力活動だけではない、同国のジョゼフ・カビラ大統領は、任期満了に合わせて予定されていた2016年の選挙を延期し、権力保持のために政府内の反対派を弾圧したので、情勢はさらに悪化した。

どうすれば私たちは、兵器としてのレイプを根絶しようとするムクウェゲ博士の活動を支援できるのだろう。

§

パンジー病院を開設してから、治療した女性の数は?

デニス・ムクウェゲ博士:1999年から2016年にかけて、私たちは、50,731名の性暴力被害者を治療しました。

ですが、病院で治療した女性たちは、氷山のいっ角に過ぎないはずです。ほとんどの被害者たちは、打ち明けることを恐れています。アメリカの女性たちは〈#MeToo〉と声を上げていますが、コンゴ民主共和国で性暴力被害を告白するのは、問題の質が全くちがうはずです。コンゴ民主共和国の性暴力を受けた女性たちが被害を打ち明けることで直面するリスクは何でしょうか?

おっしゃる通り、これは氷山のいっ角に過ぎません。もしも、被害者が事実を打ち明ければ、彼女たちは、その家族やコミュニティから烙印を押され、拒絶されるおそれがあります。

反政府勢力が制圧する地域では、被害者とその家族たちが報復を受ける可能性もあります。レイプが原因で妊娠した場合、母親と赤ん坊、さらに、家族の他の子どもたちまでもが拒絶されてしまいます。パンジー病院に来院した被害者のうち、40パーセントは、治療後、烙印のせいでコミュニティに戻れなくなってしまいます。

あなたが治療するのは、女性の身体的な傷だけではありません。あなたの〈治療の四段階〉について教えて頂けますか?

私たちは、最初に医療面で支援します。パンジー病院に来院する女性のほとんどは、集団にレイプされています。複数名の加害者が交代で性暴力を加えるんです。これは、極めて暴力的なレイプです。被害を受けた女性たちが最も恐れているのは、加害者が性感染症、特に、HIV、エイズに感染していることです。彼女たちは、まず、医療部門で検査し、すでに感染していれば、治療を受けることになります。

患者が身体面で治癒すると、次は、心理面での支援が必要になります。これは、非常に大切なことで、見落としてはいけません。早く回復するには、心理的サポートが不可欠です。

コンゴ民主共和国ブカヴのパンジー病院で医師、院長を務めるデニス・ムクウェゲ博士とジル・バイデン博士が話している.(Image via Wikimedia Commons)

被害に遭った女性が身体面と心理面で回復して初めて、私たちは、経済、社会、両面での復帰プロセスを開始します。被害者が自立していなければ、コミュニティに復帰しづらくなります。私たちの社会経済チームは、被害者のニーズを精査します。ニーズは、各自で異なります。それから、彼女たちは、ノウハウやスキルを携えてコミュニティに復帰します。ほとんどのケースで、コミュニティこそ、彼女たちを必要としています。

究極のニーズは、正義の要求です。パンジー財団は、法律家チームを擁しています。レイプ被害者たちによる訴訟の準備をサポートするだけでなく、被害者の出廷にも同行する法律家たちです。

コンゴ政府は、被害者があなたの病院を頼らなくてはならない原因に対処しようとはしません。政府は、残虐行為を隠蔽しようとしています。例えば、2015年、政府は、あなたをテーマにした映画の上映を禁じました。コンゴ民主共和国で、あなたが直面している障害について、もう少し詳しく教えてください。

Advertisement

コンゴ政府が悲劇的な現実に向き合わずにきた結果、加害者は罰せられません。加害者は、レイプが許されている、と勘違いするでしょう。

病院は、常に脅威にさらされています。病院のスタッフは、日常的に脅迫されており、レイプされたりもします。脅迫を受けている事実を政府に伝えたところで、政府は、スタッフたちを護りきれません。

経営面での圧力もあります。政府は、厳しい労働条件を課し、当院の活動を滞らせようとしています。

あなたは医者であるだけでなく、ジェンダーに由来する暴力の被害者を、世界規模で支援しています。そして、その理念を推進するために、米国、欧州全土を飛び回っています。どうすれば、私たちは、あなたのキャンペーンを応援できるのでしょうか?

私たちには、西洋諸国の応援がもっともっと必要です。国際共同体は、沈黙を続け、性暴力を容認すべきではありません。暴力を根絶して被害者を支援する包括的戦略を構築するには、暴力を監視し、理解するための、より強固なシステムが必要です。

あなたは以前、「このような暴力は、単純に女性、もしくは、フェミニストの問題として考えられない」と発言しました。どうすれば、私たちは議論を拡げられるのでしょうか?

男性は、非難されていると勘違いすべきではありません。なぜなら、男性もまた、性暴力の被害者だからです。性暴力は破壊的な兵器だ、と理解しなければなりません。それは、身体、精神、社会を破壊します。縦方向では子や孫へ、横方向では配偶者に伝わる影響力を持った兵器です。

ひとりの女性をレイプすれば、彼女の夫、子ども、コミュニティに被害が及びます。時には、直接の被害者自身よりも、周りのみんなが心に深い傷を負うこともあります。つまり、人間性の破壊です。

性暴力は、女性のみならず、人間性全体に影響を及ぼす国際問題だと理解すべきです。男性たちも支援プログラム、治癒プロセス、対話、議論に参加しなくてはなりません。

レイプに対処しない、レイプは他人の問題、と無関心でいることは、悪の拡大を許し、悪が私たちの人間性を破壊するのを見逃すことと同じです。

読者は、あなたの支援活動をどうしたらサポートできますか?

あなたの家族やコミュニティのなかで、それについて話し、より意識を高めてください。そうすれば女性たちは、男性の友人や夫に話せるようになります。レイプについて沈黙している男性たちを巻き込めるんです。

§

さらなる〈#MeToo〉を望むのであれば、ムクウェゲ財団の〈#BreakTheSilence〉を覗いてみてください。〈Stop Rape Now〉にも参加できます。