中南米で流行するジカ熱と中絶事情

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中南米で流行するジカ熱と中絶事情

蚊を媒介に感染するジカウイルスは、乳幼児の「小頭症」を引き起こす可能性がある。

2月1日、世界保健機関(WHO)は感染が拡大しているジカ熱について、2014年のエボラ出血熱流行時と同様の「国際的に懸念される公共衛生上の緊急事態」を宣言した。

蚊を媒介に感染するジカウイルスは、乳幼児の「小頭症」を引き起こす可能性がある、と指摘されている。ワクチンや有効な治療薬は未だに開発されていない。WHO(世界保健機関)が2月19日に発表したデータによると、急増するジカ熱感染者は、40もの国々と地域で確認され、今後も感染は広がる見込みだ。ジカ熱の大流行により、妊娠中絶にまつわる厳しい制限を設けるラテンアメリカの国々で、危険な手段による中絶が女性を死に至らしめる可能性が高まるのでは、と危惧する声もある。2018年までは避妊を心がけるよう、エルサルバドルをはじめ感染が確認されたうちの数カ国では、政府が国民に勧告している。妊娠中絶は、ラテンアメリカのほとんどの国で違法であるか、厳しく制限されている。数カ国では、妊娠の理由が強姦、近親相姦であろうと、奇形児出産の可能性があろうと、中絶は認められていない。

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政府は避妊を呼びかけるが、予想外、望外の妊娠、母体の生命を脅かす妊娠であったとしても、中絶を禁じている。この奇妙なパラドックスのせいで、女性たちには悲劇的な選択肢しか残されていない。そういった国々で、ジカ熱に感染した妊婦は、先天的疾患を抱える可能性のある赤ん坊を産むか、危険な違法中絶手段により流産するか、二者択一を迫られている。ジカ熱流行以前のブラジルでは、毎年80〜100万人の女性が違法ながらも妊娠中絶を選択しているので、今回のジカ熱流行でその数は増加するだろう。

世界120カ国に妊娠中絶薬を郵送する団体「Women on Waves」(以下、WoW)を運営するレベッカ・ゴンパル医師によると、ジカ熱に冒された地域に暮らす女性からのオンライン相談が目に見えて増えているそうだ。ゴンパル医師はメールで、ジカ熱と乳幼児の先天性疾患の関連性を引き合いに、女性が選択する権利を主張した。「女性には、危険を避けるために中絶を選択する権利がある」

WoWは、ウェブサイトに掲載したプレス・リリースで、ジカ熱感染を証明する診断書を提出した女性に対して中絶薬を無料で配布する、と告知した。通常、WoWは、「居住国と本人の経済状況に応じて」70~90ユーロの寄付を求めるが、ゴンパル医師は、経済的に寄付が困難な女性には中絶薬を無料で提供している、とメールに記している。「望外の妊娠は医学的緊急事態であり、経済的理由でそれに対する適切な処置が施されないのであれば、それは人倫に反する」。ちなみに、無料サービスを受ける女性は、全体の約15%ほどだ。

ゴンパル医師は、ジカ熱が流行する国々で、危険を伴う手段による中絶による女性の死亡数が増えるのでは、と懸念している。なかでも、関税法により中絶薬の輸入が固く禁じられているブラジルの状況は危うい。「(ジカ熱に感染した女性への中絶薬を提供)しなければならない。妊娠中の女性が中絶を望んでも、ブラジルでは、危険な手段を用いざるを得ない。私たちは、危機に瀕する女性たちに安全な中絶方法を提供したい」

中絶を禁じても中絶件数は減らない、という研究結果もある。中絶を禁止したところで、女性たちは、漂白剤を飲み、薬を服用し、子宮への異物挿入など、危険な手段を用いた妊娠中絶を試みるだけだ。「中絶を禁じれば、国民の健康に害を及ぼす」とゴンパル医師が主張する通り、WHOは、年間68,000人もの女性が危険な手段による中絶を試み死亡したデータを提示し、それは「最も軽視されている地球規模の医療的課題」だと指摘する。こうした事態を受け、WoWは、中絶薬として知られるミフェプリストンとミソプロストールを提供し、女性が身を危険に晒すことなく自宅で安全に中絶できるよう、活動を続けている。(ミフェプリストンとミソプロストールを併用した場合、90%以上の効果が期待できる。どちらもWHOが指定する必須医薬品)

ジカ熱の大流行により、ラテンアメリカの各国政府は、人工妊娠中絶を禁じる現行法律の見直しを迫られるだろう、と予測する報道機関もある。ゴンパル医師は、女性たちが安全に中絶できるよう合法化を主張する根拠を強調した。「中絶合法化を主張するのは、ジカ熱が流行しているからではない。安全の保証されない方法で中絶を試み、命を落としてしまう女性を減らすためには、中絶を合法化するしかない。科学的な研究で、幾度となく、その判断の正当性が証明されている」