ナディムが組織化されたサッカーを覚え始めると、国内のトップレベルに達するにはそう時間はかからなかった。彼女が18歳になる前に、デンマークのサッカー連盟はFIFAに彼女をデンマーク代表に招集するべくウェーバー制を求めた。通常アフガニスタンで生まれた彼女の場合、国籍取得のために5年は待たなくてはならないのだが、ナディムは適格と判断され、帰化が認められた。それをおかしいと指摘する人も当然いた。しかしそれが認められたのは、デンマーク代表に選ばれたナディムの他国への帰化を防ぎ、他国代表に選出されるのを防ぐためだ。もちろんナディムは決してサッカー傭兵として雇われたわけではない。今やナディムは家族を受け入れてくれた国に、感謝を捧げ、恩返しすることが出来るようになった。

しかしデンマーク人すべてが、彼女の貢献に最大級の賛辞を送ることはない。多くのヨーロッパ諸国と同様、デンマーク人と移民との関係は不安定なものだからだ。90%の国民は元々デンマーク人であるり、彼らは、異なる民族が自国に住んでいることに慣れてない。特に経済が落ち込み、政治が右傾化するときは、外国人に対する恐れと嫌悪感から激しい発作がともなう。でもナディムは、そんな差別を国の意見とは捉えていない。「どこかの誰かが持っている個人的な差別はあっても、デンマークから差別されたことはない」と語る。

ナディムは決してヒジャブ(イスラム教徒の女性が身につけるスカーフ)は身に付けないが、彼女の肌の色は当時もっと黒かった。いくぶんデンマークに来てからは明るくなったようだ。学校が始まると子供たちのほとんどは授業に集中するが、数人の子供たちは差別的な発言をする。教室なら彼女はすぐに彼らをやっつけてしまうが、試合ではタチの悪い大人たちが、スタンドからナディムの肌の色をなじる。「子供の時、サッカーをしていて、時々大人たちが何か言っているのが聞こえたわ。私はそういう連中の子供よりきちんとしていたけれどね」とナディムは語る。「だけど、それに邪魔されたことはない。この国が私を歓迎してないと感じたこともない」そしてこう続ける。

「私は自分自身のマインドにあることを話すタイプなの。つまりね…黙ってろ、バカ。私は自分のことをやるから、お前も自分のことだけをやってろ」と。

インタビュー中、ナディムはこの自分の罵声を止め、私を見て「ごめんなさい」と申し訳なさそうに謝った。

彼女はいつものように振舞ってしまったことに気がつき、再度謝る。ナディムはピュアでナチュラル。正直な性格なのだ。アメリカの女性サッカー選手のエリートたちは、彼女にとって完璧なお手本とはならないであろう。ナディムは彼女たちが挫折をせずにここまで来たとはもちろん思っていない。でも見本はあくまで見本であって、他人にはなれない。誰かの期待に応えて自分らしさを失うより、自分らしく生きることが大事である。興奮し、早口になり、そこには何回か「ファック」という言葉が入る。お手本がない、だからこそ彼女は好かれるタイプなのだ。

アフガニスタンの少女はドリブルで人生を切り拓く デンマーク女子サッカー代表ナディア・ナディムの半生_02

Photo via Wiki Commons

タリバン政権下で学校に行くことを許されなかった少女には、1年半分の授業が残っている。今ナディムは、美容整形の専門医になりたいと考えている。オーフス大学での医学の勉強とプロ・サッカー選手としての活動により、他のために当てられる時間は限られている。昨年は授業を終わらせる必要があったので、シーズンのためのアメリカ到着が大幅に遅れた。今年は学校を休んで、サッカーに集中するのだという。

ナディアと彼女の姉妹は、与えられた機会を最大限に利用している。一番上の姉はナディアと同じように医学の勉強をし、ナディアのすぐ下の妹はパイロットを目指して、ナディアが「病気だ」と言うぐらい激しい競争に挑んでいる。4番目は看護師学校にいて、17歳で医科大学に行くことを計画している。

ニュージャージーにいる間、ナディアは地元の美容整形外科医でのインターンを望んでいる。留年するほど金銭的に余裕はないし、デンマークでは、彼女が希望する専門医は1年に2人までとされている。ナディムはただ鼻を高くしたり、顔のしわを伸ばしたいわけではない。彼女は美容整形が本当に必要な人たち…事故や病気で外見が傷ついてしまった人たちを助けたいのだ。ナディムは人生で多大な助けを得てきたから、その恩返しをしたいのだ。

そして単純に、美容整形の創造力と多様性は彼女の興味をかき立てる。「腫瘍を取り除いて顔半分を失ったら、顔を作り直さないといけない」と彼女は説明する。「身体中の何処かしらの骨と筋肉を使うことで、私たちはこの問題を解決しなくてはいけない。それはストライカーや難民が問題を解決するのと同じ」

サッカーがナディムと父親の結びつきだった、なんて勘ぐると、物語を無駄にドラマティックにしてしまうかもしれない。「私はそんな風に考えたことはない」と彼女は言う。「セラピーにもならないし。そう思わない。私の頭の中では、それで良かったというだけだから」。彼女がサッカーをする理由は一つ、ただサッカーを愛しているからだ。「私はピッチに立てばそれだけで幸せになる」隠しようのない彼女の本心だ。「陳腐に聞こえるけれど、それが本当なの」

NWSLは、決して資金に余裕があるわけではない。もし選手がアメリカ、メキシコ、カナダの選手でなければ、チームの給与は6000ドルから始まって、3万7800ドルが最高だ。「私にとってお金は問題じゃない」と彼女は言う。「お金のことを気にしたこともない。もし美容整形の医者になったら山ほど稼げるから。サッカーは経験と面白さのためにやっているの」

サッカーはナディムがデンマークで見つけた自由のシンボルで、自由を表現する術なのだ。例え彼女が説明しなくとも、彼女の人生はタリバンに対する壮大な“FUCK YOU”であり、抑圧への勇気ある抵抗の象徴なのだ。ナディムは認める。「実際、私は人が思ってもみないあらゆることをやってきた。他の人がなぜやらないかわからない。まったく理解出来ない。なぜなの? 何で? あらゆるチャンスに恵まれた所に来て、仕事があり、学校にも行けて、サッカーもまでプレイできる。どうしてそれがダメだというの? サッカーをすれば幸せになれるし、健康にも良い。みんなプレイすべきでしょ?」

かつては想像も出来なかったことを、最大限の力を振り絞って彼女は挑戦している。彼女は趣味でスポーツをやっているのではない。プロのアスリートなのだ。ただ学校に行っているだけではなく、外科医になろうとしているのだ。彼女は夫を立て、彼の影を踏まずに家庭を支え、慎ましい人生を送るはずだった。しかし、今や彼女はゆるぎない自信をものにしている。彼女のインスタグラムでは、そんな生活と冒険を垣間見ることが出来る。

「ファック・ユー、タリバン。私たちは物でしかなかった。アフガニスタンでは個人ではいられない。女性というだけで、不適格とされるから。それは愚かで、間違っているわ。私はすべてが可能だと証明してみたい。人が何であろうと、障害を持っていようが、女性であろうが、何かを望むなら、それを実現できる」

7年前、ナディムと友人はデンマークで、近所の古く恵まれない青年サッカー・クラブの再建を始めた。「私たちのエリアの子供たちは、家族からスポーツのための金銭的援助を受けることはない」と彼女は言う。「もし私たちが子供たちにスポーツに興味を持たせれば、おそらく犯罪に興味は持たなくなると考えたの。子供たちはみんなでサッカーを出来る。スポーツの役割は人生にそれだけ大きい影響を与えるのを私はわかっているわ」

クラブは6人の子供たちから始まり、200人以上に急増した。ナディムと友人たちはスポンサーを見つけ、資金を集め、子供たちのために道具を揃えた。チームの1つはイタリアの国際トーナメントで勝ち、メディアの注目を集め、クラブはさらに多くの融資を獲得した。これで安心して遠征も出来る。行政は何も出来なかったのに。

そして少女チームもスタートした。

タリバンの狂信はナディムの信仰を変えることは出来なかった。ナディムは今でも信仰深い。サッカー選手であっても、彼女はラマダンの断食を試みる。「私はイスラム教徒だ」と彼女は言う。「100パーセント、イスラム。信じ、祈る。だけど宗教はあなた自身のものだと思う」。狂信的な心理を理解出来ない彼女は、自分自身の意見を持つことを大事にしている。

ナディムは自分自身が西欧化しているとは思っていない。でも自分自身に嘘をつくことは出来ない。彼女の母はアフガニスタンに帰ったが、ナディムはアフガニスタンに帰るつもりはない。姉はこの夏に帰って、病院でインターンをするつもりでいる。母ハミダは心配している。「ニュージャージーなんかでインターンを見つけられるの?」「ママに言ったわ。落ち着いて…ってね」ナディアはそう振り返る。

しかし、母国はいまだに混乱の中にある。アメリカは撤退し、タリバンは国の一部を再び支配し始めている。「私も戻って、何がどうなっているかを見てみたい。でも住みたいとは思わない」と彼女断言した。「大変だと思う。アフガニスタンの人にとって、私は異国の人間だろうし。それに母国での出来事は極端にハードだと思う。私はきっと、タブーも犯してしまう。タリバンはそれに耐えられないし、絶対理解しない」

練習後、私たちは話をしていた。外の気温は肌寒い10℃。ナディムは新しいチャレンジを考えている。サーフボードを始めるらしい。既にボードとウェットスーツを揃えていた。ニュージャージーの凍てつく波に突進するつもりでいるのだ。「やるわよ。6ヶ月でプロ・サーファーになってみせるわ」と冗談を飛ばす。

ナディムから漂う温かな安心感の中、私のインタビューは終わった。彼女は大きな微笑みを浮かべて、私の手を握った。彼女はバッグを手に取って、大きな黄色と青色模様のヘッドフォンを取り出したので、私がそれを褒めると「カラフルでしょ」とおどけてみせた「まるで私のようにね」