ウェス・アンダーソンの最新作「グランド・ブダペスト・ホテル」が日本で公開されてから早数週間。日本だけでなく、世界でも高い評価を受けている本作品であるが、彼の作品をより独創的なものにしている要素として常に挙げられるのが、作品で使用される「音楽」だ。

そんな彼の作品において、音楽面で全面的にサポートしているのが、ランドール・ポスター(Randall Poster)という人物である。彼は長年にわたり、アンダーソン作品において、音楽スーパーバイザーとして音楽監修を担っている。映画で使用する楽曲の選択、および映画の音楽全体の方向性を決定するために監督とともに動いているのが彼だ。そんなランドール・ポスターにウェス・アンダーソン作品の音楽制作現場についての話を聞くために、インタビューを実施。ウェス・アンダーソンとの仕事内容から映画音楽制作におけるこだわりまで、多くのことを語ってくれた。

INTERVIEW:ランドール・ポスター(Randall Poster)

「その時代の世の中と折り合いがつかない登場人物に語りかけるように音楽が流れてくる。」

どのようにこの業界に入ったの?それまではミュージシャンだったとか、かなりの音楽好きだったとか?

僕は大したミュージシャンじゃなかったかな。レコード会社のために働いているわけじゃなかったけれど、音楽と映画にはとにかく狂っていたね。この業界に入ったのは、大学のラジオ局を題材にした台本を書いたのがきっかけ。サンダンス・インスティテュート(※1)で台本を作って、それを完成させたんだ。『A Matter of Degrees(学位についての問題)』というタイトルだったんだけど、そこには音楽がたくさん盛り込まれていた。それを作っていく中で音楽こそ自分がしたいことだということが分かったんだ。

ウェス・アンダーソンと仕事をし始めたきっかけは?

ウェスとは、彼の「アンソニーのハッピー・モーテル」の完成後に出会ったんだ。彼はサウンドトラック・アルバムの編集を手伝ってくれないかと言ってきた。それ以来、僕たちはずっと一緒にやってるってことになるね。

僕の一番のお気に入りのサウンドトラックは「天才マックスの世界」。曲から1960年代の雰囲気が漂ってくるし、映画とその主人公の子供のマックス・フィッシャー(Max Fischer)に本当にぴったり合っているんだ。時代の先端をいっていたと思うよ。

「天才マックスの世界」の中で、僕はブリティッシュ・インヴェイジョン(※2)のあまり有名じゃないバンドを使うということを思いついたんだ。ウェスはレコードジャケットに映っている人のコートの着方やネクタイの締め方についていつもあれこれ言っていたけど、彼らの音楽はとても意欲的で反抗的だった。そのことがマックス・フィッシャーに通じてるんだ。なぜなら彼は、口には出さないけれど、物事を打開していくような子供だったから。その時代の世の中と折り合いがつかない登場人物に語りかけるように音楽が流れてくる。これは僕たちの映画に共通するテーマなんだよね。型にはまって上品な時代にしがみついている主人公のグスタフ(「グランド・ブダペスト・ホテル」に登場するホテルコンシェルジュ)もそうだね。

どんな感じでそのテーマが音楽に反映されているの?

音楽的には、バラライカ(※3)(スーパーマリオのテーマをバラライカ弾いている様子はここから試聴可能)のフォーク・サウンドに辿り着いた。より原始的な人間らしさに回帰して、単なる流行モノとは違うものになってるはずだよ。ヴィヴァルディの優雅さと比べられるかもしれないね。

レイフ・ファインズ(※4)も個性的な俳優だと思うんだけど、彼の存在もアレクサンドル・デスプラ(※5)の素晴らしい音楽を支えているよね。作曲家とはどんな感じで仕事を進めていってるの?

アレクサンドルとは、最近のウェス作品3本でタッグを組んでいる。僕とウェスははじめに作品の中で使いたい音や表現したい感覚みたいなものを決めるんだ。それからアレクサンドルとウェスが掘り下げていく。これがウェスのやり方だね。僕とウェスで曲を選んで、音を決めて、それからアレクサンドルに渡して音楽を作り込んでいく。アレクサンドルがメロディーを作ってきて、僕らに聴かせてくれたときに今回はフォーク・サウンドを使うってことを決めたんだ。そんな流れだね。

作品中にはテンポの速い楽曲が多いけれど、より感情に訴える部分ではどうするのかってことが気になっていて・・・

今回は曲と曲のつなぎが最高なんだよね。毎回そうなんだけど、ウェスの映画の中の音楽はまさに彼がやろうとしていることを表現していると思うよ。バラライカとオリジナルの楽曲が映画の進行の手助けになっていて、それによって映画自体がより面白くなっていると思う。あと情緒的なシーンでは、必ずポーズがあるんだよね。

「僕とウェスが音楽面で一緒に働いている一つの理由は、僕たちが映画の中で使う音楽を考えることにかなり多くの時間を費やせる能力を持っていることだと思うんだよね。」

ウェスの理想を完璧に音楽で表現しようとするときに、苦労したり、精神的に参ってしまったりみたいなことはある?

それで緊張が生まれることないけど、真夜中に電話にかじりついて、ロシアの30人のバラライカ奏者とそのスタッフの旅券を手配させるみたいなことが起こるよね。

彼らには悪名高くて要求の多いスタッフが付いてるらしいからね・・・今回の映画の中では、ザ・ローリング・ストーンズの楽曲が使われていて、かなりの費用なんじゃないかと思ってしまうんだけど、そのあたりの予算についてはどう考えてるの?1曲でどのくらいかかってしまうものなの?

あんまりお金に関する軽はずみな発言はしたくないけど、僕がやらないといけないことは、「彼らが望むだけ与える」ということだったりするんだ。アーティストは必ずその映画のスケールを気にするんだよね。予算が1億ドルの映画と、50万ドルの映画では、明らかに計画が異なるからね。僕が関与することで、少なくとも彼らの音楽が映画の中で上手く使用されることに対して彼らが感謝してくれるといいんだけど。ほとんどのアーティストは予算を好意的に受け入れてくれて、上積み分をシェアして欲しいと言ってくる感じだね。つまり映画が良ければ、アーティストにとってもメリットがあるというわけ。

ミックとキースも他のアーティストと同じ感じ?

ストーンズに関しては、僕たちのサウンドトラック・アルバムをアブコ・レコード(※6)と一緒に作り始めた。アブコは、ストーンズの傑作「スティッキー・フィンガーズ」を所持するレーベルだった。言い方には気をつけないといけないけれど、そういう意味においては、ストーンズは僕たちのハウス・バンドになったって感じだね。

ウェス・アンダーソン作品への批判は、「自意識過剰で奇をてらっている」みたいなものが多いよね。それについてどう思う?

もしウェス作品へ批判が、誰かの作品とウェスの作ったものが似ているみたいなことなら、それに対してどう反応すればいいかわからないね。ウェスの映画は、創造性でも情緒性でも本当に満足のいくものだし、彼ほど細心の注意を払いながら仕事をしている人は見たことがないね。あともし間違っていたら言って欲しいんだけど、スポーツの世界で「ウェイン・ルーニー(※7)がピッチに全てを残していった」みたいに絶賛する人がいるじゃない?それと同じようにウェスが映画を完成させたとき、彼はそこに全てを残しているんだよね。まあ他に批判に対して僕が言うとすれば、すごく単純だけど、「失せろ」って感じかな。

そう言っておけばいいと思うね。

消え失せて、自分たちが見たい物を見ればいいよ。

マイケル・ベイ(※8)の映画とか?

そうだね、それか「アナと雪の女王」とか・・・

台本を読んだ時に曲のアイデアが浮かぶ感じ?そこからどうやって仕事をすすめていく感じ?

時代設定が決まっているとか、作品の中の登場人物がパフォーマーだったり、設定的に生演奏が必要だったりといった風な音楽的要素があるとかいう場合に、どんな音楽にするかをまず書き出すんだ。他には、監督との会話から音楽と共に伝えたいモノに関するアイデアを得たりする。編集室に入るまで思いつかないときだってあるよ。映画に入り込んでいく中で、どんな感じで音楽をあてはめられるか様子を見てみたりするね。そればかりは経験で何とかなるってものじゃない。明るい映画の場合に、それと反対の曲をあててみて何が起こるかを見てみたりね。

あるシーンに対して、どのくらいの数の音楽を合わせていくものなの?

ウェスが台本を書く前でさえ、会話の中で色々試行錯誤してみるんだ。「天才マックスの世界」と「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」では、映画で使う予定の決まった曲があったんだけど、可能な限り多くの曲を使用することは、ちょっとしたゲーム感覚みたいなものだったね。僕が思うに、僕とウェスが音楽面で一緒に働いている一つの理由は、僕たちが映画の中で使う音楽を考えることにかなり多くの時間を費やせる能力を持っていることだと思うんだよね。

今までやってきた中で、他の監督と意見が食い違ったことはある?

そうだなあ、自信のあるアーティストは反対意見を厭わない。意見の食い違いについて対話を行う。これは映画作りにおける素晴らしい点だと言えるね。他の人の情熱から、自分一人では想像もしていなかった結果がもたらされることだってあるわけだし。それぞれの持ち場で働いている人は誰だって自分の仕事を早く進めようとしている。立派な監督っていうのは、そんな彼らをうまく動かしていくことが大事なんだ。それはときに難しいことだし、かなりの労力がかかるんだけどね。

自分に対して「ダメだなあ」って思うときとかってある?

うーん、自分の思い通りにならなくてもあまり泣くようなことはなかったと思う。

泣いてしまったことはないの?

ちょっと泣いてしまうことはあるよ。たいていはトイレの中で一人で泣くんだけど、すごく気を使うよね。

仕事をする中で、皆トイレで激怒したり、涙を流したりすることってあるはず。たまには感情を表に出すことも必要だと思うけど・・・

同感だよ。

最後にもう一つだけ。音楽スーパーバイザーという立場上、内心ミュージシャンにストレスを感じたりすることもある?

僕はストレスを感じない側の人間だとはっきり言えるね。ベースギターを演奏してたってことが、正しい方へ導いてくれている気がするね。

「他人を受け入れる」ことが大事なんですね。本日はお話ありがとうございました。

1 ウェス・アンダーソンの音楽パートナーが語るサウンドトラック制作秘話

Translated & Edited by Shotaro Tsuda