Childish Gambino – “3005”

テキサスのインディー・ロック・バンド、スプーン(Spoon)が新曲『Do You』のビデオ制作を日本人にオファーしたと聞いて、たいへん誇らしい気持ちになった。その日本人の名はヒロ・ムライ。東京生まれのフィルムメーカー/映像ディレクターで、9歳の頃より米ロス・アンジェルスに在住。USC映画学校で学ぶ傍ら、エース・ノートン監督ら友人たちとプロダクション「Commondeer Film」を設立して数々のミュージック・ビデオを手掛け、現在はミシェル・ゴンドリーなども所属する映像集団「パルチザン(Partizan)」に籍を置いている。

彼の名を一躍世に知らしめたのは、やはりデヴィッド・ゲッタ『She Wolf (Falling To Peaces) ft. Sia』のMVだろう。全編アイスランドでロケが敢行された壮大な映像美は、ハリウッド映画顔負けのインパクト。一方で、オッド・フューチャー界隈のヒップホップ・ミュージシャンや、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(日本のサラリーマンをモチーフにした『Smooth Sailing』のビデオは傑作!)のようなロック・バンドとも仕事をし、さらにはJuicy FruitガムやノキアのCMも手がける売れっ子だ。

David Guetta – She Wolf (Falling To Peaces) ft. Sia

Queens Of The Stone Age – Smooth Sailing

キタノ映画のような暴力性と、デヴィッド・リンチ的な不条理さが自然と同居したムライの作品は、同じ人間から生まれたとは思えないほどの多面性やアイディアに満ちている。今回は、ジェイ・Zも運営に関わるWebメディア「Life + Times」でも執筆中の女性ライター、キャシー・イアンドリ(Kathy Iandoli)がNoiseyの人気企画「BEHIND THE LENS」で行ったムライへのインタビュー全訳をご紹介しよう。「クールジャパン」とはまったく別のベクトルで、日本文化を世界に発信するヒロ・ムライ。今からでも名前を憶えておいてソンはない。

Interview:ヒロ・ムライ(Hiro Murai)

ヒロ・ムライは魅力的な男だ。アール・スウェットシャツの『Chum』(上記)、続いて『Hive』のビデオを観たことがあれば、巨大なカエルからオッド・フューチャーのメンバーが恐ろしげなマスクを被って自転車に乗るシーンに至るまで、ランダムなビジュアルを好む傾向があることがわかるに違いない。それがヒロの目(レンズ)を通して見る映像なのだ。

どの作品を分析すべきか決めかねたので、二つ選んでみた。シンプル(かつ複雑)なチャイルディッシュ・ガンビーノ(※1)の『3005』と、シンボリックな映像に満ち静かな恐怖を感じさせるカルツ(※2)の『High Road』だ。どちらもヒロにとって思い入れの深い作品である。東京生まれLA育ちのこの監督は、彼自身の作品について、来たるミックステープ(もちろんジョークよ)について、そして長編映画についてのプランを聞かせてくれた。

観覧車で“時間”を表現した、『3005』の制作エピソード

Childish Gambino – “3005”

キャシー:『3005』のビデオに出てくるヒップなテディベアは、一体どこから来たの?

ヒロ:ヒップなテディベア?ああ、私のプロダクション・デザイナーですね。彼が探し出してきました。当初はごく普通のぬいぐるみを考えていたんですが、ドナルド(・グローヴァー。チャイルディッシュ・ガンビーノの本名)がトーク番組の司会者が身に着けているものにそっくりなハットを被ったベアを見つけて、それに決めたんです。ヒップに見えたのはきっとハットのせいでしょう?

たしかに、あのベアはガンビーノと同じようなハットを被っているわね。アミューズメントパークの光と闇の中を回る観覧車のコンセプトは、どうやって生まれたの?

ドナルドと仕事をする時には、いつも彼から色んなアイディアの種をもらうんです。そこから一つひとつ積み上げていきますね。初めから全体像が見えているわけではないんですよ。これ(『3005』)に関しては、彼はワンショットで撮ることと、観覧車に乗ることを希望していて、それがベストだとわかっていた。そこを起点に、3分半の面白い映像を作る方法を考えていきました。照明とドラマティックな動きを多用して、炎に包まれる街の光景とテディベアが朽ちていくのを同時進行で見せています。

アーティスト側が何らかのコンセプトを持ってアプローチしてくる方が好き?それとも、自身でイチから作り上げる方が性に合っている?

基本的には、自分のアイディアで作る方が好きですね。すべてを仕切りたいわけではなくて、アイディアにつながっていたいと思っています。少なくとも、感情面では。アーティストからのアイディアを受け入れることはほとんどありませんが、ドナルドとはうまくいってます。彼は作家でもあり、非常にクリエイティヴな奴ですからね。コラボレーションにも長けているから、彼との仕事はすごく直感的で、自然と身を任せてみようという気持ちになります。

何にせよあなたは変わったものを好み、あれはある種奇妙なコンセプトだった。あなたの歩んできた道そのものね!

まったくもってその通り(笑)!ガンビーノは特に子供っぽくてバブルガムなテイストを要求してきたわけじゃありません。彼の希望は、まさに僕の方向性にぴったりでした。

彼は、あの観覧車に2年ほど乗っていたように感じられたわ。

ええ、わかります。額面通りの意味をビデオで表現するのは好みませんが、「時間が過ぎ去っていくこと」を表現したかったんですね。そして、ごくありふれた観覧車が曲が進むにつれてトリップして、より非日常的になっていく。それが、テディベアが終盤に向かって朽ちていく理由でもあるんです。

あなたは観覧車が好きなの?好きな人も嫌いな人もいることはわかっているんだけど…。

好きですよ。子供のころは高所恐怖症だったんですが、それを克服してからは、怖かったからこそ興味をそそられるようになりました。ビデオの観覧車はなぜか異常に速かったんですよね。あんなに長い時間、観覧車に乗っているのはクレイジーな気もしましたし。特にエキストラの人たちなんて、撮影中の6時間ずっと観覧車に乗っていましたから、これまでの乗車記録を更新したかもしれませんね(笑)。

撮影のために遊園地を貸し切ったの?

ニューポート・ビーチの埠頭にある観覧車で、個人の所有物なんです。遊園地ではないけれど、たぶん何十年も昔のものだと思います。非常に伝統的で古いタイプの観覧車で、ちょっとでも体重移動をしようものならゴンドラ全体が前後に揺れました。かなり強烈でしたよ。

どことなくホラー・タッチな『High Road』は、
いかにして生まれたのか?

Cults – “High Road”

私にとって、このビデオはすごく恐ろしくも感じられたわ。まるで映画の『リング』を観ているような気分だったもの…。ランダムな映像をスクリーンにフラッシュするコンセプトは、何から着想を得たのかしら?

おそらく、古いヒッチコックの映画にある幻影のシーンから多くのインスピレーションを受けたと思います。すごく意識的にレトロな雰囲気を出そうとしていますね。抽象的な映像を、具体的な着地点なしに結びつけたかったんです。むしろ、映像同士がいかにフィットし、一緒になった時にどう感じられるか――がポイントでした。とても速いスピードで映像を見せているので、詳細に気をとられる時間はないんじゃないかな。

テレビ画面が目に入った時は、ポルターガイストを連想したわ…。

ハハ、そうですよね(笑)。あのテレビ画面は、彼らの『Static』(2013年)というアルバムから引用しました。僕はまず、画質の粗いテレビ画面をイメージしました。古いテレビのイメージは、彼らのアルバム制作中の方向性とも一致していました。だから、テレビ画面のアイディアは彼らがプレス向けにマーケティングしていた素材からもらってきただけなんですよ。でもたしかに、ミステリアスで、不吉で、奇妙な雰囲気がありますよね…。

他の映像についてはどう?ヘラジカの頭、らせん階段、蝶、燃えさかる車。これらはどこから考えついたのかしら?

コラージュを作るようなものだと思います。要素を選んで、どう組み合わせられるか考え、フィットしないものは除外する。特に理屈があるわけではなくて、ほとんどは直感的なものです。また、ピックするものの多くは、モノクロでグラフィカルなものにするつもりではあった。だから、この作品もクリーンで、グラフィカルで、滑らかなものにしなければいけなかったんです。炎はビデオの進行役のようなもので、私たちはそれを非常にクリーンな空間で見せていきました。やがてどんどんと歪められ、テレビ画面は不明瞭になっていき、最終的には世界のすべてが炎に包まれるんです。

こういったビデオの表現開発は、どのように行うの?楽曲を何百回、何千回と聴くのか、それともやってみたいと思うランダムなコンセプトが、常に頭の中にあるの?

曲を何度も何度も繰り返し聴きますね。表現を書き起こすところから、撮影して編集するまでの間、おそらく1,000回は聴いているはずです。そのくらい何度も。ほとんどの場合、ビデオが完成したらもう曲を聴く気にはなれない。時折レストランやラジオで自分の関わった曲が流れることがあるますが、そうすると身体が反応します。突然震え出すんですが、なぜだかわかりません(笑)。つまり、ビデオは曲ありきでつくることが多いですね。音楽に合わせて何かを創作することが好きなんでしょう。同時に、常に瞬間瞬間で頭にあるものもあって、それはその時のビデオに表れていると思います。『3005』や「High Road」の制作時、私は完全に炎や、炎に飲み込まれていく物事に惹かれていました。それが、私の頭の中にあるものです。

では、今あなたの頭にあるものは何?

今は、自分のメモリを空にしているところです。もう2か月ほど何の表現も書き起こしていませんからね。最近は1カ月ほどニューヨークに滞在して、意識的にたくさんの本や映画に触れました。頭の中にあるものを一旦すべてキレイにしてリセットし、またやり直すだけです。

あなたはビデオの監督などが所属する映像クリエイター集団か、会社の一員だったりするの?

ある意味ではそうとも言えます。ポストプロダクション・スタジオとVFXスタジオでもありますが、主だっては映像クリエイターや映画学校の同級生、それと僕がいつもコラボレーションしている人たちがユル~くつながっているだけに過ぎません。

次はミックステープか何か出すつもりね?

(笑)。ええ、その通りです。僕はビートを作ることになるでしょうね。

最後に、次回作の予定を聞かせてもらえる?

近い将来では、いくつかのビデオ制作があるかもしれません。言葉にすることでツキを悪くしたくはありませんが、今のところ何も具体的な仕事はないですね。そろそろ映画やテレビ番組のような長編にも本格的に取り組もうと考えているので、充電モードみたいな。ずっとやりたいと思ってきたことですからね。今はプールに片足を突っ込んで、どんな感じか試しているところです。

1 東京生まれLA育ちのフィルムメーカー、ヒロ・ムライの風変わりな頭脳回路

ああ、ヒロ!この写真を見てるとおかしな気持ちになるわ

Original Article by Kathy Iandoli
Edited by Kohei UENO