1 残念すぎる、キム・ゴードンとレイモンド・ペティボンのトークショー

このキム・ゴードンの表情。

先日ニューヨークの老舗書店Strand Bookstoreにて、ブラック・フラッグ(※1)のロゴなどで有名な現代アーティスト、レイモンド・ペティボンとソニック・ユース(※2)のキム・ゴードンによるトークショーが開催された。レイモンドのデビッド・ツヴィルナー・ギャラリー(※3)での日々を綴った書籍『To Wit』の出版を記念して開催されたイベントだ。

今回ここで紹介するのは、そのトークショーに参加したVICE USのライターによるレポート記事。彼いわく、「どことなく寂しいムードが漂う残念なイベントだった」と嘆いている。2人のトークショーを心待ちにしていたことを前置きし、「イベント中の20分間がこんなに長く感じたんだ!」と、残念な想いをぶつける本レポートだが、貴重な2人のトークショーの様子が実際にどうだったのか?彼のレポートからぜひ想像して楽しんでみよう。

潜入レポート from VICE US
コメディアン兼ヴィジュアルアーティスト&VICEライター
ショーン・カーネイ(Sean J Patrick Carney)

言うまでもなく、僕はこのイベントをすごくすごく楽しみにしていたんだ。古くからのソニック・ユースの大ファンという訳ではないが、彼らの存在をいつも尊敬している。キム・ゴードンは素晴らしいライターでもあるし。それに何よりもレイモンド・ペティボンの作品を愛している訳で、始まる前から興奮しっぱなしだった。おかげでチケットもぎりのお兄さんに「調子はどう?僕はVICEからきたよ!」と絡んでしまうほどだった。こんな僕に対してもお兄さんは優しく微笑んで迎え入れてくれたので、本屋ってのは誠意のある場所なんだと感動した。

2 残念すぎる、キム・ゴードンとレイモンド・ペティボンのトークショー

赤ちゃん

まず、席につくと僕の前には赤ちゃんをつれた若いカップルがいた。赤ちゃんはとても可愛らしくて、ずっと僕のことを見つめてくれた。しばらくすると、赤ちゃんがおしゃぶりを落としてしまったので拾い上げてお母さんに手渡してあげる羽目になった。なんで僕はレイモンド・ペティボンとキム・ゴードンのイベントで赤ちゃんのおしゃぶりを拾っているんだろうと思い、この一連の動作がどうもシュールすぎて笑いがこみ上げてきた。それと同時に、ブラック・フラッグのベビー服って存在するのだろうかという考えが浮かんだ。即座に検索をかけると、あった!

3 残念すぎる、キム・ゴードンとレイモンド・ペティボンのトークショー

詳しくは画像のURLを参照すること

数分すると、レイモンド・ペティボンとキム・ゴードンがついにステージに登場。イベントのホストによる彼らの簡単な経歴の説明はあまりにもつまらなすぎた。会場にいた全員が既にわかりきっている事を繰り返していただけなんじゃ無いかと思う。そして、イベントはキム・ゴードンがレイモンド・ペティボンに質問を投げかけるとこから始まった。

もう、どこからこの会場の雰囲気を伝えればいいのかわからないのだけれど、僕は本当に本当にこのイベントを楽しみにしていたんだ。とりあえずこれだけはわかっていて欲しい。1度もこんな小さな会場でレイモンド・ペティボンとキム・ゴードンを生で見る機会なんてなかったし、僕の大好きなカルチャーにおいて彼らの偉大な影響力を尊敬していた。でも、そんな僕の期待は頭のなかで大きくなりすぎていたのかもしれない…トークショーがはじまると、僕はとてもがっかりした。それは本当に、まったくもって、言葉で表せないほど、とてつもなく、辛くなるほどつまらなかったからだ!キムのレイモンドに対する質問は驚くほど陳腐だった。例えば…

–ブラック・フラッグのロゴは依頼されてつくったの?
–ブラック・フラッグのロゴの四角模様はバーコード?
–デビッド・ツヴィルナー・ギャラリーで製作をするってどんな感じ?
–もっとデビッド・ツヴィルナー・ギャラリーで製作をしたい?
–この作品はあなたを強くあらわしている作品ね?
–他のアーティストにどうやって作品を作っているのか聞きたいことってある?
–私が思うにあなたの作品での一番の観客ってあなた自身じゃないかしら。

って感じで…酷くないか…?キム・ゴードンは何百ものインタビューを何年もうけてきてるだろうし、ソニック・ユースはメディアへの頭の切れる皮肉をこめた対応でも有名だったはずだ。だから、より良い的を得た質問をする方法を彼女はわかっていると思っていたのに…。

でも、キム・ゴードン1人だけがこのトークショーにおいて残念だったわけじゃないんだ。レイモンド・ペティボンもひたすら当惑していたように見えた。彼の質問に対する反応はとてもゆっくりで、心ここにあらずといった感じだった。ブラック・フラッグのロゴはバーコードを表しているのかという質問に対して、レイモンドが「いいや、その時代にバーコードなんかなかった」と答えた後、すかさずキムが「いいえ、あったわ。私調べたもの」とツッコミをいれたところがおそらくこのイベントのハイライトだと思う。ここまで約20分間の会話だったのだけれど、今までこんなにも長い20分間があったのかと感じるほどの長さだった。僕のブルックリンからマンハッタンへと向かう朝の通勤時間と同じ長さなはずなのだけれど、比較にならないほど長く感じた。もしかしたら、朝の通勤にいつも長くて有名なマーズ・ヴォルタの曲を聞いているからかもしれないけれども。

他に彼らの会話の中でレポートするべきトピックは特にないんだよね。ステージ上で共通の感情や、尊敬するものをアーティストとして共感しあっていただけだから。ただ、彼らは今まで一度も会った事もないようなよそよそしい雰囲気を醸し出していたけど。はぁ、でもね、この会話以上に観客からの質問タイムは酷いものだったんだ…。

最初の質問は、熱心な若い女の子のファンからキム・ゴードンへ向けてだった。彼女はキムのことを賞賛しながら、どうしたらキムのように学生時代から他人に受け入れられなくても自身の誇りと楽しみを持ちながら、勇気を持ってバンド活動ができたのかを尋ねた。どうやら、彼女はキムに憧れるベーシストなのだが、学校ではからかいの対象になっているらしい。「そうね、私は恐怖から立ち向かったわ」と回答したキムは、レイモンドと共に、何千にもの観客にむけて自身のアートを発表することは、仲間達に向けて自分の作品を解説することや、たった15人もの人々の前で演奏することより何倍も簡単だという的外れな事を言い出した。僕が思うに、この若い女の子は人生の中で一番勇気を振りしぼって憧れのキムに心からの悩みを質問したと思うんだよね。でもさ、キムのはっきりしない回答はあまりにも助けにならないものだった。

2人目の観客からの質問はレイモンド・ペティボンに向けて、社会的成功と自分への満足、その両方を満たす作品を作る際に望むものは何か?というものだった。今、イベント中にとったメモを元にこの記事を書いているのだけれど、なんといえばいいのか…。レイモンドの回答は「他人と関わる為に作品を作っていて…そして…観客がいてくれることにとても感謝している…でもたった1人のために作品を作るという事は私にはできないんだ…過去のために製作をするし…同時に未来のためにも製作をしている…」だった。

一体全体なにがいいたかったんだレイモンドは!?

そして3人目にして最後の質問者はレイモンド・ペティボンと同じく60歳くらいの男性。彼はあまりにも私的で、イベントにふさわしくない内容の質問をしたのだった。それは、レイモンド・ペティボンの実の兄であり、ブラック・フラッグとSSTレコーズの創始者であるグレッグ・ギンの間に何が起こったのかということ。知らない人の為に補足しておくと、彼らは長い間仲違いの末に疎遠になっている。

この質問が投げかけられた瞬間、30分間のイベントの間で一番の緊張が会場に走ったのがわかった。レイモンドは動揺を隠せないように見えたし、回答中何度も泣きそうになっているようにも見えた。彼の回答によれば、初めは兄のグレッグ・ギンとは長い間親友でもあり信頼しあっていたのだが、時が経つにつれ、グレッグは錯乱状態や妄想にとりつかれることが多くなり、友人から家族に至って、彼に関わる全ての人間関係を壊してしまったそうだ。「もしもグレッグがもう一度会いにきてくれるのならば、めちゃくちゃになった過去など全て許して彼を受け入れる。なぜなら私は彼を愛しているのだから」と少し言葉を詰まらせながらも語り、グレッグとの関係は彼自身と家族の人生において大きな傷跡を残していることを告白した。そして同時に、ファンやグルーピー、何でも従うスタッフなど、いかにして周りの人々がグレッグの精神を破綻させたのかについても苦しい心情を話してくれた。

レイモンドの回答の後、しばらくの沈黙が流れ、会場は何ともいえない雰囲気に包まれた。だがしかし、痛みを露にした誠実な回答に対して質問者は「ありがとう。私は今まさしく同じような状況に陥っているので、あなたに私的な質問をしたんだ」と返したんだ!

ちょっと待てよ、あまりにも失礼すぎないか!?この世界にはそんな私的な問題を癒してくれる専門の職業の人がいるのに、なんでレイモンド・ペティボンをお前のセラピーの一貫として使うんだよ!?

そうこうしているうちにイベントは終了、観客は席に残るようにとのアナウンスが入った。1列ずつ退場する際にサインの入ったTo Witの本がもらえるらしい。手短に本を受け取り、僕は雨が降りしきる会場の外に出た。このたった30分間のイベント自体に僕は怒りも失望の感情もでてこず、ただただ残念な雰囲気に終始つつまれていたことに気落ちするだけだった。人間ってなんでこんなにも醜いんだろうとさえ思ってしまうほどだったよ。本当に残念なイベントだった。

Translated & Edited by Narumi Iyama