ポケモン映画に行ってきました。ルギア、イーブイ、ゼラオラ。今回も素敵なポケモンたちが大活躍していました。その上映後、「リクア、ルリカ、ライク、みんなおしっこ行ってきな!」と、三兄妹のパパさん。オサム、マユミ、ミノル、なんてポケモンがいてもいいのになぁ、と思いました。

日々の生活の中で、私たちはたくさんの人たちとすれ違います。でもそんなすれ違った人たちの人生や生活を知る術なんて到底ありません。でも私も、あなたも、すれ違った人たちも、毎日を毎日過ごしています。これまでの毎日、そしてこれからの毎日。なにがあったのかな。なにが起るのかな。なにをしようとしているのかな。…気になりません?そんなすれ違った人たちにお話を聞いて参ります。

菜緒子(なおこ)さん 29歳:研究者

菜緒子さんは、先日このコーナーに出ていただいた綾乃さんのお友達さん。

はい。

お互いに推薦しあうパターンでご登場です。

どうぞよろしくお願いいたします。

綾乃さんは、菜緒子さんからの推薦メールで泣いていましたが。

はい(笑)。

菜緒子さんはどうかしら? 読ませていただきますね。

〈英国文学・シェイクスピア一筋のオタクです。人と話すのが好きで、上手で、色々な引き出しを持っている女子校育ちのお嬢様なので、面白い話が聞けると思います。愛猫の話も是非聞いて見てほしいです。なにしろキャットウィスパラーですので…〉

どうですか? ウルウル来ていますか?

うーん、あんまりです(笑)。でも、これからジワッと来ると思います。

無理に泣かなくていいですよ(笑)。

はい(笑)。綾乃ちゃんのほうが涙もろいと思います。

綾乃さんから、菜緒子さんが飼っている猫の写真も見せていただきました。フワフワしてる子。

〈ミーニャン〉っていいます。ちょうど1年前に死んじゃったんですけど、いまだに生きているかのようにインスタに写真をアップしています。

んん? どういうことですか?

親しい人にしか、死んだ事実を話していないんです。

〈親しい人〉に、綾乃さんは入っています?

もちろん、入っています(笑)。

どうして、ミーニャンがまだ生きているかのように?

やっぱり認めるのが嫌でして。いまだに家族も、「昨日、ミーニャンがこういってたよー」なんて話しちゃうくらいなんです。まぁ、友達に直接会ったら、事実は話していますけど。

うちも昨年末に死んじゃいました。悲しいですよねー。

そうなんですよね…。

ミーニャンの話でウルウル来る前に進めましょう! さてお名刺を拝見しましたが、なんですか、これは?

はい?

〈博士〉と書いてあるじゃないですか! 〈博士(文学)〉って!!

はい。文学の博士号を持っています。いわゆる皆さんが想像される理系の博士ではないんですけど(笑)。

宮本さん、まわりに博士なんています?

(カメラマン:宮本さん)博士までいっている人はいませんね。

どこまでいっている人ならいるんですか?

(カメラマン:宮本さん)いえ、別に誰もどこにもいってません。

すいません、〈博士(文学)〉って、どんな博士なんですか?

私は、シェイクスピアの研究など、人文学系の博士号を取っています。

お仕事が博士なんですか?

そうですね。今は非常勤講師として大学で英語を教えながら、都市を研究をする民間財団に籍を置いております。

どうすれば博士になれるんでしょう? 

論文を書いて、審査に通れば博士になれますよ(笑)。

でも、その論文が大変なんですよね。道のりを教えてください!

まず、大学で学士号を、そして大学院で修士号を取得します。私は、英国で修士号を取ったんですけど、そのあと日本だったら、博士課程に最低3年間在籍し、専攻の必修単位をとり、自身の論文を書きます。それを審査会で教授たちに審査してもらいます。「これはいい!」となれば、仮審査から最終審査に進み、審査や口頭試問をすべてクリアすれば、博士号がもらえるんです。

長いですねー! ちなみに菜緒子博士は、現在29歳ですよね。とてもお若い博士ですけど、いつドクターになったのですか?

去年です。28歳でなりました。

ピチピチ博士じゃないですか!

はい、そうなんです(笑)。実は文学の博士号って、なかなか3年では取れないものなんです。10年かかる人もいます。でも指導教授が「頑張れ! 頑張れ!」っていってくださったので、頑張れました(笑)。

いやいや、応援されても博士にはなれないですよ。やっぱり内容が良かったってことでしょ?

そうですね。そういいたい(笑)。

聞いてもさっぱりわからないと思うんですけど、どんな論文を書かれたか教えてください。

私は、もともとシェイクスピアが好きだったんです。

(カメラマン:宮本さん)私、シェイクスピアと同じ誕生日です。

私は、シェイクスピアそのものではなく、シェイクスピアをテーマにした絵について研究していました。イギリスの〈ラファエル前派〉という芸術家集団はご存知ですか?

お面をしているユーチューバーですか?

〈ラファエル前派〉の代表的な作品は、ジョン・エヴァレット・ミレイによる、川で静かに溺れていく女性を描いた『オフィーリア』です。シェイクスピアの〈ハムレット〉という戯曲に出てくる1シーンが描かれているんです。

その絵についての論文を書かれたんですか?

この絵を含めた3作品についてです。これ以外にもたくさんの作品がありますが、私は、〈ラファエル前派〉のメンバーがシェイクスピアを主題に描いた絵画作品を研究しています。同じ文学や戯曲をテーマにしても、全然違う絵になる場合もありますが、特にミレイは、戯曲に忠実に作品を描いていたに違いない、というのが私の視点です。細かいディティールから、「これは戯曲で使われている花だ」とか、「これは、口が開いてるから、歌っているんだな」とか戯曲に通じる要素をたどっています。

戯曲の内容と噛み合ってない絵が多いんですか?

噛み合ってないものばかりではありませんが、この溺れて死にそうになっているシーンを描いたのは、ミレイが初めてなんです。それ以前にも似たような構図の絵は描かれていますが、今まさに溺れているシーンを描いたのは彼が最初でした。戯曲でもこのシーンは存在しなくて、彼女の死の状況について語られている部分しか出てこないんですよ。だからこの絵は画期的だ、というところから始まるんです。ただこれは、既に他の研究者の人たちが述べた定説です。

では、ドクター菜緒子は、どう論じたのですか?

戯曲で描かれていることが、どれくらいミレイの絵画描写に反映されているのかっていうのが、ひとつのポイントです。それがわかると、しっかりミレイが戯曲を読んでいるという事実がわかりますから。これまでミレイは、あまり文学的な芸術家ではないといわれていました。他の〈ラファエル前派〉のメンバーのほうが、詩も書くし、本も読むので、文学的とされていたんですね。彼は、成功とともにグループから次第に離れていったので、それに対する批判もあるんですけど、実際はシェイクスピアをよく読んでいたのではないかと。彼は、しっかりとした文学的素養を持っていた…これが私のオリジナル視点だと思っています。すみません、この話つまらないですよね(笑)。

いえいえ! 芸術的素養が芽生えた気がします、ね、宮本さん!

(カメラマン:宮本さん)はい。 

そういったオリジナル視点は、常に考えているんですか?

現在は仕事をしているので、自分の研究だけに時間は割けませんが、大学院にいるときは、毎日、考えていましたね。そして、なんとなくの疑問とか、浮かんだ視点は、ずっと書きためていました。例えば、源氏物語やシェイクスピアを研究している人なんて、世の中にゴマンといて、既に色々な意見があるので、抜け穴を見つけるのは難しいんですよ。私もなるべく、先行研究と呼ばれる、以前に書かれた論文や文献を読みつつ、「こういう議論もできるんじゃないか?」なんて、考えていました。

世の中にはインターネットもありますよね? 研究の際には活用されますか? 私はすぐにググっちゃうんですけど。

私もググりますよ(笑)。今はデジタル化が進んでいて、英国に行かないと見られなかったシェイクスピアの洗礼記録が、ネットでも確認できるくらいになっています。それに、研究材料は多いほど良いので、必ずしもググるのが悪いことだとは考えていません。ただ、逆に自分の論文を公開すると、誰かに盗用されてしまうこともあるので、それはそれで危険ですよね。

盗用って、どうしてバレるんですか? とんでもない数の論文がありますよね。よく見つけるよなぁ。

色んなシステムがあるんですけど、例えば私がいた英国の大学では、レポートをネットで提出すると、その論文が他の論文の内容と、どれくらい被っているかを調べるシステムがあるんです。それが50%とかになると、「コピペなんじゃないか?」なんて疑われます。そういうツールがいくつもあると思いますよ。それに専門家は、同じような学術誌や文献をたくさん読んでいますから、大体わかってしまいます。みなさんが専門分野にお詳しいのと同じですよ。

いえいえ、詳しいのはテレビドラマくらいですよ!

(カメラマン:宮本さん)僕は、カメラ機材かな。

では、本当に簡単でいいので、シェイクスピアの魅力を教えていただけますか?

はい。シェイクスピアは、現代の英語ではなくて、英国の初期近代の英語を使っているんです。ですので、読めば読むほど、英語の進化過程を知ることができます。シェイクスピアが発明した言葉はたくさんあって、例えば「さっぱりわかりません」は、「It’s all Greek to me」といいますが、一説ではそれは〈ジュリアス・シーザー〉という戯曲で初めて登場したといわれています。彼はそういった表現をいっぱい生み出しているんです。

へぇー。

あとは、〈ロミオとジュリエット〉〈リア王〉〈マクベス〉など、有名な戯曲がありますよね。話自体はゼロからシェイクスピアがつくったわけではなくて、民謡とか同時代の戯曲をもとにつくっていたりします。それを豊かに膨らませるというのが、シェイクスピアのすごいところです。普遍性のあるストーリーと登場人物のつくり込まれかたが格別なんです。マクベスが苦悩するシーンなんですけど、「出世したいし、上司が邪魔なんだよねぇ」なんて、現代人の苦悩にも通じる部分がある気がします。だから400年以上、読まれ続けているのでしょう。

ドクター菜緒子は、いつからシェイクスピアを好きになったんですか?

最初に知ったのは小学生のときです。オリヴィア・ハッセーが出ている映画『ロミオとジュリエット』を観たんです。

布施明の元奥様かぁ。すごく昔じゃないですか。

母が好きだったのかな? ロミオも格好良いし、素敵な話だなと思いました。そのあと、中学生になってから、『ウエスト・サイド・ストーリー』など、シェイクスピアの戯曲を元につくられた映画を観たんですね。『ライオンキング』も〈ハムレット〉を元にしているんですよ。それでどんどんシェイクスピアの世界にハマっていきました。

へぇー、いろんなところにシェイクスピアがあるんですね。『シド&ナンシー』も関係あるのかしら? パンク版『ロミオとジュリエット』って、いわれていましたけど。

あ、そうなんですか。今度、観ます!

さて、菜緒子さん。綾乃さんのメールにもありましたが、お嬢様なんですか?

いえいえ、お嬢様ではありませんよ(笑)。でも学校はそんな感じでした。

あら。どちらの学校ですか?

小学校から大学まで、ずっと○○○という女子校です。

100万点のお嬢様学校じゃないですか! おうちも都心のその辺ですか? 

いえいえ! 板橋です。高1のとき引っ越しましたけど。

どうしてこの学校に? ご両親のご意向ですか?

うちは3人姉妹でして、私がいちばん下なんです。かなりおっとりした性格で、鈍臭かったので、ここならいいんじゃないかと。長女も同じ学校に通っていたのですが、ここはゆったりしていて、ぼんやりした子でもOKな雰囲気だったんですね。公立とかに行っていたら、いじめられていたかもしれません。

ちっちゃい小学生でしょう? 板橋から、電車で通っていたんですか?

はい。朝6時半くらいには家を出ていました。地下鉄とJR、バスを乗り継いで通っていました。

電車のなかにいますよね、かしこそうな子供たち。菜緒子さんも制服着て、焦げ茶色のランドセル背負って?

焦げ茶色ではなかったですけど、そうですね、紋が入ったランドセル(笑)。

女子中、女子高っていうのはありましたけど、女子小学校のかたは初めてかもしれません。どんな感じでしたか?

本当にぼんやりしておりまして、あんまり小中の記憶はないんです(笑)。すいません、ほとんど覚えておりません。

どんだけぼんやりしていたんですか?

ただ毎日眠いみたいな(笑)。

じゃあ、どこから覚えています? 部活とかは?

ああ、その辺からは覚えております。中学から高校まで英語演劇部に入っていました。

ただの演劇部ではなくて、英語演劇部ですか! さすがお嬢の女子校って感じですね!

昔から母校にある有名な部活動なんです。中2のときに、そこで〈ロミオとジュリエット〉をやりました。私はすぐに死ぬ兵士の役だったんですけど、せっかくだから、そこで戯曲を読んでみたんですね。そのときは日本語のものだったんですけど、漠然と「これを英語で勉強できたら面白いんだろうなぁ」なんて思ったんです。もちろん、すぐそこから勉強したわけではありませんでしたが、ずっとその気持ちは残っていたのかもしれません。

では、中学、高校と、6年間演劇を?

はい。高3で1番いい役がもらえるので最後まで(笑)。でも結局は、だいたい大道具スタッフでした(笑)。

残念! オリヴィア・ハッセーにはなれなかったと。でも、英語演劇部ということは、英語で劇をやるんですよね。みんな喋れるものなんですか?

小学校から英語は必修なんです。それに帰国子女の子も多かったので、そういう子はいい役をもらえていましたね。私は、照明やら衣装やらを運んでいましたけど(笑)。

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