Who Are You?:酒井麻里さん(34歳)
ビール会社営業

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Who Are You?:酒井麻里さん(34歳) ビール会社営業

「すいません、ちょっと電話出ます……はい、いつもお世話になっております! はい、はい、はい、ざまあみろがございます。はい、よろしくお願いします!」

チャリンコ通勤中、前の人のお尻のポケットからタブレットが落ちそうになっていました。まずあの大きさのタブレットが入るポケットを搭載したズボンがすげえなぁ〜と思いつつ、「落ちるぞ、落ちるぞ」と走っていましたが、信号待ちで見たらビッグ財布でした。でもやっぱこの大きさの財布が入るのはすごい。そして財布の中には何を入れているのかな。

日々の生活の中で、私たちはたくさんの人たちとすれ違います。でもそんなすれ違った人たちの人生や生活を知る術なんて到底ありません。でも私も、あなたも、すれ違った人たちも、毎日を毎日過ごしています。これまでの毎日、そしてこれからの毎日。なにがあったのかな。なにが起るのかな。なにをしようとしているのかな。…気になりません?そんなすれ違った人たちにお話を聞いて参ります。

酒井麻里さん(さかい まり)さん (34歳):ビール会社営業

おはようございます!…ただいま午前10時。朝早くからすいません。この時間のインタビューは初めてです。眠たくありませんか?

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はい、大丈夫です。こちらこそ私の都合で申し訳ありません。午後から仕事でして…

あー、お昼からのお仕事なんですね。何をされているのですか?

ビール会社の営業をやっております。

だから午後からなんですね!居酒屋の仕込み中に行ったり…あー、でも最近はランチもやっている居酒屋とかあるから…

いえいえ、それは関係ありません(笑)。ただ今日は午後からなだけです。

スーパードライとか一番搾りとかを売ってるんですか?

いえ、そんな大手さんではなくて、静岡の伊豆に本社と醸造所があるのですが、クラフトビールの会社になります。

わ、お洒落なヤツですよね?でも今いちクラフトビールというのがわからないのですが。

ビール職人が、少量生産でこだわりを持って造っているビールのことです。

なんていうビールですか?

ベアードビールといいます。社長がアメリカ人でして、その社長の名字がベアードなんです。

アメリカの会社なのですか?

いえ、社長は日本人の女性と結婚して、ご夫婦で始めたんです。

へぇ〜、でも本社が静岡ですよね?酒井さんは東京営業所の方ですか?

私一人しかおりませんので営業所はありません。ですので、自宅が事務所みたいな感じなんです。

じゃあ、東京を一任されていると。

ビールの営業に関してはそうなのですが、 原宿中目黒、あと 横浜にうちのビールを提供する直営店があります。焼鳥屋とピザ屋、バーベキューです。

これまた、お洒落な焼鳥屋ですねぇ。赤提灯じゃなくて、旗があがってますねぇ。何がおすすめですか?

鶏とブルーチーズの春巻きです。

焼鳥じゃないじゃないですかー。でもビールに合うと。

はい、とっても。ぜひいらしてください。

酒井さんは、お酒好きなんですか?

はい、とっても。名字も酒の井戸です。

うまい!ではその酒豪人生をおうかがいします。ご出身はどちらですか?

東京の代々木八幡なのですが、一番長かったのは世田谷の成城です。

ムムッ!もしかして酒井さんち金持ちですか?

いえいえ、全然です(笑)。

どんなお子さんでした?

親友がいたんですけど、お互いの家で延々毎日遊んでいました。

何をして?

そうですね、その頃は…MCシスターとか見て…

MCシスター??

雑誌です。10代向けのファッション雑誌です。…ああ、懐かしい。MCシスターなんて言葉が出てくるなんて(笑)。

そうなんです。出るんですよ、今日は。ガンガン自分探しちゃってくださいね。その頃の憧れのモデルとか芸能人とかいました?

うーん…芸能人とかモデルではありませんが…ヴァネッサ・パラディとか。

アハハ!すきっ歯ちゃん!でもなんかやっぱ東京の子って感じがしますね。他に夢中になってたのは?音楽とかはどうですか?

うーん…「リアリティ・バイツ」のサントラとか聴いていました。

正解!って感じのお答えですね!さすがです。じゃあ、そのお友達とお買い物に行ったり。

そうですね、学校も私服でしたので、古着屋さん巡りしていました。

あ、私立の学校ですか?

はい、小学校、中学校と私服でした。自由な雰囲気だったので。

どちらの学校ですか?

和光学園です。

(と、ここで着信音)

すいません、ちょっと電話出ます…「はい、いつもお世話になっております!はい、はい、はい、ざまあみろがございます。はい、よろしくお願いします!」……すいません、お話の途中だったのに。

いえいえ。ビールの注文ですか?

はい。

あのー、ざまあみろって言いました?

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はい。ビールの名前です。

え?

うちの社長が付けたんです。他にも変な名前がたくさんありまして、「やばいやばい」とか「ばかやろう」とか「がんこ親父」とか。

もしかして、罰ゲームとかで飲むビールの会社ですか?

いえいえ、そんなことはありません。もうこれは社長の趣味みたいになっていて、本当に営業しづらいです(笑)。

楽しい会社ですね。やっぱそのユーモアの系譜は和光学園に通じるんじゃないですか?で、和光学園ってやっぱ自由なんですか?かなり不思議な学校だと聞きますが。

うーん、当時はそれが当たり前だと思っていましたが、まず私服で、髪の毛染めたり、ピアスもオッケーでした。

小学校で?

はい。

ほら、エグザイルのダンス教室通っているような子供たちいるじゃないですか。小学生なのにドレッドしてたり。あんな感じの子ばかりですか?

さすがに小学生でドレッドはいませんでしたが、中学ではいましたね。

へぇ〜!

でも実はハードな面もたくさんありました。山登りさせられたり、遠泳させられたり。

ああ、そういうのもあるんですね。チャラチャラしてるんじゃないと。個性を伸ばすってヤツだな。でも高校は和光ではないんですよね?なぜですか?

ちょっと自由な雰囲気に飽きたんです。普通ってどんなんだろう?って覗いてみたくなりましたし、制服も着てみたかった。

どちらの高校に?

関東国際高校というところです。

あれ?確かあの高校もちょっと変わった感じではありませんでしたっけ?

いえいえ、私の中では普通に感じました。

どんなところが?

まず制服があって、ピアスしちゃいけない、髪の毛は黒じゃないとダメ。

当たり前のことー。

あと授業中みんな座っていたり、手を上げて発言したり…

ちょっと和光ってどうなってたの!みんな勝手に話し出すんですか!?

そうですね、質問があると、みんな勝手に先生に話しかけていました。

じゃ、そんな普通の関東国際高校では、慣れるのが大変だったのでは?

大変でした。結局卒業まで慣れなかったかもしれません。和光の友達と遊んでましたし(笑)。

和光の子とどんな悪いことを?

何もしてません(笑)。ただ和光の男子も普通の女子に興味があったみたいで、関東国際の女の子を紹介したりしていました。

どこで?ファミレスとかですか?

下北沢のタウンホールです。あそこ、お茶がタダで飲めるんです。座れるし、冬は暖かいし、夏は涼しいし、飽きたら屋上にも行けますし、コンビニも近い。

恋の斡旋業はうまくいきましたか?

二組結婚したんです。和光と関東国際のカップル。

わー、それはすげえ!ちなみに酒井さんご自身は?

私も和光の男の子と付き合っていました。

どんなデートを?

クラブに行ったり、レコード屋に行ったり…タウンホールの向かいがディスクユニオンでしたし。

あ、音楽が好きだったんですね。どんなのを聴いていました?

小、中はバンドもので…

メロコア世代でしょ?

そうです、そうです、初めて行ったライヴがGREEN DAYでした。「子供たちだけじゃ危ない」って母親が一緒に付いてきてくれました。

やっぱ東京ってすごいなぁ〜。高校時代は?

ヒップホップとかも聴き始めました。

彼とは結構続いたんですか?

まぁまぁ続きましたが、「友達に戻ろっか」なんて感じで終わりになったことを覚えています。

ご自身が三組目になることはなかったんですね。さて、高校を卒業されてからはどうしましたか?大学ですか?

はい。桐朋学園大学です。

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あら、音楽大学ですね。GREEN DAYからここまできましたか。

そうですね(笑)。音楽は自分の生活の中で、かなり大きな部分を占めていました。

学部は?

短大の方なのですが、声楽科です。

どうしてその道を選んだのですか?

高校のとき、ちょっとピアノを習っていたんです。そのときの先生が「アナタ、大学どうするの?」って。常々「どうしようかな…勉強出来ないし…」って思っていたのですが、「ピアノはもう遅いから無理だけど、歌なら大丈夫よ」って薦めてくれたんです。

声楽科の受験ってどんなことをやるんですか?

歌の実技とピアノの実技、そして聴音…音を聴いて楽譜にします。あと新曲視唱…楽譜を渡されてその場で歌うんです。

大学生活はいかがでしたか?

もう、レッスン、レッスン、レッスン…の毎日で、本当に忙しかったです。先生は鬼のように怖かったですし。

では、華やかな女子大生ではなかったと。酒井さんも勉強ばかり?

そうですけど、でもやはり遊びたい。飲みに行きたい。

酒豪人生スタートしていたんですね。

でも試験の前は飲んじゃいけないし…

あ、声に出ちゃうから!

ええ。

でも日々の授業の中でもバレちゃいますよね?「アナタ、飲み過ぎでしょ」とか。

いえ、先生たちの前提では、「生徒は飲まない」ものなんです。それが当然だと。

(笑)。

あと、長電話もダメでしたし、夏でもタンクトップは禁止でしたし。とにかく温かくして、喉を守らなくてはいけなかったんです。

でもクラブで遊んでいたと。飲んでいたと。

はい(笑)。

まだヒップホップですか?

その頃はジャズとかも聴いていました。ジャズトロニックとかの時代ですね。…ああ、懐かしい。また出ました(笑)。

卒業後はどうされたんですか?

やはりまわりは音楽の先生になる人が多かったのですが、私は向いてないと思っていまして、でもこれでどうしたら就職できるのか?もわからなかったんです。それでもうちょっと歌の勉強をしたいと思って留学しました。

どちらへ?

アメリカのアイオワ州です。

む〜、すいません、ド田舎、ド真ん中、スリップノット…というイメージです。なんでアイオワに?

その頃はジャズボーカルを勉強していたのですが、アイオワにある音楽大学に、有名なジャズボーカルの先生がいたんです。それで入学したんですが、行ってみたら、その人がいなくて…

いない?先生が?

はい、まったくいませんでした(笑)。なんでそんなことがあるのかなぁ〜って思いながらも結局は通って。

(笑)。向こうの大学はいかがでしたか?

授業を受けた瞬間、「これはマズイ」と思いました。なぜならみんなド下手で。

ド下手?

はい、レベルがまったく違っていたんです。みんなとんでもなく音痴で(笑)。それでも英語の勉強にはなったので良かったとは思いますが。

でもMCシスター出身でしょ。ド田舎は耐えられなかったのでは?

そうですね(笑)。最初は楽しかったのですが、やはり耐えられなくなりました。町にひとつだけ映画館があるのですが、行くと音楽大学の生徒しかいないような町でしたし。それで1年弱でニューヨークに逃げました。電車もあって安心しました(笑)。

ニューヨークでも音楽の勉強を?

はい。でも受験はしていたのですが、今度は難しくて。ハードルが一気にあがったので、合格できなかったんです。でも授業の聴講は自由にできたので、そこに通いながら、小さな音楽事務所で働いたり、ハウスクリーニングの仕事をしたりしていました。

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ハウスクリーニングって、よく映画とかで見るアレですか?

はい、そうです。ペントハウスの掃除です。ニューヨークはお金持ちが多いので。

どれくらい貰えるんですか?

チップで100ドル…

チップだけで!!

はい(笑)。時給が70ドルくらいで、4時間くらいやるんです。ですので、結構な金額になります。

すげえ〜!あの人たち、家事しないのね。

しないです、しないです。終わったら「お疲れさま」って、高いワインを開けてくれたりするんです。

酒豪としてはたまらない仕事ですねぇ。それでニューヨークにはどれくらいたんですか?

結局4年いました。

帰国したきっかけは?

やはり「このままではマズイかなぁ」と思い始めたんですね。ニューヨークに住もうかと思いましたが、ビザの関係で仕事も見つけにくい。30歳も目の前でしたので、一度日本に帰ろうと決めました。

帰ってからのお仕事は?

やはり音楽が好きだったので、ラジオ局でアシスタントなどをしていました。

まだ、お酒より音楽が上回っていたんですね。どこから酒豪は本領発揮するのですか?

ちょうどラジオ時代に、ワインにハマってしまったんです。

それまでは何が好きだったんですか?

なんでも好きでしたが、ワインは絶対手に出してはいけないと思っていたんです。でも手を出してしまった。そしたらまんまとワイン中心の生活になってしまったんです。それで今度はワイン会社に入りました。

ビールも焼酎も叶わなかった音楽が遂に敗れたと。

はい(笑)。本当に美味しくて、美味しくて。それにワイン会社なので、勉強ということで、良いワインをたくさん飲むことができたんです。

勤務中も?

はい。テイスティングですから。

でも、あれって含むだけで、ペッって吐きますよね?

いえ、飲み込んでます。もったいない、もったいない。

アハハ!さすがうわばみですねぇ。でもその流れから、またビールに戻ったのですか?

ワイン会社でも営業をやっていたのですが、なかなか数字が伸びなくて、悩んでいたんです。そしたら、ある晩、お気に入りの立ち飲みワイン屋さんで一人飲みしながら、あーでもない、こーでもないって考えていたら、たまたま隣で飲んでいたのが、今の会社の偉い人だったんです。

おお〜来たぁ〜。

既に私もベアードビールのことは知っていましたし、「ばかやろうエール、私、好きですよー」なんて、話をしたんです。そしたら後日、立ち飲みワイン屋さんのオーナーから「ベアードビールの人が、仕事のことで話がしたいって言ってるよ」と。それでそこからトントンと進んで入社しました。

へぇ〜、やっぱ人生ってどうなるかわかりませんねぇ。ベアードビールに入られてどれくらいですか?

まだ1年です。

営業は大変ですか?

そうですね。でも元々とても素敵なお客さんだったり、ファンの方がついていたので、恵まれていると思います。

では、飛び込み営業とかは無い?

いえ、飛び込み営業もやっています。あとは、食事に行ったときに「この料理には合うな」と思ったら、その場で声をかけさせてもらったり…

冷たくあしらわれたことは?

あ、一回あります。ちょっと古めの酒屋さんだったのですが、「ココの棚をクラフトビールにしたら、若いお客さんがたくさんお越しになりますよ」って言ったら、「そんなこと言ったってねぇ、ウチはねぇ、もうねぇ、何やってもねぇ、ダメなんだよー!潰れそうなんだよー!!」って、おばちゃんに怒られました。「すいません…」って(笑)。

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ちなみにサイトには本当にたくさんのビールが載ってますよね。「ざまあみろ」やら「がんこ」やら、「アングリーボーイ」やら、数え切れないくらい。この味、全部頭の中に入っているんですか?

はい、入っています。

すげえ〜!やっぱワインの仕事が役に立ったと?

それもあるかもしれませんが、ワインはもっとたくさんありますし、たくさんのメーカーさんのワインを扱っていたんです。今は一つのメーカーのみのビールですから、ベーシックな部分は同じ。ですので、ワインに比べても覚えやすいと思います。ただ、ちょっとうちのビールの楽しみ方は、ワインに近いかもしれません。季節や料理に合わせて、限定物を造ったりしているんです。例えば今は冬なので、アルコール度数高めの限定品を出しています。

この「わびさびビール」ってなんですか?

わさびと緑茶が入っています。

ええーっ!!やっぱビックリドッキリビール会社でしょ!

いえいえ、本当に美味しいんですよ(笑)。わさびなんで、職人さんはゴーグル付けて造っています。

あのね、私スーパードライしか飲まないんです。それ以外は、ほぼ飲まないです。地ビールとかも結構苦手でして。そんな私が「わびさび」イケます?

イケますよー。失礼ですが、これまで美味しいクラフトビールを飲んだことがないと思われます。

う…。あと本当に美味しいビールって、冷やさないでも美味しいっていうじゃないですか?ホントですか?

はい。日本ではグラスまでキンキンに冷やしますが、そこまで冷やさなくても本当に美味しく飲めるんです。適温があるんです。

でもお客さんから苦情とか来ません?「なんで冷えてないんだー!!」って。私は言うと思う。必ず言うと思う。

最初はあったかもしれませんが、最近はお客さまの意識も高くなられているので、それもほとんど無いんです。

赤提灯とは違うんですね…。あとね、あとね、私、生ビールもダメなんです。ホラ、店によって、臭かったり、不味かったりするじゃないですか。あれに当たったときの大ショックといったら!!絶対瓶ビールを頼みます。

それはお店がよろしくありません。きちんとビールサーバーのお掃除をしていないんです。……ああ、もう騙されたと思って、今度うちのを飲んでみてください!!掃除もピッカピカにしていますし!!

わかりました、わかりました。さすが営業さん。そこまで言うなら飲みますよ、飲みますって。

こちらの事務所にもサーバー置けますよ。お掃除講習も付いてますので、ぜひ!

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