悪役商会みたいな方が電車にいらっしゃったんですが、スマホを眺めながら滅茶苦茶ニコニコしていました。「お孫さんの写真でも見てるのかな。目に入れても〜ってヤツだな」と思いきや、私の目に入ってきたのは『探偵ナイトスクープ』でした。竹山探偵のなんかでした。それはそれでとても素敵ですよね。

日々の生活の中で、私たちはたくさんの人たちとすれ違います。でもそんなすれ違った人たちの人生や生活を知る術なんて到底ありません。でも私も、あなたも、すれ違った人たちも、毎日を毎日過ごしています。これまでの毎日、そしてこれからの毎日。なにがあったのかな。なにが起るのかな。なにをしようとしているのかな。…気になりません?そんなすれ違った人たちにお話を聞いて参ります。

渡邊天磨(わたなべ てんま)さん 25歳:会社員 

本日はよろしくお願い致します。

よろしくお願い致します。

スーツ姿、お似合いですね。スラッとしてらっしゃるし。

すいません、仕事帰りなんです。

どんなお仕事をされているんですか?

えっとコンサルタントです。

なにをコンサルティングしているんですか?

物件探しとリノベーションのコンサルティングをしています。

かっこよさそうですね。具体的にお願い致します。

はい。簡単に言うと、中古のマンションを探しているお客様がいます。その方は、お部屋の改修も望んでらっしゃいます。そこでご相談を受けて、物件探しとお部屋の設計、そして改修工事までを一緒に進めて、「お客さま、お部屋完成です。おめでとうございます」というところまでやる仕事です。

とてもわかりやすいご説明。要するにすべてお任せくださいってヤツですね。

はい。お客様のご要望を聞いて、築何年くらいのマンションがいいのか、予算はいくらが妥当なのか、どの沿線に住みたいのか、そういったご相談から始めるんです。

カッケー! そういった情報が渡邊さんの頭のなかには全部詰まっているんですね! ちょっとやってみましょう。「すいません、マンションを購入したいんですけど」

あ…はい。「渡邊と申します。本日はよろしくお願いします。」

「人生、初マンションなんですよ。どの辺がいいんでしょう?」

「そうですねー…」

「はい」

…すいません、実は僕まだ新入社員でして。この前、研修が終わって、配属部署も決まったのですが、まだお客さまの前に立った経験がございません。

アハハハ! なんかごめんなさい。

いえ、こちらこそすいません。今は先輩にくっついて、ひたすらメモを取る日々です。

ピチピチなんですね! どうですか、社会人生活は?

楽しい8割、辛い2割くらいでしょうか。

あら、楽しいが結構多い。

最近までは、楽しいが10割だったんですけど、ちょっと怒られることが多くなってきたので、2割減りました。

なんで怒られているんですか?

僕がダメなので怒られています。本当は3か月前には独り立ちしてたはずなんですけど、社会人というのがどうも苦手で、まだ旅立っていません。

なんか可愛いですね。どんなことで怒られるんですか?

えっと、初めは服装でした。

服装って(笑)。だってスーツが基本でしょ? 怒られようがないと思うんですけど。

Vネックで出勤したり、黒いYシャツを着たり。「なんでホストみたいな格好してるんだ!」って注意されました。

お客さん商売ですからね。

スーツも1種類しか持っていなかったんですけど、「それじゃ2日連続で同じお客さん接客できないだろ」って。今はグレーと紺の2種類を持っています。

ネクタイは?

先輩がたくさんくれました。5本くらい。

やっぱ可愛いですね。服装以外で怒られたことは?

何人にも同じメールを送ってたら、お客様のお名前を間違えました。「あなたは信用できない」と言われて結構ヘコみました。以後、コピペには細心の注意を払っています。

はい(笑)。では今は、先輩にくっついて外回りをしていると。

土日はそうですね。

あ、土日も出勤なんですか。

はい。お客さんの休みに合わせているので、僕は火水休みです。

お休みの日は、なにをしているんですか?

来月引っ越すので、最近は、物件探しをしていました。

お休みも探してらっしゃる(笑)。今はご実家ですか?

いえ、実家は北海道です。去年の4月に上京したんですけど、今は千歳烏山に住んでいます。

つい最近じゃないですか。なんで引っ越すんですか?

シェアハウスなんですけど、ちょっと合わなかったですね。

あらー、なんで?

リビングルームで読書をしていると、隣でパーティーが始まるんです。「こっちにおいでよ!」「なんで参加しないの!?」とか。僕は本を読みたいんです(笑)。

なるほど(笑)。

2、3人で楽しくするのはいいんですけど、ちょっと大人数なんで。

そのハウスは、何人がシェアしているんですか?

えっと80人くらいです。

ええ! それってもう寮みたいなもんじゃないですか!

そうですね。建物が2棟あって、渡り廊下でつながっているんです。人が多いですし、それにちょっと飽きてきたので、刺激を求めて引っ越しを決めました。

いい物件は見つかりましたか?

実はおととい決めまして。

おお! おめでとうございます! どちらですか?

中野です。

どんな間取りなのですか? ワンルーム?

ワンルーム…というか、和室です。6畳。すごく雰囲気いいんですよ! 築51年です。

え? お風呂ついているんですか?

付いていません。

トイレは?

あります。でも和式です。

キッチンは?

コンロの置き場所はありますけど、僕は置きません。ガスは使いませんので。料理をしないので、水が飲めて、歯磨きできればいいです。

いやいやいや、お風呂もないんでしょ。冬は絶対キツイですよ。流しで髪の毛も洗えませんよ。

学生時代もガスは使っていませんでした。お水を電子レンジでチンすればお湯になるんですよ。電気さえあれば生きていけることを知っています。

なんでそんなお部屋にしたんですか?

刺激を求めていましたので。ですから、風呂無しは必須、できれば和式トイレで検索していました。

普通は、できれば洋式トイレでしょ。さらにいうと、できればウォシュレットとか。

和式のほうが、踏ん張るので、腸にいいらしいですよ。

はぁ(笑)。

はい。

ご実家は北海道のどちらなんですか?

実家は旭川です。高校までそこにいて、大学から札幌です。

寒いんでしょうねえ。

おっしゃる通りです。旭川は、札幌より5度くらい低いです。

雪も多いんですか?

はい。札幌だと雪でもチャリ移動できるんですが、旭川は無理ですね。

今年は東京でも大雪の日がありましたけど、あんなの日常茶飯事ですか?

いえ、札幌でもあんなに降る日はあんまりありません。ただ、札幌は風が強いですね。

さっきから札幌を連呼されていますが、旭川は好きじゃないんですか?

すいません(笑)。旭川時代は、あまり楽しくありませんでした。小学校はまだ良かったんですけど、中高は本当に記憶がございません。

あらー、なんで(笑)?

うーん、なんていいましょう。自分というものをよくわかっていなかったのかもしれません。大学時代からは自分らしく生きていけるようになりました。それまではずっと〈無口〉っていわれていました。

あだ名が〈無口〉ですか(笑)?

いえ、違います(笑)。あだ名は、〈てんてん〉です。

「今日、てんてん、喋ってたよ!」「俺も観た!」みたいな?

「ああ、笑った、笑った!」みたいな(笑)。

中学で部活とかしていなかったんですか?

バドミントン部に入りましたが、いやー、本当に楽しくなかったです。辛かったです。試合に負けたら、歌を歌わなきゃいけないとか。

なんですか、それ?

顧問の先生の命令で。

てんてんは、なにを歌ったのですか?

すいません、まったく覚えていないのですが、15秒くらいしかない短い曲を調べておいて、それを早口で歌った記憶があります。ポップス系でした。

そんな辛い中学時代でも、好きな子はいたでしょ?

はい。いました。1年生のときに席が隣だったナツキちゃんです。もう可愛くて、可愛いかったですね。覚えているのは、僕たちのどっちかが社会の地図を忘れたので、机をくっつけて一緒に見たことです。1番の思い出ですね。

可愛いですね!

あとは塾での思い出もあります。夏期講習のときのナツキちゃんも可愛いんですよ。

はい。

うちの中学、いつもは紺のブレザーなんですけど、文化祭のときのナツキちゃんは山吹色のトレーナーを着ていたんです。それから山吹色が好きになりました。

ふーん。ナツキちゃんと喋ったりは?

いえ、それは。

ああ、そうか。無口クンでしたものね。

でも高校も一緒だったんですよ!

まだ続きますか。

はい。クラスは別々だったんですけど、ナツキちゃんの仲が良い友達が僕のクラスにいたんです。ですから、いつも4組からこっちの1組に来て一緒にお昼ゴハンを食べていたんです。斜め後ろくらいに、ナツキちゃんとその友達がいて。

斜め後ろだったら、ナツキちゃん見えないでしょ。

見えないんですけど、会話は聞こえますので。

てんてんは耳をデカくしながら、なにを食べていたんですか?

購買のかき揚げ弁当ですね。安くて美味しいんですよ。

かき揚げ弁当を食いながら、なにを考えていたんですか?

ナツキちゃん、もしかしたら僕に会うために、1組に来てるのかな?って。

アハハ!!

あとナツキちゃんの家が通学路だったんです。ですから自転車で家の前を通るときは、少しスピードをゆるめて2階の部屋をチラ見していました。「ああ、明かりついてるなぁ」って。

家の場所も知ってたのか! でも高校生でしょ。悶々としたものは、どうしていたんですか? AVを観たり?

親と弟が寝た後に勉強するふりして深夜番組を見たり、週刊少年ジャンプのそういうシーンを模写したりしてました。でも付き合うってことはよくわかりませんでした。ですので、高校時代は、勉強と部活ばかりやっていました。

部活はなにをしていたんですか?

陸上部です。三段跳びをやっていました。高3のときは、インターハイにも出たんですよ。

わー、すごい!! じゃあ練習ばかり?

そうですね。ですから、女性とはなにもありませんでした。今考えると悔やんでいます。

高校時代を取り返せるとしたら、どうしたいですか?

話しかけたいです。ナツキちゃんに(笑)。

でもいよいよ大学です! とても楽しい大学生活を札幌で送られたんですよね?

そうですね(笑)。

どちらの大学に?

北海道大学です。

超優秀じゃないですか!

ナツキちゃんもいました。

まだ続くんですか!

はい(笑)。学部は違いましたけど。僕は建築系、ナツキちゃんは薬系でした。

ナツキちゃんとは、なにかあったんですか? ここまで来たんだから、なにかしないと。

さすがに50クラスくらいあったので、なかなか顔を合わせる機会はなかったのですが、1年のときにあるものが流行りまして。

なんですか?

Facebookです。

アハハハ!!

そこでナツキちゃんとメッセンジャーのやりとりが始まりました。

おおー!! 後ろ斜めから進歩しましたね! 

心理テストをしてあげたんですよ。そしたら、顔文字、絵文字をめっちゃ入れて返事をくれるんです。可愛かったです。

そっから先は?

すいません、そっから先はなにもありません。デジタル上ですけどナツキちゃんと話せた。これがピークです。

もうナツキちゃんは出て来ませんか?

はい、これで終わりです。ありがとうございました。