カルレス・プジョル(Carles Puyol Saforcada)/via Wikimedia Commons

サッカー選手たちは、普段どんな音楽を聴いているのだろうか。QUEENの「伝説のチャンピオン(We Are The Champions)」を聴いて試合に勝利したヴィジョンを描き、エミネム(Eminem)で試合前に自身を奮い立たせているイメージを勝手に抱いていた。しかし、元サッカー選手のカルレス・プジョル(Carles Puyol Saforcada)がNAPALM DEATHやCANNIBAL CORPSEなどのバンドを好んで聴いているのを知って、驚いてしまった。サッカー選手がNAPALM DEATHを聴いているのが嬉しかった。

プジョルは、好きなバンドを公言した。それは、好きなバンドのTシャツを着るのと同じく、対象となるバンドを背負う行為だ。例えば、街なかで、NAPALM DEATHのTシャツを着た輩が乱暴狼藉をはたらけば、NAPALM DEATHのファンは行儀が悪い、という印象を世間に与え、ひいては、バンドのイメージ・ダウンにもつながる。そう考えると、プジョルはNAPALM DEATHのイメージ・アップに貢献する、貴重なNAPALM DEATHサポーターだ。

〈バルサの闘将〉の異名を持つプジョルの風貌は、確かに、NAPALM DEATHを連想させる。サッカー選手らしからぬ、くるくるのロングヘアーは異彩を放っており、ラモス瑠偉のそれとは、明らかにヴァイヴスが違う。リー・ドリアン(Lee Dorrian)ではなく、プジョルがNAPALM DEATHのヴォーカルだったとしても違和感がないくらいだ。そんな彼は、ディフェンダーであり、リーダーシップと熱いプレースタイルで、チームメイトから強い信頼を得ていた。惜しまれながら、2014年に36歳で引退するまでの、NAPALM DEATHに通じるエクストリームなエピソードは数知れない。

プジョルはサッカーに並々ならぬ情熱を注いでいた。彼は、バルサのキャプテンを務めながら、決して自らの力に満足したそぶりは見せず、現役引退まで向上心を捨てなかったという。加えて、自チームの選手がシュートを決め、ダンスを披露すると、「相手チームとファンに失礼だぞ」と止めに入ってしまうほどの熱血漢だ。そんな彼は、シュートを決めると、手でハートマークをつくって恋人にアピールしていた。

プジョルとNAPALM DEATHを語るのに、対マジョルカ戦は外せない。マジョルカのセルヒオ・マルティネス・バジェステロス(Sergio Martínez Ballesteros)が危険なファウルを繰り返し、退場を宣告された。不満をぶちまけ、暴れるバジェステロスを、なだめに向かったのは…もうおわかりだろう、プジョルだ。当時の映像を見ると、バジェステロスの行動に唖然とする。なんと、寄り添うプジョルの頬を「パチッ」と張ったのだ。これに怒ったロナウジーニョ(Ronaldinho)がバジェステロスに詰め寄るが、プジョルはそれを制し、笑顔で受け流してみせた。この試合前に、プジョルがNAPALM DEATHを聴いていた、と想像するとゾクゾクしてしまう。

NAPALM DEATH/Foto via Steve Leggat

いまさらだが、NAPALM DEATHは、結成以来、メンバーチェンジを繰り返し、オリジナル・メンバー不在ながら現在も活動を続ける、音楽もアティテュードもエクストリームなバンドだ。2012年、東日本大震災で甚大な被害を気に病んだ彼らは、少しでもみんなの役に立てれば、と東北地方をツアーした。2014年の来日では、『YOUは何しに日本へ?』に出演。彼らは空港で、アカペラの「You Suffer」を披露し、日本のお茶の間に究極のグラインド・コアを轟かせた。長いキャリア、度重なるメンバーチェンジの影響からか、音楽性は常に変化しているが、とっさに「You Suffer」が飛び出すとなると、根底に流れるアティテュードは変わっていないのだろう。

初期NAPALM DEATHの荒削りさと同質か否かはさておき、キャリア初期のプジョルは、荒削りなプレイが目立つ、ファンの失笑を買ってしまうこともある選手だった。足は速いがドタバタした走り方で、パスのミスも少なくなかった。しかし、並の選手が自らのミスで、ファンに失笑されたら、照れ笑いで誤魔化したりもするが、いっさいおちゃらけないのがプジョルだ。チームメイトが「残り時間も少ないし、もう勝てない」と諦めてしまうような状況でも、彼は、全力でボールに向かって突っ走る。ミック・ハリス(Mick J Harris)のドラムにも引けをとらないプジョルのプレー・スタイルは、ナパーム・デスの『Scum』よろしく、小細工なしだ。しかし、彼のプレイは、決してスカムではない。

そんなNAPALM DEATHのブラスト・ビートは、ときにスポーツ的でもある。また、〈NAPALM DEATH〉というバンド名が脈々と受け継がれているのも、スポーツ・チームのあり方と重なる。私のなかで、NAPALM DEATHとプジョルの結びつきがどんどん強くなる。

プジョルほど、汗と泥とNAPALM DEATHが似合う選手を、私は知らない。余計な失言や暴言とも無縁で、どこまでも不器用でまっすぐな姿勢からは、NAPALM DEATHの演奏時間わずか1.316秒の「You Suffer」のような潔さも感じられる。彼は、歯を食い縛っていたのだろう。

NAPALM DEATHの「You Suffer」同様、現役を退いても、ハートマークのプジョル節は健在だ。彼は、妻でモデルのヴァネッサ・ロレンソ(Vanesa Lorenzo)とのヨガ風景をInstagramで公開している。蛇足ながら、2014年、ヴァネッサとの間に長女を授かった。プジョルとNAPALM DEATHの遺伝子は、長女にいかなる影響を与えるのだろうか…

プジョル以外のサッカー選手では、マンチェスター・ユナイテッド所属のダビド・デ・ヘア(David de Gea Quintana)がNAPALM DEATH、SLAYER好きを公言している。それでも、NAPALM DEATHを聴くサッカー選手というのは、私が調べたところ、極めて少ない。ベッカム、ネイマール、ロナウジーニョ、闘莉王、カーン…サッカー選手の好きなアーティストを調べたが、エクストリームなバンドの名前は見当たらない。多くの選手がヒップホップや地元のポップスターを好んで聴いている。

プジョルについて調べるうちに、音楽の趣味嗜好がスポーツ選手のプレースタイルに、少なからず影響を及ぼしている気がしてきた。プジョルのプレースタイル、アティチュード、他の選手の音楽趣味を知ると、私のなかで、プジョルとNAPALM DEATHが完全にリンクしてしまう。彼がヤギを飼っているのも、NAPALM DEATHと関係があるのだろうか。そうだとすれば、彼の素顔にますます興味がわく。サッカー選手が、NAPALM DEATHのようなエクストリーム・ミュージックを聴くのは意外だ、と驚いたのは偏見だった。サッカーとNAPALM DEATHを切り離してしまっていたのは、私だった。サッカーに限らず、スポーツに関心のない音楽ファンは、〈自分と同じアーティストやミュージシャンを好きなスポーツ選手〉を探して応援するのも、新たなスポーツの楽しみ方かもしれない。音楽を感じさせてくれるスポーツ選手がいたら、きっと、ファンになってしまうはずだ。